第13話「3月21日」
カタチあるものを探していた。
秋晴れの空の下、誰もいない校舎で一人、俺はたたずんでいた。夏休みも終わり部活をやっていたものを含めて殆どの中学生は志望校の向けて受験勉強を始めていた。
ノコルモノを探していた。
思い出す。コン、と打ちあがったピッチャーフライ。誰もが取れると思っていた。俺もそう思っていた。ピッチャーである平野、あいつもそう思っていただろう。
探し続けて残ったモノは何もなかった。
小学生の頃から続けていた野球はあいつの中でその時死んだのだろう。先輩や監督
からの暴言暴力すらも意に介さず、死んだようにマウンドの上で膝をついていた。
本当は探してなどいなくて、求めていただけだったのかもしれない。
それから平野は中学校にも来なくなり、野球部からも遠ざかっていった。不良と噂
される先輩とつるむようになり、夜の街を歩く姿がたびたび見かけられた。
それでもそれしかなかった。
だからああなるのも仕方がなかったのだろう。先輩と二人でバイクにまたがり幹線
道路を走り抜け、法に縛られた速度を踏み越え一瞬で風となった。
だから何も残らなかった。
今日はあいつの母親から頼まれて学校においてある荷物を取りに来た。彼の母親は取りに行くのもできない程憔悴していた様子であった。無理もない。
振り返った道に何かが見えた。
机の上をそっとなでる。恐らく授業中にコンパスで傷つけられた跡がカリカリと掌をに感じられる。ふと恐らく何か文字が彫られているようで手を外した。
それは求めていたものでは到底なかったけど
それは恐らく野球部に入った頃の決意だったのだろう。未熟ながらも思いと将来が
込められた文であり、見たものは全員ほほえましくて顔が緩むであろう。
それは確かに「カタチ」があった
「諦めずに頑張る!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます