第3話「3月10日」

ここはロボットの製造販売を行う大手メーカー。今日は新しい人材を獲得するため、

採用試験を行っているところである。

コンコンとドアがノックされる。面接試験を受けに来た学生が来たのだろう。

採用担当は面接にあたり不備がないかどうかを確認してドア向こうに声をかけた。

「どうぞ」

「失礼します」

その声は抑揚がなく例えると透明な声であった。すぅっと音もなく自動ドアが右から左へ開け放たれる。そしてドアと同じく歩行音を立てずに何者かが入ってきた。

ロボットである。

彼はそのまま採用担当達の前に置かれている椅子の横にこれまた音もなく移動して

きた。そして採用担当の者に向かい合う。

人間ではなくロボットが来ていることに対して特に面接官たちは気にしていない様子だ。

「それではお座りください」

「失礼します」

無機質なトーンのまま先ほどと同じような声を挙げ着席した。

「それでは自己紹介を行ってください」

「はい。○○大学からきました。田中律人と申します。趣味はバイクロボを走らせて旅行させることです。大学時代では同じバイクロボに興味がある仲間を集め、

ツーリングさせている様子をモニタで鑑賞することを頻繁に行っていました。

ツーリング中には数多くの労働ロボットに出会い話しかけさせた為、対人能力に関して私が所有するロボットに勝る者はいないと考えております。御社にこの対人能力が高いロボットを派遣し、会社内でも深いコミュニケーションを取ろせようと考えて

おります」

自己紹介を述べられた面接官たちはフムフムと頷いている。その中で一人の採用担当が声を挙げた。

「ツーリングは主にどこへ行こうと思いましたか」

「それは天気ロボと交通ロボ、そして占いロボに緻密に計算させたうえで、最もロボットに出会いそうな地域を選びました。ですので自分で目的地を決めたことが

ありません」

おお、と歓声が上がる。どうやら面接官たちの印象は良さそうだ。

そしてつつがなく面接は進行していき、そろそろ終わりに差し掛かった頃だった。

「それでは当社に何かご質問はありますか」

面接に来たロボは少し言いづらそうに顔を一瞬俯けたが、ふっと顔を上げ話を切り

出した。


「面接官ロボット様はどういったオイルを使われておりますか」

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