第12話

 彼は、見た目も言動も少し幼く見える。

なぜ、2歳年下と思ったのか不思議なくらいだ。

☗2六歩 ☖3四歩 ☗7六歩

どうやら彼は居飛車党らしい。


 正確な根拠があるわけないが3四歩に7六歩とする人はある程度将棋の定跡を知っているといる勝手なイメージがある。

その盤をみつめる真っ直ぐな瞳はよりそのイメージを強くした。

いい試合ができそうだ。


☖4四歩 ☗2五歩 ☖3三角 ☗4八銀 ☖4二飛

 僕は得意な四間飛車に無事に組むことができた。

後は冷静に差すだけだ。

☗6八玉 ☖9五歩 ☗5六歩 ☖3二銀 ☗7八玉 ☖6二玉 ☗7七角

 どうやら彼は持久戦で来るらしい美濃か?いややっぱり穴熊だろう。

今や将棋会は空前絶後の穴熊ブームだ。

 その勢いはプロの試合のみならずアマの試合でもよく見られる。

その根本的な部分にあるのは子供たちからの支持率の高さだ。

多少間違えても何とかできるところや、子供達の持久戦への苦手意識がそうしているのだろう。

けれど、それは僕も同じだ。

☖7二銀 ☗8八玉 ☖7一玉 ☗9八香 ☖9五歩 ☗9九玉 ☖5二金左 ☗8八銀 ☖6四歩

☗5七銀 ☖7四歩 ☗7九金 ☖7三桂 ☗6八角 ☖4五歩

 僕は藤井システムを匂わせながら駒組を進める。

 ちなみに僕は藤井システムについては知識は本でざっくり読んだ程度しかない。

けれど、それを相手がそれを知る訳がない。

アマの将棋には多少の心理戦がある。

☗6六銀 ☖8四歩 ☗5九金 ☖3三銀 ☗5五銀 ☖6五歩

強い

 大抵の子供達は銀で陣形を乱すよりも離れている金を寄せるはずだ。

少し大人っぽく見えたのは妙な落ち着きがあるからだろうか?



☗6九金右 ☖6三銀 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同角 ☖2二飛 ☗2五歩打 ☖7二玉 ☗3六歩 ☖5四歩 ☗3三角成 ☖同桂 ☗6四銀 ☖同銀 ☗3一角打 ☖2一飛 ☗6四角成 ☖6三銀打ち ☗3七馬 ☖2五桂 ☗7八金右 ☖3九角打ち ☗2七飛 ☖2四歩打 ☗2六馬 ☖5七角成 ☗3七桂 ☖5六馬 ☗3五歩 ☖9六歩 ☗同歩 ☖9七歩打 ☗同香 ☖6六歩 ☗5七歩打 ☖6七馬 ☗6四歩打 ☖同銀 ☗3四歩 ☖同銀 ☗6七金 ☖同歩成 ☗6八歩打ち ☖6六歩打 ☗4四馬 ☖4三金打 ☗3二角打 ☖6八と ☗同金 ☖6七歩成 ☗2一角成 ☖6八と ☗1一馬 ☖7八金打 ☗3一馬 ☖5三金 ☗2五桂 ☖同銀 ☗5六桂打 ☖5五ぎん ☗2八飛 ☖6二金 ☗4一飛打 ☖6一歩打 ☗6四香成 ☖同金 ☗6四歩打 ☖同金 ☗同桂 ☖同銀 ☗5六桂打 ☖5二桂打 ☗5一銀打 ☖6五銀 ☗6八飛 ☖同金 ☗6二銀成 ☖同金 ☗6三歩打 ☖同金 ☗4二馬 ☖6二金 ☗5二馬 ☖同金 ☗6四桂打 まで126手後手投了




 126手まで粘ったが結局負けてしまった。

 最後は穴熊の暴力が続いたが、やっぱり穴熊は強い

気づけば、周りには小さい子供達が盤を眺めていた。

僕も男の子も長期戦に凝った体を伸ばす。

 疲れから感想戦は手短に済ませ僕は早々に席を離れようとしたが、

そばから1人の男性が声をかけてくる。

「感想戦それだけ?あともう2局指してみて」

どうやら目の前の男の子の父親らしい

 男の子がたじたじと言葉をつなげ感想戦をしながら、駒を並べなおす。

2局目は四間飛車対棒銀

3局目は四間飛車対左銀急戦

両方ともいい試合でなんとか勝つことができた。

 恐らく棋力が近いのだろう。

 棋力が低くて近いときに結果を左右するのが戦法の相性だ。

 棋力が高い人はそれを研究や実力で埋めるが、どうしても弱いうちは不利有利が戦局を左右してしまう。

さっきの男の子はさっさと駒を並べなおしてどこかへ行ってしまった。

僕も急いで駒をかたずける。


緊張が途切れたからだろうかいきなり疲れがどっと来る。

まだ時間的には早いはずだが僕は帰ることにした。

レジ整理していた店主が僕に気づいた。

 帰り際店主は僕に声をかける。

「あぁちょっとまってこれ持って行って」

そういってレジのそばにあった白い紙を僕に渡す

「なんですかこれ?」

「将棋の大会の広告2週間後にあるから。あっちなみに来週くる?」

将棋大会。

そう言われれば自分の実力がわからないから考えたこと無かったけど楽しそうだな

紙には開催場所や時間などがかかれていた

「来週きますよ。大会面白そうですね。」

そういうと店主は少し考え事をして思い出したかのように話を続ける。

「それじゃ来週まってるよ教えなきゃいけないことがあるから」


 僕は軽く挨拶をして店を出る

あー大会で優勝しないかななんて想像をしながら帰る

ふと上を眺めるともう既に暮れていた。

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