蓮水 サラハ

「蓮さん。今のって妹さんですか?」

 本部前で白水とあった時、横にいた赤羽が質問してきた。赤羽はまだ目で白水を追っている。

 それに対して、私が答えるより前に古株の大峰さんが先に答えた。

「いや、蓮に妹はいなかったはずだぞ。弟は聞いたことあるが」

 大峰さんは私が入りたての頃の先輩だったので、自分の出身のことも色々話してある。

「峰さん、その通りです。赤羽、あれは故郷の知り合いだ」

「え、でもさっき『ちゃんと起きたか』みたいなこと……」

 数秒黙った後、赤羽はなにかを勘違いしたらしく、にやにやしてこちらを向いた。

「蓮さん、彼女いたんですね」

 そんな事だと思った。

「赤羽、勘違いだ。あれは村の時の親友だ。昨日は宿に泊まるのも何だから泊めただけだ」

「そんなこと言っちゃって。ちゃんとやることやっってるんじゃないですか?」

 赤羽が面白がって私をからかってくる。こいつ、格下のくせして……。

「断じてない。部屋を貸しただけだ」

「なんだ、それだけですか」

 赤羽の興奮した口ぶりが一瞬で冷めた。他人の恋愛事情で喜んだりがっかりしたり。男子には分からん気持ちだ。


 き組は、と言うか組の中でも別々に行動するとこが多いところは、班や隊で更に分けたところが多い。私が一緒に行動する隊である三番隊は、五人で構成された隊だ。

 その構成は、高等が私と大峰さんの二人、中等にトリガー、一般に紅一点の赤羽がいる。

 私達の隊は、柔軟にかつ確実に仕事ができる構成になっている。その理由としては、第一に赤羽。仕事をこなす上で、戦闘は避けられない護衛職には女の人は貴重な人材だった。もし護衛の対象に女性や子供がいた場合、対象に負担をかけずに手の届くところに彼女を置くことができた。赤羽は、先月までこの班にいなかったが、とある仕事で三番隊の一人が殉死したため、その穴埋めで配属された。

 第二にトリガー。名前の通り、外国人だ。彼の故郷は『サラハ』と言う鳥の国の東に位置する国だ。

 実はここ十数年、その隣国のサラハと鳥の国は、戦争すれすれのいがみ合いが続いている。そんな状態の中、故郷の言語も話せる彼は、やむなくサラハを通らなければならなかったり、サラハに用があるときにかなり役に立った。彼は、私より数年年上だ。

 この二つが大きな理由だが、戦闘慣れした者が多いことも三つ目に上がることもできる。村で死にそうなほど稽古をして戦闘における術を学習し尽くした私は言うまでもなく、それに手練れの大峰さんが加わることで、護衛の失敗はまずあり得なかった。

 私は今回の依頼の書いた紙を今一度見てみた。

「今日の依頼、もうみんな読んだよな」

 私は三人に聞いてみた。

「はい、私まだ確認してない」

 赤羽が挙手した。

「またか。明日からはちゃんと本部のうちに読んだけよ。一回読むから覚えて。

依頼者は政治家の雲流。護衛対象は物らしい。目的は、指定の場所でそれを受け取り、宮殿前まで損傷なく運び込むこと。指定の場所はサラハのピサ川下流。下流にあるたき火が目印らしい」

「またサラハですか。最近その雲流って人からよく依頼が来ますよね。トリガーさん、出番ですね」

 話を振られて、トリガーはため息をついた。

「勘弁してほしいよまったく。ただでさえあったの人たち性格キツくて大変なのに、誰かに変わってほしいよ。赤羽、どう? サラハ語教えてやるから変わってくれよ」

「いやですよ」

 サラハでの仕事は、トリガーへの負担が大きかった。サラハと鳥の国の隣接した所は、常に緊迫した状態のため盗賊がまるでいなく、護衛としての仕事は楽だが、トリガーがサラハの言語が唯一話せる物なので、サラハの人と話すことは一任してある。トリガー曰く、サラハの人たちは無愛想で気持ちを害するらしい。

「それにしてもこの政治家、絶対黒だよ。毎月毎月俺たちをあっちに向かわせてさ。宮殿の奴らは何でこんなの野放しにしてるんだよ。こんなんじゃあっちに国の内情だだ漏れでもおかしくないよ」

 トリガーがそう思うのもおかしくない。自分がここ来た頃から、サラハに用がある者なんて、この雲流とやらだけだ。それも、サラハの人たちは、雲流の依頼で来たと私たちが告げるだけでやすやすと領地に入れてくれる。

 それに対して、大峰さんが唸る。

「トリガーが言うことはもっともだが、こやつが確実に黒だという証拠もないからな。しかも、今までの依頼品は特に他の政治家の依頼と大して変わらん中身だしな。前回はなんだったかな」

 赤羽がそれに答えた。

「剥製ですよ。虎の剥製。恐らく、そう言う類の収集家なんでしょうね。前々回は象牙と蝶の標本でしたし」

「そんな者わざわざサラハから取り寄せるなんて、考えるほど怪しく見えるよ」

「俺たちが宮殿に入れるようにならん限りは、きっと雲流の暗躍疑惑は闇の中だな。そんなことより、蓮、今回はどういう動きで行くよ」

 私はサラハのピサ川までの道を頭で思い出しながら、みんなに話した。

「道に関しては、前回と同じで直進で向かって大丈夫でしょう。今日の昼から向かえるとして、天候に変化がないとしたら一日半かかると思います。下準備はみ組から荷台付きの馬車と馬を借りて、二日程度の食料と装備の再確認をすればすぐ向かえるんじゃないでしょうか」

「じゃあ、すぐに準備してぱぱっと向かうか。俺とトリガーで馬と馬車取ってくるから、二人は食べ物を頼む。装備の準備は個人で任せる。それじゃあ一時間後に門で会えるように。一時解散」

「了解しました」

 こうして私はトリガーと大峰さんと別れた。

「よし、じゃあぱぱっと準備を済ませとくぞ。トリガーせっかちだからな」

「わかりました。蓮さん、どこ行きますか?」

 食料を調達できる場所は近場にいくつかある。自分達が向かう方向と同じ方向にある東大通市や、護の運営ではなく、個人が運営している場所も沢山ある。一番手間がかからないと言えば、やはり東の市か。

「東大通でいいんじゃないか」

「ですよね」

「お前、無駄なもの買うなよ」

「買うわけないじゃないですか。あ、でも苺買って帰りませんか? 最近旬で沢山出回ってますし、きっと美味しいですよ?」

 それを無駄なものって言うんだ。




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