白水 正直、天命とかどうでもいい

 暗い、道のない、木々しかない退屈な景色の中に亀裂のように光が射し込んでいた。

 やっと見つけた。出口だ。

 わたしは、吸い寄せられるかのごとくその光へ走った。さっきまでの疲れなら吹き飛んだ。ようやく、この薄暗い森と、自生したきのこしか食べ物がない日々から抜けられる。

 木々の隙間から、遥か先に長く連なる壁と、壁から顔を出す数階建ての建造物がいくつもあるのを見てわたしは実感する。わたしは、長い長い森を進んだ末、遂に都を見つけることに成功したのだ。その時の嬉しさたるや、生まれ育った村を脱走ーもとい、旅立つことができた時と同等なほどだった。

 村の師匠たちとはほぼ喧嘩別れだった。別れ際になってまで、師匠たちはわたしに苦労しただの嫌味を垂れてきたので、わたしが今まで溜めに溜めていた不満をここぞとばかりにぶちまけたら、「二度と帰ってくるなこのアホ!」などと罵倒しながら杖なりその辺の石なりを投げつけてきた。わたしは「村の皆さん、達者で」と言ってから逃げるように(実際逃げていた)村を出た。まったく、嫌になる。事あるごとに、あの人たちは天命だの任務だのいってわたしを拘束しようとする。特にわたしには、情のかけらも無いような言葉をかけながら。ああ、もう。思い出しただけ憂鬱になる。

 まあいい、わたしには第二の人生が待ってる。好きなことだけでわたしは生きていける。あそこにはわたしを縛るものなんて何もない。そう思うと、なんだか敵である鳥の国が、楽園のように思えてきた。あの壁の内側で蓮水がわたしを待っているのだ。

 ああ、蓮水に会うのが楽しみだ、楽しみだ。


 都に近づくと、大きな門と大きな荷物を抱えた人たちの行列が見えた。おそらく出稼ぎか村の納税といったところだろうか。わたしもその列に並んだ。

 数分して、前に誰もいなくなったので、わたしが門をくぐろうとすると、二人の門番に止められた。

「お嬢ちゃん、悪いんだけど、通行証見せてくれるかな」

「通行証だって? そんなもの持ってないぞ。どうしてもいるのか」

「いやあね、最近都内で犯罪が増えてるからね。怪しい奴は入れないために都民以外は入るのに通行証が必要になったんだよ。お嬢ちゃん、この都の人かい? 」

「いや、今年の護の立候補者だ」

「ああ、そう言うことだったか。それなら入ってよしだ。住民予定だからな」

 そう言ってわたしを都内に入るよう促した。この警備、果たしているのかな。


 都に入ると、初めに市場が見えた。すごい。市場ってこんなに大きかったのか。様々なものを取り揃えた棚は、どの方角にも終わりが見えず、無数の人々が、そこで買い物をしている。売られているものも尋常な数じゃない。目の前にある野菜の棚だけでも、わたしの村なら一週間暮らせそうなほどだ。その棚からもほいほい手が伸びてきて、思い思い野菜を掴んでは消える。一体この都、何人住んでいるのだろうか。というか、この量の野菜どこで育てたのだ。

 わたしは少し市場を見て回った。新しい景色に興奮が収まらなかった。野菜に続いて、肉や衣服も売っていた。

 眼下に広がる肉たちを見ると、派手にお腹が鳴った。ここ数日、森に生えたきのこしか食べてない。今なら生肉でも食えそうだ。

 いますぐにこれを私のものにしたかったが、どこにも店主らしき人はいなかった。私はたまらず隣にいた客に尋ねた。

「すまん、この肉どこで金払えばいいかわかるか」

 その客は、わたしと同い年くらいの女の人だった。

「あら、ここにくるの初めてなのね出口に会計場所があるわ。あ、もちろん門の方にはないわよ」

 そういって女の人はわたしの来た道の逆を指差した。

「ありがとう」

 わたしはそこにあったでかい鶏らしき脚を掴んで出口に向かった。

 さて、食料も確保したとこだし、蓮水探そうか。




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