第26話
「いやー、痛快だったよアイツの顔!」
事が終われば大宴会、エミリーさんは上機嫌で杯を傾ける。
「あははは。ミスコンは滅茶苦茶になっちゃいましたけどねー」
「ああ、良いんだよそんなもん。やっぱり私のガラじゃなかったのさ」
「そんな事はありませんわ、お姉さま。
お姉さまのドレス姿、とっても素敵でしたわ」
エミリーさんの祝勝会? に何故かひょっこり付いて来て、お酌をしているマリーさんがそう言った。
「よしとくれよ。やっぱり私には船員服がお似合いだよ」
「いえ! いえ! そんな事はございません! お姉さまの艶姿、とってもセクシーで美しかったですわ!」
マリーさんはそう言って力説する。
確かに綺麗だったけど、一切合切台無しにしてしまった。
「それにしても、大変なのはマリーさんの方ではありませんか?」
衆目の面前で、父親の不正が暴露されたんだ。あの資料が正しいかどうかは知らないが、今後の街運営に支障があるのは確かだろう。
「構いませんわ、悪事を働いていたお父様が悪いのです」
マリーさんは少し寂しそうに、そう言った。
「それに
「そうですか」
「ええそうです! こうなったら
マリーさんはそう言ってエミリーさんの手を握る。
「ばっばかをお言い! かごの鳥のアンタが何を出来るってんだい!」
「炊事洗濯裁縫と、家事に関しては一通り出来るつもりです! お姉さまには
マリーさんは、上機嫌でエミリーさんの腕に絡みつく。こんな見事な押しかけ女房、めったに見れるものじゃ無いだろう。
「ほへへ、へっへょく、ほうなっふぁのふぁ?」
「はいはい、イグニス。口の中の物はちゃんとしまってから話そうねー」
波乱に満ちた祭りは終わった、様々な人の思惑は入り混じりこじれてしまった事態を解決したのは聖女(?)の蹴り。
伝承通り、説法のみとはいかなかったが、彼女は確かに事態を沈めたのだ。
これから町長は、かつてのタラスクの様に、石を投げつけられるのかもしない。まぁ僕にはどうでもいいことだけど、今度の聖女は、その事を仕方がないと黙って見守る様な人じゃないだろう。
「まぁ……なる様になったんじゃないかな? イグニス」
「マスターがそう言うなら、そうなのだろう」
聖者も悪人も人それぞれ、何事もスパッとシンプルにいきたいけれど、そう簡単に世界は廻っていない。グレーゾーンをあっちにフラフラ、こっちにフラフラだ。
だから僕は、単純明快なイグニスに憧れるんだろう。
「まあ今は、この宴を楽しもうか」
「そうだな、マスター」
イグニスはそう言うと、テーブルの上のタラスク焼きに手を伸ばした。
「はい、はい、確かに見つけました」
「ええ、アレは間違いなく聖剣イグニスです」
「はい、了解です。では、至急応援をお願いします」
宴を影から見守るものは、1人ブツブツとそう呟いていたのだった。
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