第24話
教会が出てくるとなれば、残念ながら僕たちは表だって行動する訳にはいかない。まぁ、元々そんなに深入りするつもりは無かったけど。
「審査の時に、マリーさんに何かポカをやってもらうのはどうでしょう?」
「駄目だな坊主、そんな事したら観衆は余計に舞い上がっちまう」
「ああそうだ、絶好の萌えポイントだ」
お兄さん二人はうんうんと頷く、僕にはわからない何かがあるんだろう。
となると、やっぱり正攻法、エミリーさんに頑張ってもらうしかないのか。とは言え……。
僕はキラキラ輝くマリーさんに視線をやる。彼女は小首を傾げて笑顔を返す。あーやっぱりこりゃ強敵ってレベルじゃない。裏工作なんてしなくても、優勝候補間違いなしだ。
「これは、ミス聖女コンテストなんですよね」
「ええそうですわ。矛盾したイベントとは思いますが……」
俗の極みであるミスコンで、聖の象徴である聖者を決める。確かに矛盾極まるイベントだが、盛り上がればそれに越したことは無いと言う事だ。
「マリーさんは、悪竜伝説については?」
「勿論、この街の住民ならば、皆知っていますわ。私も聖女マルタは尊敬しております」
彼女は胸前で手を組み、祈りをささげるようにそう言った。
「その、聖女が再臨したとなれば……」
「……無論そのお方が、グランプリを取るでしょう」
彼女は苦笑いしつつそう言った。まぁ再臨なんてするわけがないと言うのと、果たしてだれが聖女と認定するのかと言う問題を含めての苦笑いだ。
こうなると、エミリーさんの突拍子もない素案に頼るしかないのか。
「悪竜伝説の再現ですか!?」
「はぁ、エミリーさんはその方法で、グランプリを取る予定……だそうです」
「まぁそれは素晴らしい! お姉さまならば聖女にピッタリですわ!」
だめだ、この人もエミリーさんの事になると現実が見えなくなるようだ。
「けど、悪竜の代わりに、街のゴロツキだなんて、程度が違い過ぎなくねぇか?」
「ああ、俺達じゃ貫目が足らねぇよ」
お兄さんたちはそう言って肩を落とす。
うん、ミスコンにケチを付けに来たチンピラさんにしか見えない。
「かと言って、本当に悪竜が復活してしまえば、大変な事になってしまいますわね」
そうなったらミスコンどころの騒ぎではない。怪我人、死人が出てしまう。
「む? 竜の一匹や二匹、どうってことないぞ?」
「あはははー。イグニスは少し黙っててねー」
確かに彼女ならば、竜が出てきた位なんてことない、だがこれは、あくまでエミリーさんをどうやって聖女に仕立て上げようかの企みだ。それに、ここに居ない竜をどうやって持ってくると言うのか。
僕が召喚術や、幻惑魔法を使える高位の魔術師だったら話は別だけど、残念ながら僕はただの大道芸人、そんな事は出来やしない。
僕たちは揃って頭を抱える。
三人寄れば何とやらとは言うけれど、現実はそんなに単純ではないようだ。
「あんた達、こんな所にいたのか……げっ!? マリー!?」
「おっ! お姉さま!」
「だーから、私はあんたの姉じゃないよ!」
エミリーさんに抱き付こうとするマリーさんを、エミリーさんは寸前でかわす。
「あん、お姉さま、いけずです」
「私は、女同士で乳繰り合う趣味は無いってんだよ!」
しょんぼりと指をくわえるマリーさんを、エミリーさんは毅然とした態度で突き放した。
「大体なんだあんたたちは、敵方とつるんで何をやってるってんだい!」
「いえ、姐さん。姫さんは姐さんに協力してくれるって」
「そうですぜ、姐さん」
「おバカ! 敵に塩を送ってもらった勝利に何の意味があるってんだい!」
お兄さん二人の頭に、エミリーさんの天誅が落ちる。メキャッと言う低い音は人間の頭部から発せられていい音じゃない気がする。
エミリーさんだったら、本当に竜位何とかできるんじゃないだろうか。まぁ説法じゃなく物理でだけど。
「まぁまぁ、エミリーさん。真の敵はマリーさんのお父さんな訳ですよね。敵の敵は味方と言う事でここは一つ」
「そうですわ、お姉さま。
「う……ぐ……」
妙な所で堅物なエミリーさんを、二人がかりで言いくるめる。
その甲斐あってか、エミリーさんは何とか矛を下ろしてくれたのだった。
「ここがメインステージですか」
街の中心、河港の傍にある大教会、その前の広場にメインステージは設置されていた。現在そこでは、大規模な大道芸が行われている。僕たちみたいな飛び入り参加の奴では無く、指名された大道芸人たちによるパフォーマンス、いやグランギニョールだ。
「河から近い所にあるんですね」
「ええそうですわ。この河は街の生命線。彼の悪竜もこの河から出現したと言われています」
なるほど、それならばなんとかなるかな?
この河を利用して、遠方からモンスターを連れて来る。それを川岸でエミリーさんに追い返してもらって聖女伝説の再臨……となればいいなぁ。
彼の悪竜は、亀の甲羅に、6本足の竜だったと言う話だ。そんな特徴的な竜は他では聞いたことが無いので、単一種族の奴だったのだろう。同じ奴を用意することは難しいが、亀形のモンスターならば言い訳は聞くかもしれない。
「しょうがない……イグニス、ちょっと近所をぶらついて、似たようなモンスターを探してみようか」
「了解した、マスター」
「お兄さん達もご協力をお願いします」
「おう、合点承知の助」
「任しとけ坊主」
自分たちが狼藉を働かずに済みそうなことに、お兄さん達も乗り気になる。まぁそんなことしたら後々大変な事になっちゃうからね。
こうして僕たちは、お兄さんたちが操縦する船に乗り、近所モンスターを探りに出かけたのだった。
「船旅かー、偶には良いものだね、イグニス」
「そうだな、マスター」
僕たちは、モンスターをおびき寄せるため、あえて襲撃を受けやすい小舟に乗り、その上、餌となる家畜を引っ掛けたまま河を上下する。
「ぼっ坊主! また敵襲だ!」
「頼んます、イグニスの姐さん!」
「了解した」
相手が人間でないのなら、それは正しくイグニスの独壇場。パンチ一発で、並み寄るモンスターたちを沈めていく。
「つっ強えぇ。姐さんより強い人は初めて見たぜ」
「ああ、このまま、俺たちの仲間にならねぇか?」
「あははは。そう言う訳にはいかないんですよー」
僕たちには目的がある。それを達成するまでは止まる訳にはいかないのだ。
「しかし、寄ってくるのは小物ばかりですねー」
「まぁそうだな、派手な奴は懸賞金がかかってて、退治されつくしちまってる」
深刻なボスモンスター不足。まぁここに暮らす住人にとっては良い事なんだけど。
その後も、僕たちは船を浮かべ続けた。大道芸の方はふいにしてしまったけど、エミリーさんから代わりの報酬を貰う事になったのでトントンだ。
「なんだか、冒険者みたいなことをしちゃってるねー」
「そうだな、マスター」
イグニスはそう言って遠い目をする。かつての勇者との冒険の日々を思い出しているかのように。
茜色に染まる水面は、イグニスの顔をどこか遠くに染めていたのだった。
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