第23話
ミスコンの開催は3日後、超特急で何とかさせなくてはいけない。
取りあえずは見た目からだと言う訳で僕たちは仕立て屋さんに、お姉さんを放り込み、敵情視察として、優勝候補である敵方のお姉さん、マリーさんの様子を見ることにしたのだ。
「あら、ラックさんにプラックさんではありませんか」
キラキラと、光輝く妖精がいた。
「あっ、これはこれは」
「えへへ、どうもでやす」
名前を呼ばれたお兄さん二人組は一発でノックダウン。鼻の下を伸ばしまくって、お姉さんが居たらとんでもない事になっていただろう。
「見たか聞いたか、これだよ坊主」
「なっ、すげぇだろ? 勝ち目なんかありゃしねぇだろ?」
「あははははー、ちょーーーっと強敵ですねぇ」
「姫さんはな、俺たちみたいなゴロツキにも分け隔てなく接してくれる天使みたいな人んだよ」
「そうだぞ、坊主。姐さんですら「おい」とか「こら」とかでしか呼んでくれないのに、こうして名前を憶えていてくれるんだ」
お兄さんたちは、溢れんばかりの情熱をひそひそ声で僕に叩き付けて来る。
「あら、ラックさん、プラックさん、そちらの方はどなたですか?」
僕たちの存在に気が付いたマリーさんは、そう言って自己紹介を促してくる。
「ああどうも初めまして、僕たちは西から東の風来坊、今日この街に来たばかりの大道芸人です」
「まぁ、それは丁度よかった、この街は今日から竜神祭を開いておりますの」
「ええ、楽しませて頂いてます。マリーさんも良かったら僕たちの芸を見に来てください」
「ええ、楽しみにしてますわ」
マリーさんはそう言って可憐な笑顔を咲かせる。こりゃ、強敵ってレベルじゃないぞ。
完全にマリーさんの魅力のとりこになってしまっている、お兄さんたちはほって置いて、僕はマリーさんに幾つか質問をしてみる事にした、何とか欠点を探し出すためだ。
「あのー、こっちのお姉さん、エミリーさんに聞いたんですけど。マリーさんもミスコンに参加なさるようで」
「ええそうですの、全く困りましたわ」
マリーさんはそう言って目を伏せる。
「おや、乗り気じゃないのですか?」
「はい、
その言に嘘は無いようだ、現にいま着ている服装も、地味でシンプルなもの。化粧も最小限のナチュラルメイクだ。
けど、その程度の事を吹き飛ばすような本人の魅力によって、全ては台無しになってしまっているが。
「となると、お父様に……」
「ええそうですわ。
ふむ、ふむ、これは良い情報だ。何とかして、出場を辞退させることが出来るかも知れない。
どこかの偉い人も言っていたが、戦うより前に勝利できればそれに越したことは無い。
僕がそんな風に考えていると、マリーさんはもじもじしながらこう言ってきた。
「あのー……ところで、お姉さまは何処ですの?」
「お姉さま? ああ、エミリーさんならミスコンに向けての最終調整に入ってますよ」
お姉さまって何だ!?
良くは分からないが、マリーさんの瞳は恋する少女のそれだ、キラキラと眩しくて、直視するのが困難なほどだ。
「まぁそうですか! お姉さまならきっと……きっと……」
嬉しそうな顔から一転、マリーさんはそう言い淀む。
「マリーさんもご存知なんですか?」
「おいこら小僧」と言うお兄さん方の声を無視して、僕は核心に踏み込んだ。
「ええ、お父様が何やら暗躍しているのは知っています。きっと碌でもない事ですわ」
どうやらこのマリーと言うお姉さんは、容姿端麗なだけでは無く、頭脳の方も優秀らしい。自分が置かれている状況をキッチリと把握している様だ。
「ふむ、やはり貴様の父親は倒すべき敵なのか?」
エミリーさんに洗脳された、イグニスはずけずけとそう言った。
「ふふ、そうなのかもしれませんね」
マリーさんは、非礼極まるイグニスの物言いに、悲しそうな笑顔を浮かべる。
「了解した、一切合切灰にしてやろう」
「ちょと、ちょっとイグニス、ストップ! ストーップ!」
僕は剣の柄に手を置いたイグニスを必死に止める。彼女は何時だって本気なのが困り者だ。
「まぁまぁ、それならば話は速いです」
僕は不満げなイグニスを宥め終わった後、マリーさんに向けそう言った。
「エミリーさんは、予定調和を破壊して、ついでにマリーさんのお父さんにちょっとしたお灸をすえてやろうと画策中です、何とか協力して頂きませんか?」
「ええ、
マリーさんは目を輝かせながらそう言った。どうやらエミリーさんに心底惚れ込んでいるようだ。
話がとんとん拍子すぎて怖いなぁ。まぁ上手く行く分には問題ないか。
「姫さんはな、姐さんに対してぞっこんなんだよ」
「ああそうさ、勿体無い事にな」
お兄さんたちが僕にそう耳打ちしてくれる。まぁ人は自分に足りないものを他人に求めるとはよく言ったもの。マリーさんにはエミリーさんが白馬の王子様に見えているんだろう……。
あれ? エミリーさんは女性だよな? 自信がなくなって来たぞ?
「それで、一体どうするおつもりなのですか?」
エミリーさんは鼻息荒くそう言ってくる。
「不戦勝と言うのが一番良い形なんですが……」
「残念ながらそれは不可能ですわ。お父様にきつく言い渡されておりますの」
そう言ってエミリーさんは、額に手を当てる。何でも、彼女が出場しなかった場合の経済的損失と、それを補填するための彼是について、懇切丁寧ねっちりクドクドと説明されたらしい。
「数式が乱舞する小一時間、まるで悪夢のようでしたわ」
エミリーさんの嘆きに、お兄さんたちは顔をしかめる。
「まぁ、メインイベントのメインが登場しないとなれば、色々と厄介な事もあるでしょうね」
僕は苦笑いしながらそう言うしかない。どうやら彼女の父親、エミリーさんの言う所の悪の親玉は一筋縄ではいかない存在みたいだ。
「それにしても、ですわ!」
エミリーさんは頬を膨らませて、ここにはいない父親に抗議の声を上げる。
「ところで、例の買収の件なんですが。一体どういう感じなんですか?」
「ええ、お父様は、審査員の方全員を我が家に招待しておりました。勿論極秘裏にと言う枕詞が付きますが」
「全員ですか、なりふり構わずって言う所ですね」
「全くです、なんとその中には、教会の神父様もいらっしゃったのです、
「げっ、神父様!?」
「あら、どうかなさいましたの?」
教会が出張ってくるとなると少々都合が悪い。教会の中には、『全ての聖剣は教会の管理下に在るべきだ』と主張する一派も存在する。そんな奴らに、魔王を倒した聖剣中の聖剣であるイグニスの存在がばれたら面倒くさい事になる。
イグニスが人型に変形できるのを知っているのはごくごく一部の存在だ、下っ端の神父様ならその事を知らなくても不思議ではないが、お偉いさんが出てくるとしたら厄介だ。
僕はちらりとイグニスに視線を寄越す。だが、彼女はキョトンとした顔で僕に視線を返してきた。
彼女は人間の七面倒くさい利権争いなんかに興味は無い、教会云々なんて言われてもピンとこないだろう。
はぁ、やっぱり面倒くさい事になった、町長さんなんてほっといて、とっととこの街を出ていくべきだったのか?
僕はそう思いつつも、取りあえずマリーさんに愛想笑いを返した。
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