仁義なき掛け合い

黒永 夕

二人だけの世界

「最初の切り札は『フクロウ』か……」

「初めから頭使ってたら後が辛くなるだけでしょ。まずは小手調べも兼ねて、ね」

「もう一度確認するがさっき言ったルール以外の反則行為は即負けとみなすからな。お前の考えた創作カードゲームなんだからそこは絶対守れよ」

「分かってるわよ。この『能ある鷹だよ!三竦さんすくみサファリパーク』では草食動物と肉食動物、飛行生物の三種類があって、草食は肉食に弱く、肉食は飛行生物に敵わず、飛行生物は草食動物に勝てない。三十枚のカードには様々な動物が描かれてる。プレイヤーはそれぞれ先手と返し手を決め、ランダムに五枚カードを引き、その中から一枚選んで場に出す」

「要するにめんどくさいじゃんけんだな」

「そんな小学生レベルのお遊戯と一緒にしないで。これは英知を極めた者のみが出来る大人の戦いよ」

「……なるほど。高校生なのにこのカードを手に出来る俺達は既に英知を極めていたか」

「この戦いに挑めるだけの知力は認めてあげる。話を続けるわよ。場に出た動物に返し手は有効なカードを出さなければならない。じゃんけんと違って引き分けはないわ。出せなければ山札から1枚カードを引き、有効なカードが出るまでそれを繰り返す。最終的に手札を0にするか、山札が無くなった時に手札の少ない方が勝ち」

「……ウノじゃね?」

「違うッ!!」

「わ、悪かったってそんなムキになるなよ」

「フン、そんな悠長に構えていて大丈夫なのかしら。この勝負に負けたら貴方はもうお終いなのよ」

「……お前こそ分かっているのか。大事なものを失う事になるぞ」

「覚悟ならとっくに出来てるわ。私は絶対に負けられない。貴方と違って私には払い出せる代償がない。もし負ければその時は……この身をもって……」

「俺だって負ける訳にはいかない。ずっと大事にしてきたんだ。俺の明日の希望……絶対に渡したりしない」

「逃げずに試合に挑むというのね」

「当然」

「なら言葉は不要ね。さぁ手札を取ってカードを切りなさい」

「……」

「どうしたの?」

「……カードを1枚引く」

「付いていないわね」

「カードを1枚引く」

「ふふっ……さぁどんどん引きなさい」

「カードを引く。1枚引く。1枚引く。1枚引く。引く。引く。引く!」

「ふ、ふふ、フフフ……」

「くそっ! お前ッッッ!」

「あっはははは! やっと気づいたのかしら!」

「……どっちなんだよ」

「フフ……何が?」

「このフクロウはなんだよ!」

「さぁ? どっちかしらねぇ。わね」

「名前も特徴も何も書いてねぇ! これじゃこの動物が何で、何の特徴のある動物か分からないじゃねぇか! 」

「そうね」

「はい反則! お前の負け!」

「どうして」

「言わなきゃダメか!? 名称も特徴もないカードなんてポーカーのジョーカーみたいなもんだろ。好き勝手に言える!」

「そうね。でもこのカードを『フクロウ』と言ったのは貴方よ?」

「……ッ!! いや確かに言ったけども!」

「私は一言もこのカードを『フクロウ』と貴方に伝えていない。貴方が勝手にこのカードを見て『これはフクロウだべ』って言ったんじゃない」

「言ってない! 少なくとも! そんな言い方!」

「とにかくこのカードを『フクロウ』と定めたのは貴方。私もそれに異論を述べないわ。よってお互いの承認を得た事でこのカードは『フクロウ』として場に出したわ。さぁ、次は貴方がカードを出す番よ」

「……」

「さぁ、はやく」

「…………………………くそっ! こんなのどうしようもないじゃないか!」

「降参ね? 降参したわね!? 何も言わなかったら黙認したという事にするわよ!」

「あー! アー!」

「声出して抵抗しようとしたって駄目! はい、勝負あり! 私の勝ちー!」

「ふざけんなルール守れよ!」

「私は一つもルールを破っていませんー。何かルール違反した所があるかしらん?」

「いや、なか、ったけども!」

「なら私の勝ちー! さぁ、約束通り出してもらうわよ、貴方の大事な大事な、それを」

「うぅ……い、いやだ……」

「早く!」

「許してくれ……」

「ええい、女々しいわね。なら勝者として容赦なく奪わせてもらうわよ!」

「あぁ! やめ、止めてくれ! それはずっと大事に仕舞っていたものなんだ! 頼む、他の事なら何でもやる、だからそれだけはッ!」

「綺麗に折り畳んでまぁ。大事にしてたのね。その想い、大事に使わせてもらうわよ」

「止めてくれぇ」

「おーほほほ! さぁ、勝利の宴よー!!」

「待って、待ってくれ……いくな、いかないでくれ!! 















俺のお昼ご飯代の千円札ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」

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仁義なき掛け合い 黒永 夕 @kuronagayuu

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