仁義なき掛け合い
黒永 夕
二人だけの世界
「最初の切り札は『フクロウ』か……」
「初めから頭使ってたら後が辛くなるだけでしょ。まずは小手調べも兼ねて、ね」
「もう一度確認するがさっき言ったルール以外の反則行為は即負けとみなすからな。お前の考えた創作カードゲームなんだからそこは絶対守れよ」
「分かってるわよ。この『能ある鷹だよ!
「要するにめんどくさいじゃんけんだな」
「そんな小学生レベルのお遊戯と一緒にしないで。これは英知を極めた者のみが出来る大人の戦いよ」
「……なるほど。高校生なのにこのカードを手に出来る俺達は既に英知を極めていたか」
「この戦いに挑めるだけの知力は認めてあげる。話を続けるわよ。場に出た動物に返し手は有効なカードを出さなければならない。じゃんけんと違って引き分けはないわ。出せなければ山札から1枚カードを引き、有効なカードが出るまでそれを繰り返す。最終的に手札を0にするか、山札が無くなった時に手札の少ない方が勝ち」
「……ウノじゃね?」
「違うッ!!」
「わ、悪かったってそんなムキになるなよ」
「フン、そんな悠長に構えていて大丈夫なのかしら。この勝負に負けたら貴方はもうお終いなのよ」
「……お前こそ分かっているのか。大事なものを失う事になるぞ」
「覚悟ならとっくに出来てるわ。私は絶対に負けられない。貴方と違って私には払い出せる代償がない。もし負ければその時は……この身をもって……」
「俺だって負ける訳にはいかない。ずっと大事にしてきたんだ。俺の明日の希望……絶対に渡したりしない」
「逃げずに試合に挑むというのね」
「当然」
「なら言葉は不要ね。さぁ手札を取ってカードを切りなさい」
「……」
「どうしたの?」
「……カードを1枚引く」
「付いていないわね」
「カードを1枚引く」
「ふふっ……さぁどんどん引きなさい」
「カードを引く。1枚引く。1枚引く。1枚引く。引く。引く。引く!」
「ふ、ふふ、フフフ……」
「くそっ! お前ッッッ!」
「あっはははは! やっと気づいたのかしら!」
「……どっちなんだよ」
「フフ……何が?」
「このフクロウはどっちなんだよ!」
「さぁ? どっちかしらねぇ。飛行動物かもしれないし、肉食動物かもしれないわね」
「名前も特徴も何も書いてねぇ! これじゃこの動物が何で、何の特徴のある動物か分からないじゃねぇか! 」
「そうね」
「はい反則! お前の負け!」
「どうして」
「言わなきゃダメか!? 名称も特徴もないカードなんてポーカーのジョーカーみたいなもんだろ。好き勝手に言える!」
「そうね。でもこのカードを『フクロウ』と言ったのは貴方よ?」
「……ッ!! いや確かに言ったけども!」
「私は一言もこのカードを『フクロウ』と貴方に伝えていない。貴方が勝手にこのカードを見て『これはフクロウだべ』って言ったんじゃない」
「言ってない! 少なくとも! そんな言い方!」
「とにかくこのカードを『フクロウ』と定めたのは貴方。私もそれに異論を述べないわ。よってお互いの承認を得た事でこのカードは『フクロウ』として場に出したわ。さぁ、次は貴方がカードを出す番よ」
「……」
「さぁ、はやく」
「…………………………くそっ! こんなのどうしようもないじゃないか!」
「降参ね? 降参したわね!? 何も言わなかったら黙認したという事にするわよ!」
「あー! アー!」
「声出して抵抗しようとしたって駄目! はい、勝負あり! 私の勝ちー!」
「ふざけんなルール守れよ!」
「私は一つもルールを破っていませんー。何かルール違反した所があるかしらん?」
「いや、なか、ったけども!」
「なら私の勝ちー! さぁ、約束通り出してもらうわよ、貴方の大事な大事な、それを」
「うぅ……い、いやだ……」
「早く!」
「許してくれ……」
「ええい、女々しいわね。なら勝者として容赦なく奪わせてもらうわよ!」
「あぁ! やめ、止めてくれ! それはずっと大事に仕舞っていたものなんだ! 頼む、他の事なら何でもやる、だからそれだけはッ!」
「綺麗に折り畳んでまぁ。大事にしてたのね。その想い、大事に使わせてもらうわよ」
「止めてくれぇ」
「おーほほほ! さぁ、勝利の宴よー!!」
「待って、待ってくれ……いくな、いかないでくれ!!
俺のお昼ご飯代の千円札ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」
仁義なき掛け合い 黒永 夕 @kuronagayuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます