【KAC1】第8回闘虫キング決定リーグ

@dekai3

【第一回戦】切り札はフクロウ

『それでは!これより闘虫キング決勝リーグ第一回戦、ヘラクレスオオカブト・榎選手、サビイロカブト・小川選手の試合の開始準備を行います!!両者、リングへどうぞ!!』


デッデーン ダランララーン ダラッララララ


 森の中に響く軽快な効果音と太鼓の音。


ワー ワー キャー ヤッタレー


 湧き上がる歓声や怒声。


エノキサマー ガンバレー コッチミテー


 そして選手の入場と共に響き渡る黄色い歓声。


 特設リングを囲う観客席には何万人もの人が溢れ、観客のボルテージは最高潮だ。

 それもそのはず。闘虫バトルはこの国の最大の娯楽であり、最大の観光資源でもある。

 政府は外貨を稼ぐために闘虫バトルを大々的に宣伝し、最初は町内だけの小さな大会だった物をたった8年で全国規模に成長させた。

 委員長の館山さんは元はただの酒屋で、本業の傍らに子供達の遊びとしてなんとなく虫を戦わせていたら何故か人気に火が付いてしまい、いつの間にか大会委員長に就任させられた可哀相な人だ。ボランティアなので給料は出ていない。


 しかし、意図的に広まった物であっても小学生達の闘虫バトルへの熱意は本物であり、毎年個性溢れる虫闘者インセクターが産まれては中学受験のために消えていく。

 そんな入れ替わりの激しい環境の中、昨年チャンピオンの榎選手は虫と遊びたいがために中学校を自主退学し、と名乗って今年も大会に出場している。虫闘者インセクターとしてのレベルがとても高い。

 彼のような虫としか心を通わせれない者こそ、闘虫バトルが相応しい。


 他にも虫闘者インセクターには特殊な事情を抱える者が多いのだが、榎選手の対戦相手である小川選手は少しだけ他の虫闘者インセクターとは違う物があった。


 彼女はこの大会では珍しい帰国子女であり、虫達への思いが無い。いや、正確には虫闘者インセクターを務めるほどの強い闘虫力が見られないのだ。

 小川選手の予選の対戦相手は悉くが『家の前でトラックが事故をして会場に行けない』『母親が急に教育ママになる』『飽きた』『彼女が出来たから』という理由で棄権しており、戦った所を見た者は居ない。

 そんな彼女が決勝リーグに参加しても良いのか?という声も挙がったが、館山委員長の『問題無し。寧ろ帰国子女の参加は海外への宣伝になる』という鶴の一声で参加が許可された。

 そして続けて言われた『彼女が本当に虫闘者インセクターとして相応しいのかを昨年のチャンピオンである榎選手に中てる事で確かめよう』という発言でこの戦いが決まったのだ。


ハヤクハジメロー


 ステージ入口で舘山さんがそれぞれの闘虫と選手に問題が無いかを確認し、先に問題なしと判断された榎選手がフィールドへと向かう。

 小川選手の確認は少し手間取っているのか舘山さんが凄く嫌そうな顔をしながら何かを話している。そしてポケットに封筒を突っ込まれると嫌々ながらも問題なしの判定を出した。


『さあ!両者がフィールドに入りました!それではここから一分間の試合準備タイムになります!』


「いくぞへっくん!」


 榎選手は元気良く飛ぶへっくんと並走してステージ中央のクヌギの木の前まで行き、そこに陣取る。

 あくまでも自分は迎え撃つ側というチャンピオンらしい考えだ。

 対する小川選手はフィールドに入ってから直ぐの茂みをゴソゴソと漁っており、サビイロカブトへの指示を出しているように見えない。


『5、4、3、2、1、試合開始です!』


プァー


 そうしているうちに準備時間が終わり、試合開始のブザーが鳴る。


ウォー イケー ヤレー


 観客の声援は先ほどより大きく、まるで会場全体が大きな虫の群れのようだ。

 皆この時間を待っていた。闘う虫達を。虫と共に輝く子供らを。

 ここからが闘虫キングの始まりだ!


「さあ、どこからでもかかってこい!」

「では遠慮なく」


プシュー


 榎選手の自信満々な声に答え、ガスマスクを付けた小川選手が殺虫剤を撒いた。


「おいちょっと待て」


プシュー


「待てって言ってるだろ!」


プシュー


 榎選手の静止の声を聞きながらも、殺虫剤を止めない小川選手。


『な、なんと小川選手!殺虫剤です!殺虫剤を噴射している!前代未聞です!委員長!良いんですかこれ!?』

「ル、ルールに書いてないから…有り!」

『委員長!』

タテヤマー!


 これには会場中の観客達も声を揃えて館山さんに怒声を浴びさせる。

 常識的に考えれば殺虫剤を撒くなんて反則行為だ。しかし、館山さんは額の冷や汗を拭きながらも小川選手の行為を認めたのだ。


「卑怯だぞ!闘虫をしろ!」


 最もなことを叫ぶ榎選手。

 しかし、小川選手はそれを聞いても平然として右手をピンとそらして頬に寄せながら。


「ルールの穴を突くのがモモモ流ですわ」


 と言って殺虫剤を巻くのをやめない。

 そしてお嬢さまっぽい高笑いも始める。


「でも残念だったな!俺のへっくんを舐めるんじゃない!」


ブーンブーン


 なんと!へっくんは殺虫剤を巻かれたフィールド内でも平然と飛んでいる!

 これが闘虫キングを目指す闘虫の姿だ!


「ふん、耐性をつけてますか。では次はこれを」


ブンッ!


 足元に置いてあった釘バットで直接へっくんを叩こうとする小川選手。


「おい!だから闘虫をしろ!」


 そして抗議の声を上げる榎選手。


『お、小川選手!次は直接攻撃に出ました!委員長!良いんですかこれ!?』

「ル、ルールに書いてないから…有り!」

『委員長!』

タテヤマー!


 先ほどと同じく会場中の観客が声を揃えて館山さんに怒声を浴びさせる。

 館山さんは滝のような汗を流している。


「虫を叩こうとするとか虫闘者インセクターの風上にも置けない奴め!でも残念だったな!俺のへっくんを舐めるんじゃない!」


 榎選手がそう言うと、今までバットを避けるだけだったへっくんが急に小川選手に向かって突進し、自らバットに当たりに行く。


ズガァン!


 なんとバットが折れた!


「や、やりますわね…」


 流石にこれには驚いたのか、若干ひきつった顔をする小川選手。

 しかし、小川選手は諦めない。


「こうなったら最後の手段ですわ。切り札は最後まで取っておきたかったのですが…ヘムィッグ!」


ビュオ!


 小川選手のかけ声と共に、木々の間から何者かが現れる。


バサバサッ

ホーホー


 フクロウだ!


「いきますわよヘムウィッグ!あの虫をやっつけなさい!」


 小川選手はフクロウに指示を出し、へっくんを狙わせる。

 恐らく大会が始まる前から仕込んでいたのだろう。


『委員長!あれは完全にアウトですよね?フィールドに虫闘者インセクターと闘虫以外は入るのはアウトですよね!?』

「う~ん…言い訳考えるから待って!」

『委員長!』

ターテーヤーマー!


 三度上がる館山さんへの怒声。流石にこれは言い訳のしようがない。

 そしてへっくんも猛禽類相手では分が悪いのか、ひたすら逃げることに徹している。


「くっ、こんな方法で闘虫キングになって嬉しいのかよ!」


 フクロウを操る小川選手に向けて、榎選手が声を挙げる。

 彼にとって闘虫バトルは生きがいであり、こんなふざけた事をする場所では無い。


「ふんっ、貴方のような小卒のお先真っ暗な少年でもチャンピオンになれば世間から認められ、多くのグッズが作られ利益となるのですよ?肩書だけでも十分ビジネスに使う事が出来ますわ」

「なんだと!俺は一円も貰ってないぞ!」


 最早勝ったも当然と判断したのか、ペラペラと己の目的を語り始める小川選手。


「そこの委員長も貴方のように国に騙されて貧乏な生活をしていたので、私を勝者にすれば良い思いをさせてやると言ったのですわ。そうしたらホイホイとあっさり私の味方をしましたわ」

『委員長!』

ターテーヤーマー!


 最低だな館山!


「うぅ、仕方なかったんや…ボランティアやから給料が出ぇへん上に闘虫関係の仕事は毎週ある…断ろうにも世間様が許してくれへん…したら次は妻に遊びが大事なのかと言われる…でも、ワシは虫と子供達が喜んでくれるならって…でも、先立つ物も必要やし…」

『委員長…』

タテヤマ・・・


 館山さんの告白に静まり返る会場。

 もしかしたらこれは闘虫ファンにも責任がある事なのかもしれない。観客の一人一人がそう反省する。


「でも…でもな…やっぱり、こんな事はっ!おお~ワシは~!ワシはぁ~!!」


 突然館山さんがフィールドへ走り出したかと思うと、ヘムウィッグに向かって物を投げ始める。

 流石に素人の投擲には当たらないようだが、その間にへっくんを逃がしてしまうヘムウィッグ。


「ちょっと!約束が違いましてよ!」


 もう少しでへっくんを倒すことが出来たのに。良い所で邪魔をされて抗議の声を挙げる小川選手。

 しかし、館山さんは鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せながら叫ぶ。


「ワシがふくろうを攻撃するのは…ルールに書いてないから有り!」

『委員長!』

タテヤマ!


 気が弱くとも貧乏でも、やはり舘山さんは子供達と虫の味方!信じていたぞ!舘山さん!


「おっちゃん!」

「ワシに構わず闘うんや!」

「な、何を!おかしいですわ!どうしてこんな!」


 予定ではここで昨年チャンピオンを打ち破り、華麗なる闘虫デビューを飾るはずだった小川選手。

 まさかへっくんがここまで強いだけでなく、舘山さんが裏切るとは。


「いくぞ!へっくん!」

ブンブーン


 舘山さんの勇姿を見て覚悟を決めたのか、榎選手はへっくんと共に闘虫力を高め、虹色に輝く。


「な、なんですの?」


 虫だけでなく人が光るという現象に驚き、怯える小川選手。無理も無い。虫ならともかく人は結構キモい。


「これが!俺と闘虫の!絆だー!」


ッビーーーー!!


「キャーー!!」


 掛け声と共にへっくんの角と榎選手の腕から光が放たれ、収束し、螺旋状になり、小川選手を貫いた。


カァンカァンカァン


『そこまでぇ!勝者!ヘラクレスオオカブト・榎選手ぅ~!!』


ワー キャー シンジテタゾー


 試合終了。決まり手は絆ビーム。

 小川選手の姑息な手段に耐えながらも、お互いの絆を信じあったへっくんと榎選手の勝利だ!

 だが、今年の闘虫キングを決める戦いはまだ始まったばかり!まだまだ強敵は何組も居る!頑張れへっくん!頑張れ!チャンピオン!

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