第2話

ある雨の激しく降る夕方、あと5分で仕事も終わるかという時だった。

勢いよくドアを開けてずぶ濡れの男子学生が入って来たのだ。

(もう! 誰?ギリギリに来て!)

ちょっとイライラした気持ちを抑えながら寄子は学生に話しかけた。

「こんにちは、何の用件ですか?」

「すみません、遅くなりましたが提出書類、、」と言って寄子に書類を差し出したのは、大学院生で主に多足類、節足動物などを専攻している森 育三郎だった。

(あまり見ない顔ね、、)

と思いつつ、「あ、お預かりします」と言って手を出した瞬間、

一瞬だが、寄子の指が育三郎の指に触れたのだ。

その瞬間、ハッと目が合い、寄子の心臓はなぜかドラムのように高鳴った。

「ハッ、あっごめんなさい」

寄子は、自分の顔がカーッと赤くなるのがわかった。自分が激しく同様したことに戸惑い、顔も上げることも出来なくなったその時、

「ひゃくあし?ひゃくあしさん?」

育三郎は寄子の名札に目をやり、突然こう言った。

「あ、珍しい名前でしょう?

百足と書いて ももたり って読みます。」

「ももたりさん?っていうんですね! 僕、多足類のレポートとかも書いてるんで、なんかビックリしました。へぇー!そんな名字あるんだ」

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