東京ムカデ
島 絵奈
第1話
ジリジリと太陽が照りつける初夏の日曜日。
百足(ももたり)寄子は、自宅ベランダでお気に入りの多肉植物に水をあげていた最中、その場にへたり込んでしまった。
植木鉢のかげに何か動く物の気配がして、鉢をずらしたそこには、小さいムカデがいたのだ。
「ハッ」
驚きの声ともため息ともつかない声が思わずこぼれ、寄子は甘酸っぱい恋ごころの思い出があたまをよぎった。
数年前の寄子41歳の夏。
大阪から東京に出て来て早10年、大学の事務員として働いていた寄子は、
「パッとしない私が燃えるような恋なんて出来ない。。このまま、ここで地道に働いてひっそりと生きていこう」
そう思いつつもどこかに燃えるような情熱的な恋に憧れを抱いていたのだった。
生物学の大学院生の支援室で事務をしていた寄子。
小さな事務室には寄子の他に上司の富田龍二、入社2年目の後輩、伊坂るり子がいた。
「あーお腹すいた!!」
が口癖のるり子と、いつも独身で奥手の寄子を何かと心配し、「合コンでも行って来たらどうだ? 婚活はしてるのか?カカカカ…」 とよく笑う天真爛漫の富田というメンバーで、淡々とした平和な日々を送っていた。
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