第四節 護衛任務1

 シャルロットの予想打にしない言葉に、一夜も困惑を隠せない。

 過去に会った事がある。そんな言葉を聞かされても、一夜には『ホームズ』と言う名に心当たりがあるだけで、目の前にいる12~3歳の少女に会った憶えなど、微塵も無いのだから。


「お、おい。俺とお前があった事がある?冗談はよせ、俺にはそんな憶えはない」

「そうでしょう。お父様も私も予測してましたから」


 再度シャルロットが口にするお父様、そして『予測』と言う言葉。その二つから一夜の中で、目の前の少女の正体に目星がついてきた。だが、今だに確証には至らない。

 そこで一夜は、シャルロットにある質問を投げかける。


「お前の父親はなんて名前だ?」


 そう、一夜はシャルロットの父親の名前を聞く事で、ある程度の関連性を見出そうとしていた。


「お父様の名前は、ジョン・ホームズ。祖父が友人の名前を借りて名付けた様です」

「ジョン・ホームズ。もう一つ、祖父の名前は?」


 ジョンが祖父の友人の名前だと分かった時点で、一夜の中の予想は殆ど確証に至りかけていた。


「祖父の名前は、シャーロック・ホームズですが」

「探偵のか、やっぱりな」


 シャルロットの祖父の名前を口にした瞬間、一夜は確信した。目の前に居る少女がアーサー・コナンドイル著作の架空の登場人物。シャーロック・ホームズの孫、つまりは世界的に有名な私立探偵の子孫だという事だ。


「あまり驚かないんですね」

「まぁ、ホームズって名前を聞いてから、ある程度予想してたからな」


 緋色の研究から始まるシャーロックホームズシリーズ。有名なコナンドイルの小説だが、実はあの話は実話だと言う説がある。何の根拠も突拍子もない話だが、目の前の少女がそれが真実だと物語っている。

 広深域思考の話が本当だとすると、それこそシャルロットが名探偵の孫である事の証明でもある。


「名前以外にお前がシャーロック・ホームズの孫だって事の証拠はあるのか?」

「証拠はありませんが、実証は出来ます」

「実証って事は、推理するって事か?」

「簡単な物ですけどね。貴方がどうしてMI6に入ったか、それを推理してあげましょう」


 一夜がMI6に入った理由。これを知っているのは、本人である一夜とその一夜をスカウトしたアリス、そして一夜と同じ司令補佐のオリヴィアの三人だけ。

 シャルロットが、アリスやオリヴィアと面識がないのは、アリスと今回の仕事の話をした時点で一夜には分かっていた。

その為、シャルロットが本当の理由を言い当てれば、それは推理による物だという証明になる。


「当てれるんなら当ててみな」

「貴方は、両親と妹を亡くしている。両親は交通事故で、妹は殺された。貴方は妹を殺した者に復讐を果たす為にMI6日本支部に入った。違いますか?」


 シャルロットは、一夜のMI6加入の理由を言い当てた。だが、アリスやオリヴィアも知らない核心部分までは、言い当てる事が出来なかった。


「八割、だな。まぁ予想の域を出ないとは言っても、殆ど情報が無い状態で俺の両親の生死や死因。妹が居た事まで言い当てたんだ、信じるに値するか」

「それはよかったです。それと、私が貴方の事を知っていた理由ですが、それは私と貴方の親にパイプがあったからです。そして、お父様からの遺言で、日本に来る時は神崎の家を頼るようにと」


 一夜にとって、シャルロットのその言葉は、『今明かされる衝撃の真実』と言う程のインパクトがあった。

だがそれ以上の呆れも感じていた。


「あのバカ親父、そう言う事は死ぬ前に一言言っとけっての」

「事故で無くなったのなら仕方ないでしょう。それよりも、そろそろ着くはずですよ」

「はい、もう見えております」


 シャルロットの言葉に同意する様に、アルフレッドは振り返る事なく口にする。


「もう見えてるって、目の前にあるの、鉄柵何だが」

「はい、だからもう見えてるんですよ」


 一夜の困惑と疑問に、今度はシャルロットが平然と答える。


「まさかとは思うが、この山全部が別荘。とか言うんじゃないだろうな」

「そのまさかですが、何か?」


 その答えを聞いた一夜は、言葉を失う。

 リムジン程度であれば、保有していても、海外の金持ちならあり得る事だから一夜もあまり驚かない。だが、別荘で標高2000mを超える山一つを所有しているのは、大富豪でも珍しいだろう。


「何か?って、別荘でこんな広い土地いらないだろ」

「理由が色々ありまして、山一つ買い取ったんですよ」

「どんな理由があったら山一つ買うんだよ」


 鉄製の閉ざされたゲートの前で、リムジンが一時停車する。

 山の麓一周に設置された、三メートルはあろうかと言う鉄柵と鉄製のゲート。そのゲートがゆっくりと開き、リムジンは再度走り出す。

 それから暫く車内は静まっていたが、シャルロットが静かに口を開く。


「理由の一つですが、今から見えてくる建物が街に立っていると、違和感があるんですよ」

「違和感って、今の日本は色々なタイプの建築物が立ち並んでる。違和感なんて殆どないと思うが」

「まぁ、見れば分かりますよ」


 シャルロットのその言葉に、一夜はそれ以上の追及を求めない。

 そして、問題の建物本体が見えてくる。一夜は、その建物を見た瞬間、シャルロットの言っていた言葉の意味を理解する。


「確かにこれは、別荘地に建っていたとしても違和感があるな」


 二階建ての建築物で、外壁は黒く、西洋によくある建築物その物だった。だが、確かに日本にはなじまないであろう部分も存在してた。

 その建物の外壁は、窓や扉を除けば、全てレンガで構成されている。別荘や一般の家屋でも外壁がレンガ模様の物もあるが、そう言った建物の壁の中身自体は、耐震性の高いコンクリート壁だが。今、一夜の目の前に建っている建物の壁は、レンガ百%で構成されている。


「これ、地震とか大丈夫なのか?」

「その点は問題ありません。こう見えても、耐震性能はその辺りの建物よりも優れていますので」


 レンガ壁なのにも関わらず、どうやって優れた耐震性を確保しているのか、一夜にはそれが理解できない。

 玄関に続く階段前にリムジンが停車する。そして、アルフレッドが最初に降車し、後部シートの扉を開ける。


「どうぞ」


 アルフレッドのその言葉の後、まずは一夜が降車、続いてシャルロットも降りてくる。


「ではお二人はお先にお部屋に、私は車を車庫の方へ回してきますので」


 そう言って、アルフレッドは再度リムジンに乗り込み、発進する。

 一夜とシャルロットは、階段を上って行く。そして、玄関の扉を開き中に入る。


「お帰りなさいませ、シャルロット様」


 二人のメイドが、シャルロットと一夜を玄関で出迎える。そしてメインホールの二階へ続く階段から、一夜には見慣れた人物が下りてくる。


「やっと来たわね、一夜」

「げ、アリス」


 その人物とは、MI6日本支部の司令官、アリス・ホワイト。


「あら、忘れ物を届けに来てあげたのにその言い方は何?」

「忘れ物って、どうやってここに入ったんだよ」

「それは、私がご招待したんですよ。プライベートジェットに乗っていたら電話がかかってきましてね。少し驚きましたよ」


 シャルロットの富豪ぶりに、一夜は驚きを通り越し、溜息を零す。


「それで?俺の忘れ物って何だよ」

「これよ」


 そう言いながらアリスが取り出したのは、肩掛け用のホルスター。ただ一夜が使用しているものと違い、二丁収納できるタイプ。更に、スイッチブレードも二本収納できる。

 そして、片側の収納スペースには、一夜が使っている物と同じガバメントが納められていた。


「それなら持って来ている」

「違う違う、これは予備の武装よ。護衛任務は長い期間だからね。メンテナンスが難しくなるから予備を渡しておくのよ。それと、弾はホームズさんが用意してくれるみたいだから」

「はい、いくらでもどんな種類でも提供できます」


 いくら富豪でも、銃規制の強い日本で様々な且、大量の銃弾を入手するのは難しい。


「どんなルートで入手してんだよ」

「まぁ、日本にもいくらかコネクションはあるので」


 シャルロットは、日本の警察や自衛隊等にパイプがある為、ある程度の物なら入手可能なのだ。

 一夜は、アリスの持ってきたホルスターを受け取って、自分が身に着けている物を外し、受け取ったホルスターを取り付けて、外したホルスターに納めていたガバメントを移し替える。


「それで、アリスはこれで戻るんだろ?」

「いいや、私はと言うか、MI6日本支部職員は全員、今日から一週間休職だから、暫くはここでお世話になる予定だよ」

「はぁ!?なら俺は?」


 一夜は一週間の休職等言い渡されていない。無論、護衛任務に単身で付くという事は、実質休み無し、と言われるような物だが、全職員休暇にも関わらず一人だけ仕事をする事を、アリスもオリヴィアも一夜に告げてはいなかった。


「護衛任務何だから勿論、休みなんてないわよ?」

「だろうな。まぁ、護衛任務は何も起きなければ休暇と大して変わらないからいいか」


 そんな呑気な事を言う一夜に、シャルロットは否定の言葉を返す。


「何も起きないなんて事、ありませんよ。例えば今から三十秒後、玄関の扉から三人の賊が押し入ってきます」


 唐突な、なんの根拠もないシャルロットの予言。しかしそれは、名探偵の血筋の予言でもある。


「そんな事無いだろ」


 一夜が言った言葉の直後、玄関の扉が勢いよく開かれ、アサルトライフルで武装した男が三人押し入ってくる。

 扉が開かれた音に、一夜とシャルロットが反応し、振り返る。


「殺しは無しですよ?」

「I will kill you !!」


 男達は、そう叫びながらライフルの銃口をシャルロットに向ける。それを見た一夜は、瞬歩を使い男達に詰め寄り、右腕を三回振る。その後、男達の後ろへと抜けて行く。

 それに気付かない、否、気付けない男達は、指を引くが、引き金が引かれる事はない。


「why !?」


引き金が引けなかった賊は、目の前に居た男がいない事にようやく気が付く。


「こっちだよ、馬鹿共」


 そう言いながら、一夜は賊の一人に後方から回し蹴りを喰らわせる。その一夜の回し蹴りを頭部に受けた男は、気絶し仰向けに倒れる。

 それを見た残りの二人は、今度は一夜に銃口を向ける。


「だから馬鹿なんだよ」


 賊に呆れている一夜、その一夜の右手には黒色のナイフが握られている。

 一夜は、そのナイフを見せ付けるかの様に、空中へ放り、再度右手で柄の部分をつかみ取る。

 その動作を見た二人になった賊は、自分達の持つ銃の引き金が切断されている事に気が付き、ベルトのナイフケースからサバイバルナイフを抜く。


「やっと気付いたか」


 ナイフを抜いた賊の一人が、右から左へとナイフを振るい、一夜に斬りかかるが、それを一夜は少し身を引いて回避。そして、ナイフを手放し右手を中指の第二関節が突き出す様に握りなおし、斬りかかって来た男の右肩目掛け右ストレートを放つ。

 一夜の右腕から放たれた、フェンシングの突きにも似た一打は、男の右肩に直撃し、重く鈍い音を鳴らす。

 直後、男はその異様とも言える激痛から、言葉にもならない様な叫び声をあげる。

 だが一夜が手を休める事はない。今度は先程と同じ要領で、左肩・右胸・腹部中央へと攻撃を加える。

 その度に男は叫んでいたが、腹部への攻撃で痛みからくるショックで気を失う。


「骨を外された程度で一々叫びやがって」


 一人残された賊は、シャルロットではなく、その隣に立っていたアリスへと駆け寄り、人質としようとしたが、アリスは自分を掴もうと伸ばされた左腕の袖口を逆に掴み、右足で男の足を払い、掴んだ袖口を引く。

 すると、男は空中で一回転して、背中から床に打ち付けられる。


「はい、おしまい」


 アリスの言葉と同時に、一夜が懐から抜いたガバメントの銃子を、男の額に向ける。

 それを見た男は、観念したかの様にナイフを手放し、倒れた状態で両手をあげ、降伏の姿勢を取る。

 それに対して一夜は、止めと言わんばかりに、男の顔面をガバメントのグリップの底で殴りつける。


「こいつら一体なん何だ?」

「恐らく、私が生きている事で不利益を被る者達かと」

「つまり、こいつらは俺達と同類って事か」


 一夜やアリスも、イギリスにとって不利益、危険になる人物の抹消が仕事。やっている事自体は、今の賊と大して変わらない。


「ですが、貴方方は何もそう言った汚れ仕事だけではないでしょう?」

「確かにそうですけど、仕事の内容としては大半が危険分子の抹消。彼も数か月で数百人殺す事も有ります」


 一夜達の仕事はイギリスの為、と言う前提が元の仕事。殺しもイギリスと言う国を支える為の手段。だが本来は一年を通しても百人以上の処理は珍しく。数か月で数百人など、本来はあり得ないのだが、二日前のオークション会場での仕事の影響で、一夜は一年も経たずに数百人を処理している事になっている。


「そうですか。神崎一夜さん、一つお願いがあります」

「なんだ」


 アリスからシャルロットは、一夜がこれまで多くの人間を手にかけてきた事を聞かされた。そんな上での頼み事、一夜は何となくではあるが、理解していた。


「この護衛のお仕事中は、誰一人として命を奪わないでください」

「・・・・・それは約束しかねる。あんたが危険な場合はやむなく、って事も有るかも知れないからな」


 一夜は自覚していた。自分が持つ才能はあくまでも、相手を殺す才能であって、誰かを守る物では無い事を。

 そんな殺しの才能でもある程度レベルを落とせば、相手を殺さず戦う事は出来るだろう。だが、そうすればいざと言う時に肝心な者を守れない。


「それでも、です。それとも、自信が無いんですか?相手を殺さずに私を守る自信が」


 シャルロットの挑発ともとれる言葉。その言葉を聞いた一夜は


「・・・分かったよ。ただ、それで死んでも文句言うなよ」


 そのシャルロットの要望を受け入れる。


「えぇ、『死人に口なし』ですから」


 そんなやり取りの後、賊を警察に突き出し、一夜とアリスは客間に通される。


「まんまと乗せられたね、一夜君?」

「その喋り方でいいのか?俺は仕事中なんだが」


 アリスが、一夜と二人きりの時に見せる。『妹』としての一面。司令官としての威厳を損なわない為に、他の職員に聞かれる可能性のある場所では絶対に見せないアリスのもう一つの側面。

 無論、一夜とアリスは兄妹ではない。だが、幼い頃から大人に囲まれて育ってきたアリスにとって、近しい年代の一夜は兄の様に、そして友と言える存在に映っていた。


「うん、だってここには日本支部の皆は居ないからね~」

「はぁ、その落差に振り回される俺の身にもなってくれよ」

「無理で~す。だって私、一夜君じゃないもん」


 アリスは、ベッドに仰向けに寝転びながら膝を曲げて伸ばすを、両足で交互に繰り返す。


「さてはお前、その状態で俺に会いたいから一週間も業務停止にしたのか?」


 一夜のその問いに、アリスは足の動きを止め、返答する。


「え、えぇ~ナンノコトカナ~」


 明らかな棒読みの返答をするアリスに、呆れた視線を向ける一夜。


「図星だな」

「だって~、いつも一夜君と会えるの仕事の時だけじゃん。仕事が終わって会いに行っても一夜君寝てるし」

「それはお前が、ハードな仕事ばっかり俺に回してくるからだろ」

「だって、一夜君以外にこなせる人いないんだもん」


 他人には毅然な態度で接する為、一夜も忘れがちだがアリスは、16歳の少女。更にアリスは両親の顔も知らない、幼いころにMI6に保護されて、そのまま育てられ訓練を積んできた。まともな愛情を受けていない。

 その為、同い年の子達よりも愛情を欲している。


「だからって、こんなやり方しなくてもいいだろ」

「これでも、この一週間の為に頑張ったんだよ?今週分の書類仕事を昨日までに全部終わらせて、それでもオリヴィアに止められない様にしっかり休んで」


 アリスは、一夜に反論させまいと、この時の為に今までしてきた努力をまくしたてる。


「はいはい、分かった。二人きりの時はいくらでも付き合ってやるから、取り敢えず落ち着け」


 アリスのこの一夜への接し方は、云わばストレスの発散でもある。いつも幼いながらに、司令官という責任と重圧を受け、まともにその重圧が解かれることはない。それを知っている一夜は、拒む事が出来ない。


「てことは、これから一週間のどこかに、こうやって話せる時間があるって事だよね!」


 一夜が、嬉しそうにしているアリスを見るのは、最初に『一夜君』と呼ばれて以来の事だった。

 二人がほのぼのとした会話をしていると、部屋のドアがノックされる。


「はい、どなたですか?」


 アリスがそのノックに反応し、すぐさま仕事時のスイッチを入れる。

 そして扉が開かれ、その奥から姿を現したのは、リムジンを車庫へと走らせていったアルフレッドだった


「アルフレッドです。一夜様、こちらを脱衣所まで運んで頂けないでしょうか」


 そういうアルフレッドが抱えているのは、女性物の洋服だった。

 それを見た一夜は、嫌な予感がして断ろうとしたが


「他の使いの者は、今手が離せず、アリス様もご休暇です。かくいう私も、これから洗車がありますので、お願い出来ませんか?」

「あんた、見事に俺の退路を潰してくれたな」

「何のことでしょうか」


 一夜は断る理由を潰され、渋々アルフレッドの願いを聞き入れ、洋服を受け取り脱衣所に向かう。

 その一夜の後を、アリスはついて行く。

 そして、脱衣所の扉の前に来て、一夜の足が止まる。


「なぁ、嫌な予感がするんだが」

「何言ってるの?流石に、お風呂を上がる時間が決まってるから、一夜君に頼んだんだと思うけど」


 そのアリスの言葉を聞いた一夜は、覚悟決めて脱衣所の扉を開ける。そこには誰の姿も無かった。ほっとした一夜は、畳まれ棚に置かれた服の横に、アルフレッドに渡された洋服を置く。

 その瞬間、浴室の扉が開かれ、中から金色の長い髪と、その白く細い肢体を濡らした少女、シャルロットが姿を現す。

 勿論、今の今まで風呂に入っていたシャルロットは、身体を隠す物など身に付けてはおらず、そのか細い体つきが晒されていた。


「なっ」


 一夜は、シャルロットの幼く可愛らしいその姿に言葉が詰まる。

 直後、シャルロットも一夜に気が付く。


「神崎さん。洋服、運んでくれてありがとうございます」


 だが、シャルロットは叫ぶ訳でも、怒る訳でも、何を隠す訳でもなく、一夜に服を持って来てくれた礼を言う。

 一夜もアリスも、今現在起きている事を理解する事が出来ない。そんな二人を置き去りに、シャルロットはタオルで自身の体の水分を拭きとり始める。


「はっ!一夜、いつまで見てるのよ!!」


 ようやく現状を理解できたアリスが、一夜の後頭部を殴りつける。その殴打とアリスの言葉で一夜も理解し、振り向きシャルロットに背を向ける。


「す、すまんシャルロット。覗くつもりはなかったんだ」


 典型的な言い訳に聞こえる弁明。それが真実であったとしても、こんな言葉を信じる者は殆どいないだろう。だが


「えぇ、分かっていますよ。どうせアルフレッド辺りに頼まれたのでしょう?」


 シャルロットは、一夜のそんな胡散臭い言葉を信じた。


「あぁ、流石名探偵の血を継いでるだけあるな」

「まったく、彼も余計な事をしますね」


 小さく零したシャルロットの言葉に、アリスは噛み付く。


「余計な事?それはどういう意味?」

「貴女には関係の無い事ですので」


 シャルロットの冷たい態度に、アリスは怒りを覚え、言葉使いが荒くなる。


「そう、行くわよ一夜。彼女に構う事なんてないわ」

「構うも何も、俺はシャルロットの護衛なんだが」


 二人のやり取りに、多少なりと呆れている一夜。その一夜にシャルロットが言葉を掛ける。


「私の事はシャルと呼んでもらって構いませんよ?『シャルロット』では呼びにくいでしょう」


 その言葉に、さらに怒りが加速したアリスは、一夜の手を無理矢理引っ張る。


「行くわよ」

「いや、だから俺はこいつの護衛」


 一夜が言葉言い切る前に、シャルロットが再び口を開く。


「この別荘内にいる間は問題ありません。今朝の賊の様な者はもういませんので」


 その言葉を聞いたアリスは、一夜の手を引く力を更に強め、自分が通された客室へと一夜と共に戻る。

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裏世界執行人〈死神〉 小山愛結 @Kanzaki00

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