俺達に訪れるという春についての考察

せせりもどき

春の色とは

一つ問いたいと思う

春ってやつは何色なんだろう?


ーー 新しい門出を迎える、その季節

俺を出迎えたのは、パステルブルーの空を染め上げる薄桃色の雨だった



今の季節は、間違いなく春だ

であるならば

春はピンク色と言っていいだろうか?


…いや、それは早計だと思う


まるで、そんなふうに描写すれば

まだ見ぬ新天地に期待に胸膨らませる

ピカピカの新入生だと

みんな勘違いするかも知れない


だけど、そんなことは一言も言ってない


なんと言っても、俺はこの光景をもう三シーズンも眺めている

その時抱いた、そんな期待は脆く崩れ去り

今現在、恋人はおろか、彼女すらおらず、挙句にガールフレンドもいない


ご覧の有様であれば、分かる通り


…ピンク色なのは、春では無く

そんな根拠のない期待を抱いていた

俺の頭だったと言える


ならば、青い春という言葉がある

そうすると、青色という事だろうか?


…だが俺の場合

何も書かれていないキャンバス

そんな何でも描けた筈の空白を


鮮やかな色もなく

黒でも白でもなく

ただ、埃っぽい灰色に塗り潰して浪費した


どんな色で描けば

そんなふうに見えるかと考えて

何を描けばそれになるかを考えて


ぐちゃぐちゃに混ぜたパレットには

そんな色しか残ってなかったから


間違いと知りながら

白いままのキャンバスは虚しすぎて

それでも、すべてを黒にする勇気はなく


そんなことを考えていれば

…通りすがりに肩を叩かれる


そちらを振り向けば

にこやかに笑う彼女がいた


「おはよー」

「…おはよう」


「これ、お土産」


キャラクターの描かれた

チョコクランチの入ったブリキ缶を渡される


それを眺めて苦笑いする俺

…結局、ランドの方行ったんだ


さんざん相談されて、シーにすればと

言った記憶があったけど

まぁ、俺には関係ない話だからどうでも良い


「…彼氏とはどうよ?」


何を書き足しても、灰色なのに

どんなに混ぜても変わらないのに

それでも聞いてしまう


彼女は俺に楽しげに写真を見せる


そんなコントラストを見せつけられて

歪みそうな顔を必死に堪えて笑顔を作る


これが、俺の青春たる帰結

青い春と書くそれは、灰色だった


恋なんてそんな淡い色が

いつキャンバスに入り込んだと言えば

桜の雨が降る入学式

俺がここに初めて訪れた時だ


…つまり俺は、そんな思いを抱いたまま

告げもせず逃げもせず

愚かしくこんな季節を

3シーズンも過ごしていた事になる


二度あることは、三度あるなんて

そんな楽観で

仏の顔は三度までなんて誤魔化して


そんな見逃し三振を続けて

スリーアウトで世界は変わってしまった


「…仲良さそうで何よりだな」

そんな呟きを漏らすのが精一杯なら


そんな全部を黒く塗りつぶして

無かったことにしてしまえばいいのに


その時間を過ちと認められずに

キャンバスに描かれた淡い色を隠すために

ずっと灰色で塗り潰していく


もう一度聞きたい

そんな春の色って、何色なのか?


灰色のキャンバスに描くべき青春は

彼女以外の何色になら染まるのだろう?


誰か、教えてほしい


他の全ては灰色の癖に

脳細胞だけはピンク色の救えない俺は

…その答えを見つける事はできないまま


彼女の隣を、ゆっくりと歩いて

桜の雨を捕まえながら

なんの気無しにそれを聞いてみる

「なぁ、春って何色だろうな?」


彼女はその言葉に少しだけ笑う

「…灰色」

「それが、私の春の全てだったよ」


そんな言葉で春の終わりを告げられてやっと

季節はうつろうことに、思い至る


あぁだから…全ての色を洗い流す為に

春の終わりに梅雨があるのだと


そう納得して、苦々しく笑って

こんな言葉を彼女に贈ろう


「どうか末永くお幸せに…」


それを聞いた

彼女の笑顔は、まるで夏の晴天のようで


…自分の季節感のなさに、少し嫌気が差した




















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俺達に訪れるという春についての考察 せせりもどき @seserimodoki

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