第60話 俺は他界しちゃった~ (21)
それどころか? 元妻にちゃんと職についてくれと強く要望をされれば直ぐに。
「ちゃんと稼いて、家のローンや車のローン、携帯電話の使用料に光熱費、子供の学費だってちゃんと払ってきただろうに。だからいいじゃないか……」
とにかく和は、こんな感じの台詞を元妻に長年にかけて言い続けてきては誤魔化してきた。
だから彼は彼女に愛想つかれて、家の売却が良い機会だと用意周到……。
先程元妻は新しく入居する家のエアコンなどの電気工事の立ち会いをするからいってくると出かけたが。
実は和は、その新居の住所と場所を知らないのだよ。
まさか和も自分自身が、五十歳を過ぎて、映画やドラマのように家族に捨てられるとも思っていなかったので、元妻が新居を探している最中に。彼女に『何処に住むのか? 住所は何処だ?』と、猜疑心のある目で根掘り葉掘りと訊ねていないのだ。
それに和が元妻に、「不動産屋についていってやろうか?」と訊ねても。
「ん? あああ、うちは一人で大丈夫……。子供達といってくるから」
元妻は和にこう言っては、彼が不動産屋についてくることを妙に拒んだのだよ。
その時は和も『まさか?』というか? 自分自身が家の売却と共に家族に捨てられるとも予想すらできなかったので。
「あああ、そうか……。じゃ、子供達と言ってこい。気をつけていきな」
和はこんな安易な言葉を元妻に告げるのみで、全く気にもしていなかった。
でも今、元妻から『別れよう』と、告げられて初めてわかり気が付いた。自分が家族に捨てられた。
それも、先程から傍から見ている者達が何度も言葉を漏らす通りで、用意周到……。
と、なると?
和も元妻に『考え直してくれ』『儂を捨てないでくれ、頼むよ……』『儂はこれから先の老後をどう暮らしていけばいいのだ……。お前、結婚する時に言ったじゃないか? 老後……死ぬまで一緒にいようとね……。みんなあれはうそだったのか! お前は、儂を騙してきたのか? 今迄?』と、嘆願や不満……。
今迄元妻に騙されてきたのだと思い。憤怒──。
『わりゃ~! お前~! 新しい新居の住所と場所を教えやぁ~。今からいっちゃるけぇ~!』
元妻に怒号を放ってやりたい衝動には駆られたが、言うだけ無駄だと彼もわかっているので。
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