第54話 俺は他界しちゃった~ (16)

 和もそんな老犬の気持ちを察したのか?


「まあ、いじけていても仕方が無いか……。有り難うなぁ~、老犬爺さん……」


 と、言葉を漏らしながら、犬用のゲージの中に、ゆるりと優しく、老犬を戻すのだよ。戻し終えればまた老犬から。


「クゥ~ン! クゥ~ン! ワン! ワン! (頑張れ! 頑張れ! お父さん!)」


 と、和の背を押す叱咤激励の言葉が放たれる。


 そんな老犬の鳴き声を背に受けた和は、更に気を良くして、『よ~し! 頑張るか!』と、心の中で呟くのだった。



 ◇◇◇◇◇



「はぁ、それにしても……」


 家財道具の無くなった部屋をゆるりと見渡す和なのだが。思わずこんな溜息と言葉が漏れるのだよ。


 先程彼は自身の愛犬だった者に、叱咤激励──。


 自身の背を押してもらい。何とか気を取り直し前向きに頑張ろうと心に誓うのだが。


 やはり家財道具の無くなった、塵とホコリしかない部屋を凝視すれば。


 やはり「はぁ~」と、溜息しか漏れてこない。


 まあ、その辺りは、和だけではなく、一度は自身の夢のマイホームを手放した者ならわかる筈なので、余り深く気落ちをしない方が良いと、傍から見ている者達は思う。


 まあ、そんなことを思いながら、和の様子を見ていると。


「さて、部屋の掃除でもするか……」


 今度は和の口から今迄長らくお世話になった部屋達の掃除でも始めようかと声が漏れる。


 そして漏れ終えると和は、近くに置いてある掃除機へと詰め寄り手で握る。


 でッ、彼は掃除機を握り終えると、電源を入れる。


 すると掃除機から『ブォ~ン!』と、大きな音が放たれる。


 それも部屋中に響き渡る程。


 そんな掃除機の大きな作動音を、和は聞きながら。


「掃除機の音って、こんなにも家中に響くほど大きな音だったけぇ~?」


 


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