第53話 俺は他界しちゃった~ (16)

 あの悪者男和がね。それも無意識になのだよ。


 今迄は老犬のことをろくに世話などしたこともない男が。急に老犬との永遠になるかもしれない別れ……。


 それに対しての謝罪を漏らし始めると、無意識のうちに老犬を抱き締め謝罪を告げていた何度も何度も……。


 まあ、和自身がこの家での過去……ノスタルジックに慕ったが為に、老犬に対して情が湧いただけだとは思うのだが。


 それでも和が今迄老犬におこなった所業を思えば。傍から今迄彼の様子を見ていた者達は、本当に驚愕しそうになる。


 まあ、そんな、今迄にない行動をして、こちら側の者達を困惑させている和なのだが。彼は老犬を強く抱き締めながら、相変わらず謝罪──。


 とうとう自身の瞳も潤ませて、目尻の端から熱い水までも流し始めたのだよ。大変に弱々しい様子でね。


 まあ、そんな彼の様子がわかるのかな、老犬は?


 和の目尻から流れてくる熱い物をペロペロと舐めて始めた。


 そしてまた老犬は、「クゥ~ン! ワン! ワン!」と鳴いて舐めを繰り返し、和のことを労るのだよ。


 自身が過去に和から受けた労りのない所業を水に流すように。


「お父さん、がんばれ! また一からやり直せばいいよ!」


 と、和に告げ。励ましてくれているかのようにね。



 

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