第15話 「「「「「よーし皆! 今日はセリフシンクロするぞ(ぜ、よ、わよ、にゃ)!!」」」」」 ②

「うーん、いいところまでいったんだがなあ」

 チノのファッションショーが終了後、アッシュがそう言うのを聞いて、リーア達はまだこの試練クエストは続くのかとため息をついた。


 戻ってきたヴァルドも「まだやるのかよ」とこぼすが、これに対しては女性陣が半目でヴァルドの方を睨む。

「おっ、なんだよ……」

「ヴァルドがハイテンションしなきゃシンクロ達成できたのに」


「シンクロってなあに?」

 リーアの言葉に元の衣装に着替え直したチノが反応する。


「簡単に言うと星の白銀みんなのセリフが一緒にならないといけないの」


 そうして今日の試練の内容が説明されると、チノが考え込む。

 気に入ったのか、これだけはかぶったままの上耳穴の空いた帽子。そこから飛び出した灰白色のケモ耳がふいにピンと立った。

「ねえ、リーアお姉ちゃん。セリフが一致したら解放されるってことは、なぞなぞ大会をやればいいんだよ」


「さすがチノちゃん、賢いぜ! で、どういうことだいそれは」

「あのね、私がなぞなぞ出すから、お父さん達が一斉に答えるの。それで全員が正解できたら、今日の所は解散ってことにして欲しいんだよ、アッシュ兄ちゃん」


「うーむ。ルールは分かったが、なぞなぞはちょいと簡単すぎないか。誰でもできるんじゃあ高PTにつながらないからな」


 アッシュが反対するが、メンバーは光明が見えたことで一斉に説得にかかる。

「おいおいアッシュ。チノちゃんをその辺のガキと一緒にすんなよ。そんな単純な問題は出さねえよ」

「大丈夫よアッシュ。チノちゃんはお母さん似なんだから」

「どういう意味だ、セレス!」


「そだよ。簡単すぎってなら、じゃあドワーフ兄弟にも答えさせて、三人が正解したら、その問題は無効ってことでもいいよ」

「「「どういう意味でえ、娘っ子が!」」」


「んじゃまあ、やってみるか」

 アッシュの了承を逃さず、皆がすぐさま場を整えるべく動き出した。


     ◇◇◇◇◇


「さあ、それではチノちゃんプレゼンツ、ゲリライベント第二弾、冒険者パーティー対抗なぞなぞ大会を開催します!」

 受付嬢エルザの声が広い受付部屋に響き渡る。

 ステージの右側に設置された椅子には星の白銀の四人。左側にはドワーフ三兄弟が座る。


 そのステージ前面に詰めるのは先ほどのファッションショーの余韻も冷めやらぬ冒険者達。

 赤い大渦亭の女将さんと店員がその間をぬって、酒やつまみを売って回る。


 ステージ中心に立つチノが堂々と観客を見回し、手を振って歓声に応える。


「さて、ルールは簡単。これからチノちゃんが出題するなぞなぞに両パーティー同時に回答してもらいます。正解ごとに1点とし、先に5点に到達したパーティーの勝利となります。ただし今回はパーティー対抗戦。全員が答えを一致させないと得点にはなりません」

 ルールを説明するのは司会者を務めるエルザ。


 だれか一人でも答えを間違えると、パーティーとしての正解にならないという厳しいルール。人数が多い星の白銀に不利だが、そこは頭脳系の勝負なのだからそもそも三兄弟の方がハンデをおっている。そう考えてリーア達からも観客達からも文句をつけることはなかった。


「見事勝利したパーティーには報酬として、赤い大渦亭から銘酒の数々にオーク肉の香草煮込みシチューの鍋底のお焦げ付きが提供されます」

 おおっ、と回答者からも観客からも歓声が上がる。


「敗れたパーティーにはペナルティとして、ギルドから塩漬け依頼である北の山に迷い居着いた将軍オークの討伐を指名します」

 ステージの両端からふざけんな、と声が上がる。


 日々荒れくれ者を相手にしている有能職員エルザは抗議の声をあっさり無視して、さくさく司会を進める。


「さあ、それでは始めましょう。チノちゃん、第一問お願いします!」


◆◆◆第一問◆◆◆

「それじゃあ最初は簡単なのからいくね。犬は犬でも、熱々で赤いソースがかかって食べられる犬はなあに?」


 チノの出題に、一同が一斉に回答。

「「「「「「「ヘルハウンド黒妖犬!」」」」」」」


「はい、両パーティー、正解です。共に1点獲得。ヘルハウンド、別名地獄の猟犬。正直あんまりおいしくはないですけど、自身がまとってた炎で討伐後に即調理できるので、これで小腹を満たすのは冒険者あるあるですね。

 ちなみに火属性がついたヘルハウンドの魔石は安定して需要ありますから。観客の皆さんもどんどん討伐してきてくださいね」


 エルザの頼みに、受付部屋に詰める冒険者達がうおっす、と了解の合図。


◆◆◆第二問◆◆◆

「えっとね、朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これなーんだ」


(これも簡単なやつだ。これ皆分かるよね。あっ、ドワーフ兄弟は首をかしげてる。知らないんだよ。とったね、これ)

 リーアがにひひ、とほくそ笑む。


「では皆さん、一斉に回答をどうぞ――――」

 エルザの合図に皆が一斉に口を開いた。


「「「人間」」」

「「「昨日の女将さん」」」

「英雄叙事詩イロハス第3巻」


「ほわっ! アッシュ、なにそれ!」

 勝利を確信していたリーアだが、アッシュ一人だけが見当違いの回答。


「はい、ドワーフチームは全員一致ながら不正解。ちなみに三人は昨日休みで朝から大渦亭で酔っ払ってました。正解は『人間』ですけど、アッシュさんが不正解のため星の白銀パーティーも0点です。アッシュさん、何です今の?」


「ああ、これは英雄アクエリオンが冥府の国に赴いた時のエピソードでな。最初は馬に乗って荒野をかけていたんだが、途中で毒蜥蜴ポイズンリザードの群れに出くわして馬を失って、徒歩で歩く羽目になってな。最後に生者と死者の世界を分ける荒れ狂う海。これを捕らえた半馬半魚の海馬ヒッポカムポスを操って乗り越える。四本足、二本足、三本足と移っていくわけだな。舞台の荒廃した様とアクエリオンの心情描写が合致した名エピソードの一つだ」

 アッシュが観客に向けて語り出す。


「あー、これなんか星の白銀側はアッシュさんがネックになりそうですね」

「「「アッシュー!」」」


◆◆◆第三問◆◆◆

「上は大水、下は大火事。これなーんだ」


「「「風呂」」」とドワーフ兄弟。

「「「シチュー鍋」」」と星の白銀。

「英雄叙事詩イロハス第7巻」とアッシュ。


「リーアちゃん達は正解。答えはシチュー鍋です。まあ鍋の中身はスープでも正解になりますけど。グレゴさん達の風呂って何です?」


「ええっ、水入れた風呂釜を下の薪であっためるだろ」

 チノとエルザがステージの真ん中で首をかしげる。


「薪? 皆さん魔法は使えないでしょうけど、ヘルハウンドとかの魔石を沈めとけばいいじゃないですか」

「昔はそんなもんなかったんだよ」

「はっはっはっ。チノちゃんは現代っ子だからそんな古臭いタイプは知らないのさ」


 火属性を宿す魔石を誰にでも使えるようにする技術。それが普及したのはここ数十年のことである。

「それに魔石なんかじゃぬるいからな。熱々の風呂に入らねえと湯上がりの酒がいまいち決まらねえんだよ」


「そういえば私の実家にもあったわね、その薪で沸かすやつ。燃料費が余計にかかるから今となっては貴族趣味よね」


 結局ドワーフ兄弟と観客の中からも昔を知る長命種から物言いが入り、三兄弟の回答も正解とされることに。これにより三兄弟が1点リードする形となった。


「それよりもだ。このイロハス7巻はな、帝国との戦いが描かれるんだが、ここでアクエリオンが火計と川をせき止めての水責めを――――」

「さて、チノちゃん次の問題へいきましょう」


◆◆◆第四問◆◆◆

「手に触れずに破ることができるのってなあに?」


「「「約束」」」

 アッシュ、リーア、セレスが正解。

「限界」と答えたのはヴァルド。


「「「ぴちぴちシャツ」」」


 ドワーフの誤答に皆の視線が集まると、「えっ、簡単だろ」と三兄弟が上着を脱ぎ捨て、フンッといきむ。するとピッタリと張り付いたシャツに破れが生じる。おおっと観客が沸き立つ。

 ヴァルドが「オレにもそれくらい」と上着を脱いだが、妻の咎める視線に気づいていそいそと着直した。


「おっと、それでオレの答だが、限界ってのはこないだの大蟻メガアントの討伐の時のことよ。あの時は予想外に巣から出てきた女王蟻と直接対決するハメになった。だがオレにはチノちゃんに蟻蜜を届けるという使命があるんだ。その胸の熱がオレを燃え上がらせて――――」

「次いっくよー」


◆◆◆第五問◆◆◆

「見れば見るほど見えなくなるもの、なあんだ」


「「「バジリスク」」」「節穴」「ゴルゴン」「夢魔ナイトメア」「レイス」


「正解は節穴です。リーアちゃん以外不正解」


「ちょっと考えすぎたわね」

「意外とリーアがこういうの得意なんだよな」

「ふふんっ」


◆◆◆第六問◆◆◆

「顔が6つ、目は21こ。これなあに?」


「えっと、ヒドラ系の多頭モンスターのことかしら?」

蜘蛛乙女アラクネみたいな複眼系じゃないか」

「逆に6体もいたら目は21以上になるわね。……あれじゃない、名前忘れたけどダンジョンで見たあの単眼モンスターじゃない?」

「おう、なんか思い出せないけどいたな。1つ目のやつと亜種で複眼入れて十個くらいあるやつと。ええと、どういう組み合わせにすれば目が21個になるんだ?――――」


「はい、そこ相談しないで下さい!」


「「「「「サイコロ」」」」」


 三兄弟とヴァルド、リーアが声を揃える。そして何言ってんだお前ら、そんな目で敗者に目を向ける。


「くっ……」

「だめね、アッシュに引きずられてるわ私」


◆◆◆第七問◆◆◆

「ある家に同じ日に同じ母親から生まれた二人の赤ん坊がいます。でも母親は子供たちは双子ではないと言います。なぜでしょう」


「「「取替っ子チェンジリングじゃねえか」」」

「「「「貴族の家だったから」」」」


「はい、貴族家では双子は忌み子といって、片方は生まれていないことにして外に養子に出しますね。星の白銀は全員正解で1点獲得です」


 そして出題はつづき……


「さあ両パーティー4点獲得で並びました。果たして将軍オーク討伐はどちらのパーティーの元へ? さあチノちゃんお願いします」


◆◆◆第二十問◆◆◆

「それじゃあいくよー、30かける2、足す6、引く8はいくつ?」


 なぞなぞ大会も佳境に入り、出題が算術問題に切り替わる。


「おー、これだよこういうのまってたよ。見てよドワーフ兄弟、全員で手と足の指折って数え始めてる時点で絶対に不正解だよ。これならアッシュもオトボケしようがないし。とったよこれ!」

 勝利を確信したリーアが仲間たちに笑顔を向ける。


「チノちゃんいつのまにこんな難しい計算を……おい、セレス。30かける2って、こないだカウフ商会で買った付与付きの矢30本パック2つで角兎が何十体仕留められたかってことだよな」

 ヴァルドがこっそりとセレスにヒントを求めようとして、エルザに視線で注意される。

(これチノちゃんが出題できるのがすごいのよね)

 そんなチノは自信満々にステージ中央に立っている。


「さあそれでは皆さん回答を!」


「「「「58!」」」」

「「「3268!」」」


 同時に両パーティーが回答。すると司会のエルザは何も言わずに星の白銀サイドに歩み寄る。と思いきや、くるっと反転して三兄弟サイドに近づき、にこりと笑顔で一枚の紙を手渡す。

「将軍オークの討伐、よろしくお願いしますね」


 がくりと肩を落とす三兄弟。

「ということで、星の白銀パーティー、正解! なぞなぞ大会は星の白銀シルバー・スターの勝利です!」


「「「やったー!!!」」」

(よかったぜ、合ってたー!)

 腕を突き上げて喜ぶ面々


「「「うぉおおおお!」」」

 観客席からも惜しみない拍手と歓声が浴びせられる。


「ありがとうありがとう。辺境伯領のかしこいリーダー、チノちゃんにも拍手を頼むぜ!」

 ヴァルドがチノを肩車して観客席を練り歩く。


 三兄弟もアッシュが指名依頼の報酬だと、賞品の銘酒の数々を分けると伝えると、大喜びで赤い大渦亭に走り込む。その勢いにつられ、皆も打ち上げと称して赤い大渦亭に移り宴会を始めることになった。


 そしていつものテーブルにつくと、アッシュが皆に告げた。

「ようし、よくやってくれた皆。せっかくだからこの勢いで応用編にいこうじゃねえか」

「応用編?」

「ああ、これができるとPTはさらに跳ね上がるそうだ」

 皆が首をかしげる。


「なあに、ちょいとしたテクニックよ。具体的にはセリフをシンクロさせる際に、それぞれ語尾を変えるんだ。ヴァルドは『58だぜ』、リーアは『58だよ』、セレスは『58だわ』、っていうふうに微妙に変化をつけてくるんだ」

 今の俺達ならたやすいもんさ、そう自信満々に言い切るアッシュに対して皆は――――


「「「いい加減にしろー(してー、しなさい)!!」」」


※第七問は現代日本では『三つ子だった』が正解になります。

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