第14話 「「「「「よーし皆! 今日はセリフシンクロするぞ(ぜ、よ、わよ、にゃ)!!」」」」」 ①
冒険者ギルドに併設された鍛錬場。
新人とベテランまでが入り混じり。コンディションの調節から技の習得まで、多くの冒険者が日々汗を流している。
この日、その一角を占めていたのは
アッシュから今日はパーティーの連携の訓練を行うと聞かされていたリーア達であるが、いざこの場に来てみるとドワーフ三兄弟も隣に立っていたのだ。
「この三人をモンスターに見立てて練習するってことなの?」
リーアが聞いていないゲストの存在に首をかしげた。
「なんでいエルフの娘っ子が! 俺たちはな、アッシュに頼まれてお前達に稽古をつけに来たんだよ」
「その通りだ。今回グレゴ達には指導者として来てもらった。お前達、今日はよろしく頼むぜ」
「「「おうよ、任せときな!」」」
「ああんっ?」「稽古って、私達は
「ちょっと、アッシュ! ドワーフに何を教わろうっての!」
「おいおい、娘っ子が。俺たちが教えるとなったらこいつに決まってるだろう」
そう言って三兄弟は背中に担いでいた斧を掲げてみせた。
「いや、違うぞ」
アッシュがあっさり否定。
「えっ、じゃあ
「いいや、そういう戦いの術じゃあねえ。お前達は戦闘技術以外にもっと見事な技があるだろう」
三兄弟は顔を見合わせて自分達の得意の技を並べていく。
「「「酒の呑み方か?」」」
「「「酒場歌か?」」」
「「「腹太鼓?」」」
「「「髭の手入れ?」」」
だが、アッシュはいずれにも首を振って否定。
「「「いったい俺たちから何を習いたいってんだ?」」」
「ははっ、本人には案外分からねえか。まあお前達にとっては基本技であって、もはや意識もしてねえってことだろう。それはな、セリフのシンクロよ」
「「「なんでいそりゃ?」」」
「セリフ?」「シンクロって?」「これまた絶対酒場で妙なこと吹き込まれてるだろ」
「ああ、こないだ酒場で聞いたんだが高PTの冒険者パーティーってのは、メンバー全員で意識を統一させることができる。その現れが皆のセリフが自然と一致する現象なんだ」
「「「そうかあ?」」」と三兄弟は揃って首をかたむけて、次に互いに顔を見合わせた。「「「……ホントだな」」」
「皆も見たろ、今の三人の様子。見事にセリフもそのタイミングもぴったり一致してたぜ」
アッシュが訝しげな表情の仲間達に告げると、リーアが抗議する。
「違うよ、この兄弟は思考パターンが単純で語彙が少ないから自然と一致しちゃうだけなんだよ」
「「「なんでいエルフの娘っ子が!」」」
言い返すセリフも見事に一致させる三兄弟。
「おっと、また揃えちまったな。まあこいつは俺達兄弟の絆の強さによるもんだからよ。娘っ子みてえに
「キー!!!」
「で、具体的にどうすればいいの?」
セレスにそう問われたアッシュはドワーフ兄弟に顔を向ける。
「どうすりゃ俺達もそうなれる?」
「うーむ。斧だったら意識して訓練してったから、ある程度はやり方も分かるが、口を合わせるのは教えづらいぜ。んじゃまあ今日は俺たちについて歩きな。そうしていくうちに自然と覚えるだろうぜ」
「ほう、そうさせてもらおうか」
「納得いかない……」
◇◇◇◇◇
「「「女将さん、まずは
まずは腹ごしらえということになり、赤い大渦亭に移った一行。
席につくや三兄弟がお気に入りの酒を揃って注文。
「お茶」「黒茶」「エール」「ワイン」
一方、星の白銀の面々は全員の注文がばらつく。
注文が揃ってる分、先に届けられる火酒。そのカップを合わせてカチンと音を鳴らせ、得意げにあおる三兄弟。
「ムッカー、だよ」
やがて星の白銀の分の飲み物と、今日の女将さんのオススメメニューだというオーク肉の香草煮込みシチューが届けられた。
「「「うめえ、うめえ」」」
競うようにシチューをかきこむ三兄弟。
「旨いな」「うまいぜ」「おいしー」
星の白銀メンバーの匙も進む。
「これは! なんてまろやかなスープ。それになによりオーク肉の柔らかさ! この時期のオーク肉は筋が固いのに。はっ! 肉だけは煮込み方が違う? そう、これはミルクに漬けていたのね。そうすることで肉が柔らかに仕上がる…………いいえそれだけじゃない、このほんのりとした甘味ははちみつ。スープそのものは香草で薄く味付けしながらも、肉に染みた甘味が溶け出すことで全体をまろやかに統一しているというのね!」
「ちょっと、今いいところまで一致したのに! セレスさん、そうやって一人だけメガネを自慢するの止めて!」
「メガネって……」
◇◇◇◇◇
「あれ、チノちゃんじゃねえか?」
食事を終えて一行が受付部屋に移動すると、カウンターには受付嬢エルザの姿。そしてその前にはヴァルドの娘チノとその母親がいたのだ。チノはこちらに気づくと小走りに近づいていくる。
「アッシュ兄ちゃーん、お父さーん」
「あら、皆さん。いつも娘と夫がお世話になっています」
「どうしたんだ二人共その荷物は?」
チノと自分の妻が大きな荷物を抱えているのを見て、ヴァルドが尋ねる。
「さっき市場で会ったエルザさんが、服をくださるっていうからさっそく頂きにきたの。実家に置いてあったのを持ってきてくれたのよ」
「なんだ言ってくれりゃあオレがもらって帰ったのに」
「ふふ、チノがすぐにでも着たいっていったものだから」
私服であることから今日は非番なのであろう、受付嬢エルザが言う。
「私だけじゃなくて他の受付やってる皆からの分もあるんで、結構量はありますよ。お古ですけど、組み合わせ考えれば一年中楽しめると思います」
その言葉を聞いて皆は思った。
(((塩漬け依頼を私(オレ)達に受領させる代償であげるんだな)))
「エルザさんって街育ちだそうで、どれもとってもオシャレだからチノも浮かれちゃって」
母親の言葉通り、チノは布袋から取り出した上着を一枚羽織ると、その場でくるくると回りだす。
「あら、可愛いわねー」
その姿を見た通りすがりの冒険者の言葉を聞き、ヴァルドはふと思いついた。
「なあ、アッシュ。要は今回の
「まあ最初はそんな所でいいだろ」
そしてヴァルドは部屋中に響く声で叫んだ。
「よーし皆! 今日はチノちゃんファッションショーをするぞ!!」
「「「「「「?」」」」」」
◇◇◇◇◇
受付部屋の壁際に小さなステージがある。難敵を討伐した冒険者を讃えたり、ギルマスが若手に激をとばすときに立ったり。以前のワイバーン騒動の際はその骨がしばらく飾られもしていた。
そのステージに狼人の幼女チノが立ち、そばの父親が声をはりあげる。
「さあ、まずは一着目。王道にして原点。薄手のフリル付きワンピースにリボンとカチューシャの赤がワンポイント。お嬢様コーデだー!」
幼女がくるりと一回転すると薄青色のワンピースがふわりと膨らんだ。
「さあ、皆! こちらの高貴なお嬢様を評して一言決めてくれ!――――」
「「「めんこいじゃねえか」」」
「「「かわいい」」」
その愛らしさに星の白銀の皆の心が一つになったが、肝心のヴァルドが……
「辺境伯領、真のプリンセス、ここに降・臨!」
一人、大げさな回答で外した。
「おいおい、あいつ領主様に通報されたら捕まるぞ」
「おーっとバラけちまった。そんじゃあ次の衣装へと行こうか――――さあ、今度は。
今年の流行はここから始まる。夏を先取り、ショートスカートにトップスはふんわりTシャツの動きやすさ重視。帽子は上耳穴のあいた日差しよけと発汗作用の両立仕様。肩がけバックもショルダーベルトを短めに、揺れる尻尾を邪魔しないぞ! さあこの元気印コーデはどうだー!」
「「「めんこいじゃねえか」」」
「「「キュート!」」」
「振りまく熱量止まらない、オール! シーズン! サマー! ヒュー!」
またも一人大げさな回答で外すヴァルド。
「何なの今日のヴァルド。普段はどちらかというと語彙の少ないドワーフ兄弟側だったよね」
「おーっと、またしてもバラけちまった。じゃあ続いては――――おおう、こいつは驚き。お次は意外やパンツスタイルだ。上下揃いのブルーカラーでスマートさを演出しているぞ。詰め襟に黒いタイがまたクール!
んっ? ズボンは男のもの? いいや知っているか、この世に男でも女でもない存在があることを。そう、それは天使。天界から神が遣わせた奇跡がここに! さあこの
「「「ダテじゃねえか」」」
「「かっこいい」」
「ミリアム教の教義的に私、ヴァルドの発言って通報しなきゃいけないんだけど……」
「さあ、どんどんいくぞ! お次は――――」
「「わあああ!」」
いつの間に集まってきた冒険者たちから歓声が上がる。
「その勝ち気な瞳が最強の武器。鱗狼の毛皮で作った軽量防具で全身もこもこ、新世代の冒険者コーデだー!――――」
「新緑色のぴったりワンピースに厚めの紫色
次第に盛り上がっていく受付部屋。詰め寄る立ち見客で室内の温度も上がり、赤い大渦亭から冷えたお茶も差し入れられる。
そうして幾度もの衣装チェンジの末に、司会者ヴァルドからファッションショーの終了が告げられた。
「ということで一番票を集めたのは元気印コーデだ。今年の夏のチノちゃんはこのファッションで責めていくんで、ぜひ皆も取り入れてって欲しい。さあ、皆。もう一度辺境伯領のファッションリーダー、チノちゃんに拍手だ! ――――ありがとう、ありがとう」
湧き上がる拍手喝采に送られてチノと司会者がステージを降りていった。
「ヴァルドってば、はなから当てさせよう、当てようって気がなかったよね」
「私は一着目で『まずは』とか言ってたから分かってたわよ」
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