第13話 よーし皆! 今日はNTR……そこまでしなきゃいけないのかよ‼(逆ギレ)

 今日もなんなくB級モンスターを倒し、街へ帰還した星の白銀。外壁の大きな門をくぐると、アッシュ達に討伐報告を任せ、セレスとリーアは消耗品の買い出しへと分かれていた。


 手分けしてポーションや神聖魔法の触媒を買い揃える二人。

 ちょうど開かれていた市場でお目当の品はお手ごろ価格で手に入り、気分よく中央平場を後にする。

「よし完了。早くごはん食べに行きましょ」

「今日倒した将軍丈猪ジェネラル・オーク、女将さんならあれを見逃さないよ。今頃モモ肉を香草煮込みにして私達を待っててくれてると思うの」

 まっすぐ赤い大渦亭を目指し大通りを歩く二人。そんな彼女達へ六人の男が声をかけてくる。


「はーい、キミ達。その格好、冒険者だったりする? オレ達もさ。ランクいくつ? オレ達はBだよ。いやあ王都から観光に来たんだけど誰かに案内してほしくってさ。それがキミ達みたいな可愛くって美人なんだったらサイコーじゃない」


「私たち星の白銀だから」

 リーアがそっけなく返す。それで分かるだろうとばかりに。セレスは目を向けることすらせずに歩き続ける。

「えー、どんなパーティー? 他に女の子いたりする?」


 あからさまな反応にもめげずに二人に絡み続ける男達。

「あー、来たばっかっていってたかあ。この街に長いとアッシュの女に手を出す人はいないんだけどなあ。アッシュの女に!」

「えー、何なに? 彼氏って束縛系? オレたちBランクだから守ってあげちゃえるよ?」

「あれ、それ信じてない顔? じゃあちょっと俺たちの力を披露しよおっか?」

 男がいるとリーアが強調するが、彼らは気にしないよとばかりになおも迫る。にやつきながら彼女達の進路を阻む。


 そこで初めてセレスが男達を視界に収める。揃って軽薄そうな笑みを浮かべ、銀色に眩しく輝く軽甲冑を身にまとい、背中には大振りな大剣。


(防御力弱そうな、ただ見栄えがいいだけの防具。なのに殆ど傷もない。背負った大剣も体格や腕の長さに合ってない。それで済んでるなら難度のある依頼に出てない証拠ね。これでBランクは無いわ。といってまったくの素人でもなさそうだけど。そこそこ素質はあるけど冒険者として精進するより女あさりが目的の低ランク止まりの冒険者ってところかしら)


 リーアと目を合わせると、白けたその表情が彼女も同じ判断をしたと伝わってくる。さてどうするか。六人もいれば力づくでいけると判断してるのだろう。ご丁寧に円陣を組むように二人を逃しはしないと囲み込んでくる。


 ロッドを振って『私がやる?』とリーアにアイコントすると『終わったよ』とワンド片手杖が振られる。

「そう」

 ならばと二人は男達を杖でかき分けて進む。抵抗しようとした男達は、そこで自分の全身が枯れ草色のツタに絡まれているのに気づく。

「えっ、なんだよコレ!」

「おい、待てよオラ!」


 背後に叫ぶ男達を残して二人は歩きさった。

「最近はああいうのなかったのになあ」

「教会にもああいうバカはいたけど、もっと陰険なやり方だったから。今回はわかりやすくていいわ」

 治安が良く分業が進んでいる王都ならばまだしも、辺境の地で冒険者になろうという女はただ守られ、狙われているだけのか弱い存在ではないのだ。


 一連を目撃していた街の住人も自業自得だと彼らを放置。木材を運搬していた荷運び人だけが、「邪魔だ」と彼らを道の隅に転がしてくれた。


     ◇◇◇◇◇


「オーク肉、おっ待たー」

 二人が赤い大渦亭に入ると、室内の定位置ではアッシュとヴァルドが何やら言いあっている。


「いや、それはねえよ」

「たしかに俺もないとは思う。だがな、だからこその穴場。皆がやらないからこその高PTの秘訣なんじゃないか、って気もするんだよな」


「どしたのー」

「いや、アッシュがおかしなこと言ってんだよ」

「いつもだよ」

「今日は何なの?」


「いやな、酒場で聞いたんだが、NTR寝取られがPTが稼げるっていうんだよ」

「えー、アッシュ。それ騙されてるよ。いつも騙されてると思うけど今回はとびっきり騙されてるね」

 愛しい妻を、恋人を、他の男に寝取られる。通称NTR。その辛さ、悔しさから神へ救いを求めるならば分かる。だがそれを奉じてPTが上昇するなど意味が分からない。


「たしかに常人であればNTRなんてくらったら精神が崩壊したっておかしくない。だがな、俺たちは神々へ奉納してるんだ。だとしたら精神が人間よりはるかに強靭な神であれば耐えられるのかもしれない」


「ミリアム教の説話にあったわね。鍛冶師の守護神が悪さして地獄の劫火で釜茹でにされたんだけど、逆にさっぱりしたって言ってその火を奪って帰ってきて人間に与えたっていうの」

「だろ。だから信憑性はあると思うんだよな」


「どうかなー」と首をかしげるリーアがそう言えば、とヴァルドに告げる。


「買い物中に市場でチノちゃんにあったんだけど、チノちゃんまたアッシュ兄ちゃんに会いたいって言ってたよ」

「なっ……オレのチノちゃんがこんな女たらしに興味を……」

 絶句し、手をわなわなと震わせるヴァルド。


「そんな……オレのチノちゃんには堅実で将来性のある職についてて一等区に家を持って貯金は最低1000万マトルはあって浮気性じゃなくてもちろんギャンブルもしない、かといって貴族みたいな面倒さがある階級じゃなくていざという時は盗賊だろうとモンスターだろうと撃退する腕をもった、そういうたしかな男でないと認められねえ!」

 ドンとテーブルを叩き主張するヴァルド。


「ねえアッシュ、NTRってこういう気持ちのことでしょ。絶対神々もこんな愚痴聞かされたって喜ばないって」

「うーん」


「それはそれとしてこのままじゃ鬱陶しいわね…………ヴァルド、チノちゃんはまたプリンをごちそうして欲しいって言ってたのよ」


「なんだよ……そういうことかよ。ははっ、そうだよチノちゃんは色気よりも食い気の年頃だからな。仕方ねえな。おいアッシュ、次の依頼はコカトリス狩りっきゃねえな」

 一転、大口を開けて笑い出すヴァルド。その表情の変わりようを見ながらリーアが小声でささやく。


「セレスさん、これチノちゃんが近所の男の子と一緒に遊びに来てたって言ってもいいかな」

「やめといてあげなさい。絶対その子のところに殴り込みにいってチノちゃんに嫌われるハメになるから。本人のためにも黙っててあげた方がいいわ」


 アッシュの方はだめかなあとつぶやきながらまだ諦めきれない様子。


「んっ、ちょっと待ってよ。アッシュってばNTRでPT稼ぎたいんだよね。じゃあまずは恋人、ううん奥さんを作らないとね。協力するよ!」

「いや、酒場で聞いた話では同じパーティーの仲間であればいいらしいんだが……」


「ふうん。NTRでPTが上がるってのは信じられないんだけど。ねえアッシュ、私達さっき市場でナンパされたの。これって私達がその男共に落とされたらNTRってことになるのかしら」


「ああ、いや…………まあ所詮酒場での噂話だからな。試すまでもねえよ」


 普段と違い煮え切らない気弱な様子のアッシュに、女二人は満足そうに顔を見合わせ、思い返せばあの男達はガタイが良かった、高そうな防具を装備してた、などとからかうのであった。


     ◇◇◇◇◇


 数日後…………


 赤い大渦亭のドアが開かれ、リーアとセレスが入ってくる。その後ろには数人の男達。


「えー、リーアちゃーん、セレスさーん。こんなショボい所じゃなくて、もっといいところ行こうよー。俺たちの出会いを祝福できるような、さ」


「いいから皆そこでスタンバイしててくれる」

「アッシュー、ちゃらそうなの引っ張ってきたよー、よりどりみどりだよー。ってアッシュいないの?」


 この時、酒場のいつものテーブルに座っているのはヴァルドだけであった。

「なんだあいつら」

「よその街からきた冒険者だって。Bランクって言ってるけど多分いいとこDだよ」

「そんなやつら、どうすんだ?」

「歩いてたらナンパされたの。前に潰したのにメゲないの」

「さすがにアッシュに脅かされれば諦めるだろうと思って連れてきたのよ。それにあんなんでも私たちが迫られてるとNTRの恐れがあるってことでPTに反映されるんでしょ? 少しは使えるかなって思ったんだけど」 


「あー、そうなんだあ。ざんねんだけど、いまアッシュは出かけてていないからなあ」

 二人の説明に視線を合わさずに答えるヴァルド。


「ねえ、ヴァルド。何か隠してない。アッシュってば流れからみて絶対NTR絡みで動いてるよね。なんか嫌な予感するんだよ」

「な、なにを……?」


 リーアがワンド片手杖を掲げる。「束縛のツタ!」

「うおっ」

 地面から生えてきた枯れ色のツタがたちまちヴァルドを拘束する。


「アッシュ、いまどこ? 何してる?」

「おい、お前ら! 見てないで助けろ!」

 ヴァルドが必死に周囲の冒険者に助けを求めるが、セレスがその望みを即座にうち砕く。流れるようにロッドを振ると彼女たちを取り囲むように光の結界が張られた。

 高位の神聖魔法、許可なき者の侵入を拒絶する、光の絶対防壁である。


「いいからキリキリ吐いて」

「いや、その……」


 そこへ勢いよく酒場のドアが開かれ低い大声が響く。

「おーい、アッシュ、ヴァルドー! やっかいなモンスターが出たんだ、手伝ってくれ!」

 ドワーフ三兄弟の長男グレゴであった。


「今取り込み中! 後にして!」

「おい、まてよ。こっちも急いでるんだよ。岩熊のつがいが出たんだ。囮を務められる頑強な奴が必要なんだよ」

「外に適当なのいるから好きなだけ連れてって!」

 リーアが振り返りもせずにそう返す。

 その時、ちょうど酒場のドアが開かれ、先程のチャラい冒険者達が顔を出す。


「おーい、リーアちゃーん、セレスさーん。まだかなー。ってかDランク冒険者なんてショボいの放っとこうよー。俺たちと一緒の方が絶対イケてるって」

「おう、お前らか、エルフの娘っ子が言ってたのは。なかなかいい肉壁になりそうじゃねえか。よっし、俺が仕込んでやるぜ。おら、ついてこいや!」

「ええっ、ちょ、リーアちゃーん、セレスさーん、助け――――」


 リーアの尋問は続く。

「はい、早く吐いて」

「いや、検証の結果、NTRでPTを得るには最低限、女の顔と名前さえ知ってればいいってのが判明しまして。同じ町に住んでる酒場の看板娘とか、憧れのお姫様とか」


「はあ? それ他人じゃん!」

「いや、でも彼女達が恋人ができたりした時に、叙事詩でその悔しさを嘆くと実際アッシュはそれでPTが上昇したって言ってて……」

「さっぱりだよ……」


「それで、アッシュは今なにやってるの?」

「娼館めぐりをしています。はい」

「うがあっ!」「あいつ……」


     ◇◇◇◇◇


 冒険者を守護する神々を奉じる神殿。その奉納台に跪くアッシュ。


「神よ……俺は悔しい……俺がもたもたしている内にアルベルタが身請けされちまった。あのダイナマイトボディが今頃大工ギルド長の手で……くそうっ! イリーナは他の予約客がいるからまた今度ねって……くそうっ! ヴェラは王都の高級店に引き抜かれて、今頃貴族共があの魅惑のシッポ責めに……くそうっ! エミリアは新人冒険者を可愛がるのが趣味だからベテランは相手にしないって……くそうっ! オリビアはさらに腕を上げていて最高の一夜に……くそうっ」


「神よ、俺はこの悔しさをモンスター共にぶつけました。いち早く大金を稼ぎ、娼館を貸し切れる程の冒険者にならないといけねえ!………………おお、神よ……こんな高いPTを……俺の悲しみと決意が伝わったのですね……ありがとうございます!」


 アッシュは若葉色に輝く魔石を掲げて叫んだ。

「へへっ、掴んだぜ高PTの秘訣!」


 かくして。アッシュは冒険者として一皮むけ、常に3桁台後半のPTを稼ぐ冒険者にランクアップを果たしたのであった。


 …………が、その後ブチ切れたリーアが火の精霊を顕現させるほどに暴れ、赤い大渦亭が炎上しかかったことで、以後NTR技法は使用禁止となった。


 なお、チャラ夫たちはグレゴの熱血指導により、筋肉を鍛え盾役をメインとする傭兵的なパーティー『命いらダイナマイトずの優男』ホッティーとして生まれ変わりました。



※本作、および笠本作品の全てはNTRフリーの姿勢を打ち出し、厳しい自主基準に則って執筆されています。

 単純に寝取られ展開を禁止するだけではなく、ラッキースケベイベントも主人公のみに限定しています(モブへの水着姿披露のみは可)。


 山賊や奴隷商は教育を受けたスタッフのみを採用。商品価値を維持するため捕らえた女性には一切手を出しません。リアリティとか知らん。


 女性キャラが出てきて、その好意が主人公以外に向けられる場合は登場回の内にその旨を明示(脇役が一番に反応する、タイトルを『〇〇の恋』などにしてサブエピソードを強調、主人公の反応が平坦、等)、ダメージを最小に抑えます。


 両親の借金や無理強いによってヒロインの過去に恋人や婚約者が発生した場合は、両者の接触は手つなぎ及び手の甲への口づけまでとし、万一劣情が確認された場合は、即座に当該キャラの黒幕・闇落ち展開とし惨殺処理をします。


 このように安全安心に楽しめる異世界ファンタジーの提供のため、日々作品の向上と品質維持に努めております。今後とも本作へのご愛顧をお願い致します。

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