第37話 こんなはずではなかった…はず?

そんなこんなで彰を連れて夜の街を歩き、目的の場所へと向かっていると事件が起きた。



「彰!!オメエこんなところでなにしてんだよ!!」


「げっ!!」


「ん?」



ギャルだ、ギャルがいる。そうアリッサはまず初めに思った。インドラのようなまじもんの金髪ではなく、明らかに染めたと分かる金髪。

麗奈と犬猿の仲らしいこの子は、ハチクジこと八九寺彩海と言うらしい。全国にも名を轟かせるほどの水泳選手そうで、常に部活内で麗奈と争う姿は一周回って仲がいいと言われているそうだとか。


で、このギャルは彰の幼馴染だそうで、昔から気の強い八九寺に振り回されて迷惑しているらしい。今回の勇者パーティー結成の時も彰の意見など関係なく強制的に入れられたと言っていた。


そして八九寺の後ろにもう一人ギャルがいる。茶髪に染めているが、八九寺に比べれば幾ばくか大人しめの印象を覚えるギャル。

八九寺も相当なプロモーションを誇っているが、それは水泳によって鍛え上げられたもので、この茶髪のギャルはまた別の柔軟さを感じる。



「つぐみは新体操のエースなんですよ」



と、彰は語る。なるほど、確かにとアリッサは頷く。

つぐみ、江ノ島つぐみもまた新体操をやっている者ならば誰でも知る有名人であり、八九寺以外と話している姿を見ないことから『孤高のエース』と呼ばれているらしい。



「で、そんな2人がお怒りのようだが」



そう、今目の前にいるギャル2人の表情は怒り6の嫌悪4割によって形成されていた。



「怒られる筋合いはないっすよ。アリッサ先輩、ちょっと待っててください」


「友達は大切にな」


「おい、オメエアタシの質問に答えろよ」


「な、なにって寝れないから散歩をしていただけで…」



あれ?とアリッサは小首を傾げる。先ほどの威勢よく自分に啖呵を切った彼はどこに行ったのだろうか。



「アタシら知ってんだかんな!夜な夜なコソコソ出て行っているのをよ!」


「彰さ、アンタが自分で稼いだ金をどこで使おうが関係ないけど、流石にこれはないっしょ」



甲高い声を印象的な八九寺と澄んだ声でクールな印象を覚える江ノ島。凄まじく対照的な2人だ。



「お、俺が何をしているって?」


「い、如何わしい店に入っていくの見たんだから!!」


「な、な?!べ、別にそれくらいいいだろうが!!」


「はぁ!?開き直んの!?オメエ頭わいてんのかよ!」


「お前らと四六時中一緒にいてなんとも思わない男がいるってのかよ!!こちとら健全な高校生なんだぞ!!それなのに目の前で堂々と着替えたりさ!!」


「あ、彰あんた!そんな目でアタシら見てたわけ!?」


「さいってー……」



江ノ島さんの声はなんか心にぐさりと刺さる。実際攻勢に出た彰が江ノ島の声で胸を抑え、少し後ずさっているではないか。



「アンタがヘンタイってことはよくわかった。で、そのヘンタイと一緒にいたその女は誰よ」


「アリッサ先輩だ。この人はうじうじしていた俺を一人前の漢にしてくれた人生の先輩なんだ!」


「お、おとこにした…?」


「は?それってまさか…」



おっと、ギャル2人の鋭い眼光がこちらを射抜くように見てくるではないか。



「彰、誤解を招いているようだからもう少し詳しく説明してあげないか」


「ああ、えっと、アリッサ先輩は新垣達のパーティーメンバーなんだ」


「は?麗奈の?ああ……そう言えばお城で見たような」


「なに?ということは新垣達もここにいんの?こんなところ見られるのハズイんだけど」


「アタシも麗奈に見られるの嫌なんだけど」


「いや、今は新垣達と別行動をしているよ。この町に新垣達はいない」


「ならいいけど……で、アンタうちの彰となにしてんのよ」


「ん……まぁ……そういう店の先輩としてイロハをね」



八九寺と江ノ島の反応は一緒だった。2人とも何言ってんだこいつみたいな目をしてから湧き上がる疑問。



「え?アンタ女よね?」


「オレ、この世界では珍しいけど天使族って言って性別はどっちでもないんだ。だから、両方ついてる」


「え!?アリッサ先輩そうだったんですか!?」


「言ってなかったな。まぁそういうこと」


「それ本当なの?うちの世界ではニューハーフとかはあったけど……」


「まじか……」


「まぁそういうことで、別に君たちの彰とは何もないよ。ちょっと騙されそうになっていたから、親切心で助けただけさ」


「べ、別にうちらの彰ってわけじゃないけど…」



2人は最近女性を騙すために覚えたアリッサのさわやかスマイルに納得し、改めて彰を睨みつける。



「お、俺は悪くない!!というか、普段危ないモンスターの前に立って身体張ってるんだからこれくらい見逃してくれよ!!」



彰の魂の叫びである。その叫びに道行く冒険者の男たちは頻りに頷き、パーティーメンバーのために体を張って攻撃や盾を担う者達は彰に拍手をする始末である。



「は?な、なんなん?」


「え、なにこれ……」


「アリッサ先輩には大切なことを教わったんだ!」



周りの異様な雰囲気に軽く引いているギャルに気付かず彰は叫ぶ。



「俺たちはここに来るまで色々なモンスターと戦って来たよな」


「まぁそうだけど」


「時には盗賊とも戦った。俺は初めてあの剣で人を殺した。もちろん後悔はしていないよ。でも、あの斬った後の嫌な感触は今でも覚えているし、一生忘れることはないと思う」



彰もまた新垣達と同じように初めて人をその手にかけたのだろう。アリッサではなく坂口龍之介として思う。

あの燃え盛る屋敷でバニラ達を守るため咄嗟に投擲した武器がブラッディ・シャドウを切り裂いた。贓物をまき散らし、見開いた目でこちらを見る男の顔を坂口龍之介は忘れない。

彼らに厚生を促すことなど土台無理な話だし、この世界の100人に聞けば100人が殺されても仕方がないと自分の行いを肯定してくれるだろう。何ならギルドから報酬を貰えるほどかもしれない。


だが、彰の言葉の通り嫌な感触というものは消えないものだ。新垣達も相当悩んだのだろうと思う。どうか彼らの心が元の世界に戻るまで壊れないようにアリッサは星々が輝く夜空に祈る。



「こっちがやらなければこっちが殺されていたかもしれないから、あれは仕方がなかったと思う」



彰の言葉に思うところがあるのか、2人は黙って彼の言葉を聞いていた。



「それと同時に俺は思ったんだ。いつ殺される側になるか分かったもんじゃないって。そこでアリッサ先輩は言った。後悔がないように生きろって」


『………』


「昨日まで仲良く話していた友人が次の日にはいなくなるなんてありえるんだって。この世界はどうしようもなく命が軽い世界なんだって」



アリッサへ振り返った彼の表情からは、今を迷いなく全力で生きている生命力に満ち溢れていた。彼の言葉に感動した周りの男たちは溢れんばかりの拍手を送るが、結局その言葉が行きつく先は風俗通いを認めてほしいだけなのは黙っているべきか。



「だから俺はもう自分の欲望に従うことにしたのさ。というわけで、俺とアリッサ先輩は行くところがあるから」



さ、行きましょう。と声をかけてくる彰に周りの屈強な冒険者達はまるで生き別れた兄弟と再会したような様子で親しげに言葉をかけては去っていき、対する彰もがっちりと握手を交わしていく。


呆然と立ち尽くすギャル2人を置き去りにし、彰は夜の町を進む。



「お前、明日どうなっても知らないぞ」


「なにがですか?」


「あの2人のことだよ。絶対きまずいぞ」


「別にいいんですよ。前衛の仕事はしっかりしますし、2人が俺に好意を持っていないことは分かってますしね」


「そうなのか?少し見た感じだと好感度ゼロってわけじゃなさそうだけど」


「それは分かりますけど、彩海は新垣のとこにいる武人くんが好きなんですよ?俺のことを好きなわけないじゃないですか」


「そうなのか」


「ええ、だから大海さんと仲が悪いんですよね」



王城で出会ったときすぐ喧嘩を始めたのは水泳でライバル関係だから、と思ったがどうやら可愛らしい面もあったようだ。



「ああ、だから武人が制止したらすぐ喧嘩をやめたのか」


「そういうことです。まぁそもそも小さい頃から見てきた彩海に好かれたいって思う気持ちすらないですけどね」


「幼馴染ってそういうもんか」


「そういうもんっすよ。幼馴染がそのまま恋人になるってアニメじゃあるまいし」



意外とさめている彰を連れていると、先ほどの店の並びから一転し高級そうな店が立ち並ぶエリアへやってくる。



「ここの店の並びも見慣れたか?」


「大分常連になってきましたね」



ここにいる客層の多くはお忍びの貴族や高ランク冒険者など身なりのいい者しかいない。

よって巡回する兵士達も何かあったら自分の首が飛びかねないので、目を凝らして犯罪防止に努めており、自然とブルースの町で最も安全な場所と言われるようになったのは皮肉なことだ。



「あ!ナナリーちゃん!!」



と、そこで彰の目つきが変わり、興奮した様子で走っていった先には淡いピンク色の髪を長く流した女の子がいた。

彰の身長が170cmちょいくらいなので、並んでみると彼女の身長は160cm前半といったところか。サキュバス特有の圧倒的なプロモーションを誇り、今から出勤するのであろう露出の少ない町娘のような服装は、とてもサキュバスとは思えない清楚っぷりである。



「彰、彼女これから出勤じゃないのか?」


「あ、そうだった!ご、ごめんなさい、ナナリーさん」


「いえいえ、いつも彰様にはお世話になっていますから」



突然話しかけた彰にも優しく対応しており、やはりここで働いているサキュバス達は相当な訓練を受けているに違いない。



「えと、アリッサ先輩!こちらがナナリーさんです!先輩が初めてこの店に連れてきて貰ったときに相手をしてもらったんです!」


「はじめましてアリッサ様。わたくしはナナリーと申します。下の名を持たぬ下級の者ですが、我が主であるリリス様からはよくお話を伺っております」


「下級?」


「ああ、サキュバス族には階級というものが存在する。今ナナリーさんが言ったようにまだ名を貰っていないレッサー級とその上のバロネット級。そしてクィーンに名を授かり、上位存在となるデューク級。まぁあとその上はもう言わなくても分かると思うけど、クィーン級ってなるね」


「さすがアリッサ様。サキュバスのこともお勉強なさっていますのね」


「ま、まぁね。でも、ナナリーさんを少し見た感じ、もう少しでデューク級になれるんじゃない?」


「いえいえ、わたくしはまだまだ若輩者ですわ」



ちらっと『眼』で見た様子だとナナリーはAランク級のモンスターと渡り合えるくらい強かった。

自分が眼を使ったことにも気づいていたようだし、スキル構成を見ても統率系に長けたクィーンサキュバスに近しいものを持っていた。



「ちなみに彰、魔族において見た目はあてにならんぞ?ナナリーさん、君の3倍くらい強いからな」


「え?!」


「いやですわアリッサ様。あまりその目で見られると照れてしまいます」


「ごめんごめん。さすがリリスのお膝元にいるだけあるな。これで下級っていうんだから、ほんとサキュバスっていう種族は恐ろしい」


「ち、ちなみにどれくらい強いんですか?」


「今彰のレベルが40ちょいだろ?人類において40レベルは結構上位の存在だけど、ナナリーさんは80レベルだからな。まぁまだバロネット級の80レベルだからそこまで驚くようなもんじゃないけど、その他にも上位魔法職のアークメイジのスキルやいずれエンペラーやクィーンになる統率系下級職のフラグシップまで取っている。ナナリーさんのご両親が貴族階級なんだろうな。かなりの英才教育を受けているとみた」


「ひ、ひええ……」



こっそり聞いてきた彰にそう告げると驚きのあまり目を白黒させていた。どのゲームでもサキュバスという種族はありふれているが、ことレジェンダリーファンタジーにおいてサキュバス族は希少種扱いだ。希少種は強い、これは間違いない。どこぞのワールドツアーをする銀火竜も金火竜も希少種で強いし、上位にならないと素材が取れないしでやっぱり上位存在なのだ。



「ところでナナリーさんは今から出勤を?」


「はい。ちょっとほかの子が外せない用事があるとかで出ることになりました。お二人も今からうちのお店にですか?」


「あ、いやそういうわけじゃ――」


「そうです!なんだかナナリーさんと会えるような気がしたので!!」


「お、おい……」



アリッサの言葉に割り込んできた彰は目を輝かせてナナリーの手を取る。対するナナリーも嬉しそうに微笑み、なんだかいい雰囲気である。



「アリッサ様もいかがですか?サービス致しますよ」


「え?お、オレ?でもなぁ……」


「アリッサ様がサキュバスを嫌っているのは存じております。ですが、せめてリリス様とお話でも……」


「え!?アリッサ先輩そうだったんですか!?」


「リリス達がオレに何かするわけないとは思ってるけど、あんまり気を許しすぎるとレジスト出来ないレベルの精神攻撃を受けそうで嫌なんだよね。正直、最初彰と会ったときサキュバスからチャームを受けていると思ってた」


「そんなわけないじゃないですか!俺は心の奥底からナナリーさんを―――」


「それ。チャームっていうのは無意識下に刷り込まれるもので、自分が異常だと思わない結構やばめの状態異常なんだよな。でも、何回か彰のステータスを見て異常はなかったからリリスには何も言わないでおいたけど、あんまサキュバスとも関わりたくはないのは正直な感想ではある」


「アリッサ様……」


「流石のアリッサ先輩でも言い過ぎなんじゃないですか?俺のステータスがそのチャームってやつに掛かっていたのならともかく、現にかかっていないじゃないですか。それなのに悪く言うのはないと思います」


「ああ、それは本当に悪いと思っている。ナナリーさん、すみません」


「い、いえ……でも、アリッサ様の言う通りです。昔、我々サキュバス族は無作為に男性を魅了しレベルを吸い上げて力を得ていたのですから。だからこそ、今でもサキュバス族は恐れられ、魔族の国から出ることすら許されていないのです」


「え、でも今ナナリーさん達は……」


「はい、罪に手を染めてこの地にいます。この町の領主とこの店のオーナー様が仲が良いので黙認されておりますが、オーディアスの騎士に見つかったら我々は終わりです」


「も、もし見つかったら…?」


「四天王であるリリスに責任追及がいき、敗戦国家である魔族の国は国際社会において厳しい立場に立たせられるな」


「あ、アリッサ先輩!ど、どうすればナナリーさんと一緒にいられるんですか!?」



縋るようにすり寄ってくる彰を強引に押しのけ、アリッサは少し考える。



「いや、そもそもナナリーさんがお前と結ばれると決まったわけじゃないだろ…」


「で、でも…!!」



ナナリーの様子を見ると顔を若干赤く染めており、意外と直球で来られると弱いタイプなのかもしれない。

それにしても驚きなのはナナリー自身が彰を悪く思っていないところである。リリスが勇者パーティーとは仲良くしておけと指示を出したのかわからないが、思いのほか彼女は箱入り娘なのだろうか。



「ナナリーさんはもしこの店が摘発されて国に帰らなくちゃいけなくなったらどうする?」


「そうですね………わたくしは、やはりリリス様を支える僕として帰らなくてはいけないと思います」


「そ、そんなぁ!!」


「まぁ当然だな」


「彰さまは立派なお方です。わたくしのような悪い魔族ではなく、同族の人間の素晴らしいお方を見つけるべきだと思いますよ」


「な、ナナリーさんは――――!!」


「ちょっと!店前でうるさいわよ!!」


「あ……」



バン!!と扉を開け怒鳴り込んできたのはナナリーの上司であるリリスだった。



「あら?アリッサじゃない。うちの店には来ないじゃなかったの?」


「これには深い理由があってね」


「ふ~ん……まぁどうでもいいけど、話をするなら中でしなさい。それとナナリー」


「は、はい!」


「話を少し聞いていたけど、別にあたしについてこなくていいわよ。恋愛するなら好きにすればいいじゃない」


「で、ですがわたくしは!リリス様にご恩がありまして」


「それ、あたしじゃなくてお母さまにでしょ?アンタ有能だけど、今サキュバス族は絶滅に瀕しているんだから、好きな男でも見つけたら子供でもなんでも作っちゃいなさいな」


「え!?」



彰とナナリーの声がはもった。













そのままアリッサも半ば強制的に娼館へ連れ込まれると、気づけばリリスの私室にいた。彰とナナリーといえば2人っきりで話をするように言われ、当初の予定ではとっくの昔にマッサージ屋にいるはずが、何故こうなったとアリッサは自問した。



「そういや魔王様から返答はあった?」



この世界に来て初めて味わう高級な紅茶を出され、少し恐縮しながらもずっと無言のままだと居心地が悪いためアリッサは口火を切る。



「ええ、我ら魔族側は貴方の全面的なサポートをすることを誓うわ。あたし達から貴方に要求することはないし、出来れば対等な関係で仲良くしたいと思うっていうのが魔王様の返答ね」



ちょっと女王様な雰囲気を感じるリリスは、アリッサにとって好条件を提示した。



「そいつは素晴らしいな。そんなにオレを支持してくれるのならもうオーディアスなんかに行きたくないんだが」


「バジェスト王の顔に泥を塗ることになるわよ?一介の冒険者風情が~って」


「ラクーシャ様には恩義を感じているから行くけどな。出来れば会いたくないっていうオレの本音ね」


「アリッサが魔族を選んでくれるならなんだっていいわ。それこそ人族を敵に回すのだって私達は厭わない」


「おいおい物騒だな……」


「貴方にはそれだけの価値があるってことなのよ。水面下で貴方を巡って既に血が流れているんだから」


「こええ話を聞かせんなよ……オレはただ静かに暮らしたいだけなんだけどな……」



ポロリと漏らしたアリッサの心の声を聴き、リリスは少しだけ哀しげな表情を浮かべる。



「アリッサが既にどこかの国に属しているのならともかく、今はフリーじゃない?それが余計に争奪戦に拍車をかけているのよね」


「一応勇者パーティーメンバーなんだが」


「でも、今は別行動しているじゃない。まだアザムのドラゴンとしての睨みが効いているからいいけど、少し隙を見せすぎだと思うわ」


「そんなこと言ったって四六時中気を張っていなくちゃいけないのか?見えないような相手にさ」


「ま、それももう少しじゃない?うちか人族か」


「バジェスト王がどんな条件を提示するかってとこかな」


「ここはハッキリしておくけど、たとえアリッサが人族側についても魔族側がどうたら言うつもりはないわ。アリッサとはいい関係でいたいもの」


「それは少し気が楽になるね。正直言うとリリスとの関係が人族側と手を組んだだけで消え失せるのはあまりにも惜しい」


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」



そこでリリスは初めて可愛らしくどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。その仕草に鼓動が高鳴るのを感じてステータスを確認するが、いたって正常である。



「お前、自分がどんな存在なのか理解してんのかよ」


「あらあら?まさかあたしの美しさに魅了されちゃったのかな?」


「うぜえ……もうオレは帰る」


「ご、ごめんってば!ちょっと待ってよ」



今度は間違いなくからかうつもりで浮かべた笑みにアリッサは席を立とうとするが、リリスは嬉しそうに謝るので、渋々席につく。



「最初会ったときはなんだこいつって思ったけど、まさかアンタがそんな大層なものを持っているとはねえ」



お互いに少し落ち着いたところで、リリスはしみじみと語り始めた。



「そんなに時が経った覚えはないけどな」


「激動の1カ月だったわ。まぁ最初はあまりにもムカつくからチャームでもかけて町なか全裸周回でもさせて赤っ恥をかかせてやろうかと何度思ったか」


「お、おい……クィーンサキュバスのチャームとか洒落にならんからな……」


「当り前よ。あたしのチャームは性別な男ならば絶対に抗えないんだから」



ま、やらないけどね~と手をひらひら振るリリスに心の奥で安堵の息を吐く。



「で、入り口で色々言っていたけど、相変わらずサキュバスは苦手?」


「友人として付き合うのなら…」


「お堅いわね~……もう少し気楽に考えたら?アンタはもう童貞でもないんでしょ?」


「まぁ……」


「そもそもレベルドレインなんてするわけないじゃない。チャームだってそんな使い勝手のいい魔法じゃないし、万が一バレたら魔王様に迷惑がかかるんだから、そこまであたしだって馬鹿じゃないわよ」



確かにリリスが言っていることには筋が通っている。この世界の冒険者の平均レベルが30前半で、A級となれば50~60レベルになるが、誰もが依頼などを受ける際自分の強さを確かめるはずだ。そこでレベルが下がっていたりなどすればすぐにバレる。

レベルドレインなどの固有スキルを持つ者など限られているわけで、この風俗街に通う者ならば薄々この娼館の正体にも気づいている。

ならば後は誰がやったかなんてあっさりバレて国家間の問題に発展してしまうだろう。

サキュバスが嬢をやっているなど既にアウトなのだが、幸いにも被害者がいないので誰も正体について言わない暗黙の了解がこの風俗街に出来上がっているのだ。

そのようやく出来上がった土台を自分で潰し、ましてや忠誠を捧げる魔王の顔に泥を塗るような真似をリリスは絶対にしないだろう。


ならば何が問題なのか。アリッサの脳内に浮かんだ疑問。



「で、あの少年とどこ行こうとしていたの?」



いつの間にかリリスが背後に回って両肩に手を置いていた。



「あ、いや……」


「正直毎回向かいの店に入っていくアンタを見てイライラしていたんだよね」


「ど、どこで見ていたんだ?」


「あたしの目はどこにでもあんのよ。そして次の日会いに行くと何食わぬ顔であたしに挨拶してくるし、なんか色々感情がごっちゃになっちゃってさ」



両肩に置いた手が離れ、なんだかやばい雰囲気を感じ取ったアリッサは立ち上がり、逃げようと振り返るとそこには――――



「今夜は絶対に逃がさないんだから」



いつものもはや服として機能しているのか怪しい拘束具のようなボンデージ衣装ではなく、生まれたての姿のリリスがいた。



「なっ!?」



ドックン!と鼓動が早まる。チャームは食らっていない。それは理解できる。だが、その柔らかくしなやかな身体からは抗いがたい性への欲望が溢れ出ており―――


そう、柔らかい。気づけばアリッサはリリスに正面から抱き着き、豊かなと言うにはあまりにも大きい双丘に顔をうずめていた。



「アリッサのご希望通りあたしは何にもしていないよ。今日はさ、堅苦しい話は忘れて楽しも?アンタが行きたがってたマッサージ屋みたいなこともしてあげるし」



自分の思考がぼやけていくのを感じる。自分の血の流れが全て下半身に集まったかのように頭がクラクラし、全てをリリスに投げ出してしまいそうな欲求に刈られる。



「こらこら、意識はしっかり持つ!」



とは言っても思考は定まらない。これがクィーンサキュバスの魅力か、とどこか他人事のようにアリッサは思った。



「じゃ~いらない服脱ごうね」


「子供扱いすんな」


「お、なら自分で脱ぐ?」


「脱ぐ……」



トロンとした瞳で服を脱ぎ捨てるとリリスに手を引かれ、2人は抱き合ったままベッドへ倒れこむ。



「アリッサ、あたしとするの初めてだし、今日はあたしに全部任せてね。前回はアンタを少し見下していたから、ちょっとサービスもおざなりだったけど、今回はガチで頑張るから」



なんでもいいやって思いながらアリッサは自分の上に乗っかるリリスの胸を永遠も揉みしだいていた。

















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