第25話 クィーンサキュバスの館

宿屋を出たアリッサの耳に届くのは夜の喧騒。このブルースの港町は交易によって栄えていることから、ここには多種多様な種族が集まっており、それ故にその国々の特色が色濃く出た店が数多く並んでいる。


酒場も例に漏れず人族が経営する店から神聖な森を出たエルフ族、そして獣人の猫族、狼族、翼人族の人型を始め、元はモンスターであった亜人族も店を出している。


で、なんでそんな前置きをしたかと言うとそれはアリッサが向かっている先に答えがある。






「主人公がいない場合この世界の歴史はどうなっているんだろうな……」






なんだかんだオーディアスではばたばたしてしまい、図書館に行くことがなかった。空いた時間にこっそりオーディアスに戻って図書館に行ってもいいが、その空いた時間っていう奴がない。




それに勉強も苦手なことからこういうのは全てバニラに任せるに限る。明日バニラにでもまとめた資料を作って貰おう。




頭の中では小難しいことを考えつつアリッサの足は大通りを外れると、ブルースの裏の顔が見えて来る。


紫色に発光する魔石が辺りを照らし、すれ違う男たちの顔は皆だらしなく、対する女性はどこか淫靡な―――というかぶっちゃけるとここは風俗街であり至る所で女性達は男を呼び込んでいる。




アリッサの童貞はオーディアスのナンバーワン風俗『Lust Labyrinth』で捨てており、その後も何度か何人かの美人さんとお相手して貰った際に嬢さんがオーナーにアリッサの存在を話したせいで、何の縁か分からないが、オーナーとも知り合いになりこれからもよろしくという意味で指名料免除のカードと今度ブルースに行く旨を伝えたら、支店があるらしく紹介状もいただいてしまった。


貰った以上は行かないわけにはいかない、というわけでアリッサは様々な種族の娼婦さん―――ではなく男からの誘いを断りつつ紹介状を頼りに裏の町を歩く。




すれ違う様々な種族の娼婦さんに目移りしつつ恐らくこの町で一番大きな娼館の前に立つ。






「ここか。Lsut Hall……色欲続きですなぁ」






本家が色欲の迷宮ならばこっちは色欲の館。どっちが休まるかというと断然館の方なのだが、本家はサービスも建物の清潔感も全てにおいて最上級であり、おかげさまで至極のひと時を過ごさせて貰った。では、こちらはどうなのか。期待と紹介状を胸にアリッサは娼館へ一歩踏み出そうとして、そこで建物の前でうろうろしている少年に気付く。






「ん?学生か…?」






こげ茶色の短髪の少年は先ほどから建物を見上げては俯いたりを繰り返しており、どうも勇気の一歩を踏み出せないでいるようだ。


本来なら18歳未満がこんなところに来るんじゃねえ、と言いたいところだが生憎とここは異世界であり、日本の法律は適応されない。なら、別段問題はないので是非とも彼の背中を押してやりたいと思い、アリッサは彼に歩み寄った。






「なにしてるんだ、少年」




「うわああ!?!?」




「そんなビビらんでも…」






突然話しかけられた学生は驚いてその場に尻もちをついてしまい、心臓に手を当てて何度も何度も落ち着くために深呼吸をしている。






「君、弓の勇者のとこに1人だけいた男の子か」




「え?あれ?なんで僕のこと知って…」




「オレは盾の勇者、新垣のとこのパーティーメンバーだよ」




「え!?あ、新垣も武人さんもここに!?」






流石に同級生にはこの醜態を見られたくないのか、突然きょろきょろ周りを警戒し始めた彼を一旦落ち着かせる。






「新垣達とは別行動しているよ。少なくともこの町にはいない。で、ハーレム状態の君がなんでここに?」




「別にハーレムじゃないよ……僕はただの荷物持ちです」






なんだか深刻な顔をして言うのでアリッサは一旦楽園へ行くのを諦めて、近くの酒場に彼を誘った。






「なに飲む?金はあるから好きなの頼んでええよ」




「あ、いいんですか?」




「ええよ」




「で、ではこれを…」






イラスト付きのメニュー表を見て彼が指差したものと自分の分のトロピカルジュースを注文し、飲み物が来たところでアリッサは口を開く。






「王城で初めて君を見た時から荷物持ちだと思っていたけど、君って虐められているの?ああ、ちなみにオレの名前はアリッサね」




「樋口…彰です。虐められているってわけじゃないんです。戦闘でも皆僕を頼ってくれますし、パーティーメンバーの中では一番レベルが高いわけですから」




「ふ~ん…」






ちらっと真眼を発動して彼のステータスを軽く覗く。






樋口 彰




レベル:34




クラス:ブレイバー






『おや、ソードの派生クラスのブレイバーになってんじゃん。レアクラスとはまた珍しい』






ブレイバーとは両手持ちの武器を扱うことに特化したクラスで、ソードのクラスで尚且つ両手武器を装備している状態でレベルが上がると一定確率で派生するクラスであり、地味に確率が低かったりするせいでユーザーから不評を買っているクラスでもある。


その強さは序盤でもしブレイバーになれたのであれば終盤まで通用するほどであり、彼は意図せずパーティーメンバー内で最強火力を手にしてしまったようだ。






「彰くんはパーティー内の主力なのか」




「はい。現実世界じゃ絶対持てないような大剣が凄い軽くて、ぶんぶん振り回しています」




「パーティー内じゃ確固たる地位を築いているはずだけど、なんでそんなに卑屈なの?」




「あーえっと……僕の性格と言いましょうか、昔から僕は女性が苦手で…」




「苦手なのに女の子しかいないパーティーにいるの?」




「そ、それは彩海が…」




「彩海……?」




「ああ、弓の勇者です。彩海と僕は小学校からの付き合いでして」




「仲いいの?」




「いえ……むしろ振り回されている感じです」




「なるほど。つまり彰くんがパーティーにいるのはほぼ彩海さんのせいか」




「せいって言うほどあいつが悪いわけじゃないんです。彩海が勇者になったって聞いた時心配でしたし、僕も出来れば旅について行きたかったですしね。ただ……彩海についてくるクラスメイトが……」




「苦手と?」




「僕が何かされたってわけじゃないですよ。ただ四六時中ずっと女性に囲まれていると気苦労が絶えないですし、宿ももちろん僕だけ1人ですし、慣れて来ると皆僕の前で衣服を脱ぎ始めますしほんと色々な面で辛いんです…!」




「1ヶ月近く一緒にいて女の子達も彰くんの存在に慣れてきてしまったというわけか…」




「そうなんですよ!こっちの気苦労も知らないで!この前なんか酷いんですよ!あいつら女の子同士で!!ぼ、僕見ちゃったんですよ!!!確かに僕は草食系ですし、襲う勇気もないですけど、それでも!!ぼ、僕は男なんだ!!」






一通り今まで胸の内に溜め込んでいた激情を吐き出した彰は、荒い息を吐きだして一言『すみません、感情的になりました』と落ち着く。






「なんかアリッサさんは女性なのに凄く話しやすいですね。ああ!すみません、女性なのにこんなことを言ってしまって」




「いいんだよ。オレもよく分かるとも」




「え?」




「いや、気にしなくていい。で、溜まったもんを吐きだせばいいと思ってここに足を運んだものの最後の勇気を出せずにいたわけか」




「そうですね。情けない話ですが、料金プランとか本番で勃たなかったらどうしようとか考えるとどうも足が重くなってしまって」




「なるほどね。彰くんの事情はよく分かったよ。まぁ楽園に入る前にオレから君達に話しておこうと思っていたことがあったんだ」




「君達?」




「ああ、新垣とか武人ね。男だけの話さ。まぁあいつらにはいつか話すけど、とりあえず今は君だ」






どこか要領を得ていない彼を気にせずアリッサはジュースを飲んで話す。






「ここ1ヶ月近くモンスターとかと戦ってみてどうだった?率直な感想を教えてほしい」




「戦って………」






1分くらい膝に手を置いて真面目に考えた彼から出た言葉は―――






「怖かったです」




「怖かったか」




「はい、怖かったです。最初はまるでアニメの世界に入り込んだみたいでわくわくしていたんですけど、初めてモンスターと戦って自分の手でモンスターを倒した時……僕はなんて世界に来てしまったんだって思いましたね」




「モンスターを刺した時の感触、自分に叩きつけられる本物の殺意を感じた?」




「ええ、あの時は無我夢中でしたよ。彩海だけでも守らないとって思って情けない声を上げながら剣を振って気付いたらモンスターを倒してて」




「他の子達は?」




「泣いてましたね。その後1人だけパーティーから離脱しちゃったんです。いつもつるんでいる子だったんですけど、あれは僕でも怖かったですし、誰も彼女のことは責めなかったです」




「まぁそんなもんだよな。彰くんはその感情を忘れないようにね。この世界は日本に比べて圧倒的に命が軽い。気に入らない奴がいれば殺すし、殺されもする。そしてひとたび町から出れば自分をエサとしか思わないモンスター達が蔓延っている世界に出る。ここはほんとくそみたいな世界だよ」






アリッサの言葉を彰は真剣に聞いていた。






「明日自分が殺されたモンスター側になるかもしれない。だからさ、後悔だけはしない方が良い。この世界に絶対安心なんて言葉はないんだ。今を全力で楽しもう。恥ずかしいとかそんなくだらない言葉で自分を縛り付けるのは今日で止めにしようぜ」




「……はい!!」




「よし、良い顔になったな。まぁ要する帰れるか分からねえんだから後悔だけはすんなよってことだ」




「アリッサさんの言葉、すげえ心に響きましたよ」




「なら良かった。んじゃ今日はオレの驕りだ。楽園へ行くぞ!」




「え!?アリッサさんも行くんですか!?」




「おうよ」




「あ、アリッサさんでソッチの気が?」




「バーか。オレにも息子があんだよ」




「ええ!?」




「異世界だから常識に捉われるなよ。オレ、あそこの店のオーナーと知り合いだから君の独り立ちを最高の舞台にしてやるぜ」




「ま、まじっすか!!あざっす!!」




「よーし!行くぞ!!」




「はい!アリッサ先輩!」




「ついてきたまえ彰くん!」






2人は酒場で会計を済ませると先ほどの楽園の前に立ち、入り口の扉を開ける。






「う、うわぁ……凄い……」




「オーディアスとそう変わらないかな。で、彰くん。君はなんでここにしようと思ったの?」




「え?なんか綺麗ですし、一番大きかったので」




「君の見立ては間違っていない。ただここ貴族御用達の高級娼館だからとんでもなく高いよ。だから、次ここ以外にも利用するのならここの相場を見てしっかり勉強していってね。じゃないとぼったくられるし、変な病気も貰ってしまうかもしれないからね」




「そ、そうですね……息子とは一生の付き合いですし…」






外と比べて若干明るい程度の灯りがエントランスを満たしており、この薄暗い感じが風俗来たことを猛烈に感じさせる。


装飾は他の娼館を圧倒する豪華さで、シャンデリアを始め壁に立てかけられた絵画など如何にも高級感に溢れている。






「いらっしゃいませ。お客様はご来店は初めてでしょうか」




「はい、初めてです。それでこれオーディアスのオーナーからの紹介状です」






受付のイケメンお兄さんに紹介状を渡すと彼の表情が変わり、すぐさまベルを鳴らすと受付のお兄さんと同じ服を着こなす女性がやってきた。




お姉さんはこちらに軽く頭を下げるなり、お兄さんと内緒話を始めて2人の表情が真剣な様子から彰くんは既に緊張を通り越して怯えてしまっている。






「お客様大変お待たせしました。こちらへのご来店誠にありがとうございます。私、支配人のミニッツ・リベレンタと申します」






と、頭を再び下げながら名乗ったお姉さんがここの支配人であった。






「そしてこちらが私の弟、オリバー・リベレンタです」






受付のお兄さんもまさかの家族であり、流石のアリッサもこれには驚く。






「リベレンタ……あれ?もしかしてオーディアスの方はお父上が?」




「はい、私達の父が経営しております。すみません、少々手紙を拝見させて貰ってもいいですか?」




「はい、構いませんよ」




「では、その間こちらへ」






2人は屈強な男たちが守る奥の通路へ案内され、貴族しか通さないような豪華な扉の開けて中で待つように言われる。






「な、なんかすごいことになっちゃってません?」




「まあこの様子だと間違いなく極上のサービスを受けられると思うんだけど」




「ど、どんな人が来ますかね!」




「支配人さんも相当な美人だったけど、それを超えて来るのか…?」




「ま、まじですか!?あんなモデルのような人を超える人と?!」




「ふふ、彰くん。しっかり自分の息子を奮い立たせるんだぞ」




「アリッサ先輩と話をしていたら緊張なんて吹っ飛びましたよ!僕はもう後悔しません!全力で今を楽しみますよ!」




「その意気だ!下を向いていてばかりの人生はつまらんぞ!楽しめ楽しめ!」




「よっしゃー!」






まさかアリッサの存在でここに待たされているとは露ほどにも思わない2人は支配人ミニッツが来るまで少しだけ待った。






「失礼します。大変お待たせしました」






そして部屋にはミニッツとその弟のオリバーが入って来た。






「改めまして、本日は当店をご利用いただき誠にありがとうございます。こちらの紹介状にはアリッサ様のお名前しかございませんでしたが、そちらの方はご友人様ということでよろしいでしょうか」




「はい。実はこいつ噂に聞いていると思いますが、勇者のパーティーメンバーでして、それで今夜初めてを捨てるってわけで連れてきたんです」




「なるほど、分かりました。では、最高のサービスをご提供いたしましょう」




「金は全部オレが持ちます。だから、お願いします」




「アリッサ先輩…!」




「もちろんでございます。オリバー、こちらの方を」




「はい。では、ご友人様」




「は、はい!」




「楽しんでこい、彰くん」




「はい!!僕はやりますよ!!」






ガッツポーズを見せてくれた彰はオリバーの後をついて行って部屋から出て行く。そしてミニッツと2人だけになるとなんだか妙に緊張してきた。






「まさかあの堅物の父が紹介状を出すとは思えなくて少々確認をしていました。お客様を待たせることになってしまって申し訳ございません」




「それは全然構いませんよ。やっぱり多いんですか?その偽の紹介状とか」




「はい。最近は特に多いです。こちらの紹介状には最高のおもてなしとございますが、アリッサ様はご指名とかございますか?」




「いえ、こっちの店のことは何も知らないので。ただテッドさんが言うにはこの世界で最も美しいとされる3大美女の1人がいるとか」




「では、当店の看板であるリリスでよろしいですか?」




「り、リリスいんの!?」




「知っておられましたか?」




「そ、それはもちろん!え、エメランテの娼館にいるんじゃ!?」




「お詳しいのですね。あそこはあまりにも衛生環境が良くなかったので、当家が買収したのです。それでここ数年前にようやくこちらのブルースで店を出すことが出来まして」




「そ、それじゃ従業員皆サキュバス!?」




「………お客様はもしやバジェスト王のような瞳をお持ちで?」




「あ、ああ!いやいや!別にこれでどうこうするつもりはないって!」




「いえ、疑っているわけではございません。父の紹介も本物ですし。ただ、このことは内密にお願いします」




「も、もちろんです。そっかぁ……リリスがここにいるのかぁ……これは通っちゃうなぁ……」




「リリスは予約でいっぱいでして、アリッサ様のご希望に添えるかわかりませんが、出来るだけアリッサ様がこちらにいらした時は回しますね」




「ありがたいです。予約ってやっぱり貴族ですか?」




「そうですね………ですが、父の紹介状なしではリリスを選ぶことはできません」




「え?看板娘なのに選べないんですか?」




「表向きは他の子です。裏の看板というやつです。ですから、ここの常連でもリリスの存在を知っている者はそう多くはないです」






大事にされてんなぁ……と思ったアリッサであった。






「アリッサ様が仰られたようにリリスは以前エメランテで娼館のオーナーを務めておりましたから、私の仕事も手伝って貰っていまして色々と多忙なのです」




「ああ、だから表は他の子という意味なんですね」




「そうです。では、当店をご理解いただけたということで部屋の準備をしますのでもう少々お待ちください」






オリバーが鳴らしたベルとはちょっと違う色のベルを鳴らすと恐らくサキュバスかと思われる美女が現れ、ミニッツの指示を受けると早々に部屋を出て行く。






「アリッサ様は……いえ、すみません。なんでもないです」




「どうかしました?」




「少々父の紹介状に記載された文が気になりまして」




「見せて貰っても?」






ミニッツは頷くとアリッサに紹介状の他に小さな一枚の紙が同封されており、それをアリッサへ渡してくる。


そしてそこで気付く。






『字が全然読めねえ……』






渡された手前どうするか考えるが、アリッサはすぐにミニッツへ返して要約して貰う。






「なんでもアリッサ様は女性の身でありながら男性の性器をお持ちであると」




「あ~なるほど。それは事実です。やっぱり珍しいんですか?」




「初めてですね。これまで色々な種族と出会いましたが、今まで両性具有である種族は1人もいませんでした。なので、父はアリッサ様を伝説の種族である天使族だと思っているようなのですが……」






神様の目の前で思う存分キャラクタークリエイトしたので、あながち間違いではないがここで否定しても話がこじれるだけだと思うし、いかがしたものか。


バニラに調べさせることが増えたな、とアリッサは決めてミニッツへ向き直る。






「ん、まぁ……そうですね。なので、このことは秘密でお願いします」




「も、もちろんです!お客様の個人情報の管理は万全ですから!」






なんか態度が打って変わって神聖なものを見る目になっている気がするが、こんな場所に来るような奴が天使なわけないと個人的に思う。


むしろこんな堕落しかない要素の場所に来る時点でそいつは天使ではなく、堕天使なのではないだろうか。






「サキュバスを抱く天使かぁ……」






アリッサはぽつりとつぶやいた。














部屋の準備が整ったらしく、アリッサはミニッツ直々に部屋へ案内された。先ほどの待機室とは更に豪華にしたような扉の前に立つとそこでミニッツとは別れ、アリッサ1人で中へ入る。






「おおう」






王城でリーシアと愛し合った部屋とは格段に違う淫靡さ。部屋の家具やテーブルに置かれたお香からピンク色の煙が出ており、この部屋にいるだけで息子が大きくなる。




化粧台らしき机には小さな瓶が4本あり、揺らすとちゃぷちゃぷと音が鳴る。真眼で鑑定すれば興奮剤と出ており、特に副作用などはないようだ。


そして一番目立つのは大きなダブルベッド。ふかふかでシルクのような肌触りで、素っ裸で寝転んだらさぞかし気持ちが良さそうな材質で出来ている。






「楽しみだな」






童貞だった頃の姿はなく、作中人気投票で数々のライバルを押しのけて1位を飾ったリリスと相まみえる彼の表情は凛々しかった。ちなみに2位はラクーシャで3位は獣人国の果てに住む九尾族の1人娘玉藻である。




ラクーシャを超える美が現れる。会った瞬間気絶してしまうんじゃないのか?と思わなくもない。


そんな色々な妄想を繰り広げていると部屋の前に誰かの気配を感じる。強大な魔力の波動を感じ、そこでふとアリッサはあの親方に言われたことを思い出す。






『ああ、こういう相手に真眼を使うとレジストされるのか』






直感的に悟った。つまりリリスは現在のアリッサを上回る存在であり、間違っても勝ち目はないと逆に知らされる。






『まぁクィーンサキュバスの子孫だしな……そりゃつええわ』






と、これからお楽しみにも関わらず物騒な考えが頭をよぎったところで思考を放棄し、彼女のノックを待つ。






『失礼します』




「どうぞ!」






扉を数回ノックされ、原作で何度も聞いたあのどこかハスキーながらも可愛らしい声がアリッサの耳に届き、努めて冷静な声で返事をする。






「おっ!」






部屋に入って来た女性は間違いなくこの世の美だった。




腰まで届く長いピンク色の髪は半分くらいからワインレッドへグラデーションしている。瞳は黄色く、どこか猫っぽい瞳はその透明感に思わず吸い込まれそうなくらい美しい。


そして彼女をサキュバスたらしめる捻じれた両角は頭の左右から。更にお尻の付け根からは補足艶々に輝く真っ黒い細長い尻尾が生えており、先っぽはハートマークの形になっていて可愛らしい。




彼女が着ている服はネグリジェでもなく、スケスケのマイクロビキニだった。これはアリッサの希望である。ド迫力の胸にマイクロビキニはまるで拘束具のようであり、今にもはちきれんばかりに水着を強調している。




下半身は言わずもがなどーんと出てばいーん!であり、その下の双丘に顔をうずめたい気持ちをどうにか抑える。






「お待たせしました。リリスです。本日はどうかよろしくお願いしますね、アリッサ様」




「よ、よろしく!」




「天使のお方がこんなところに来て、ましてやサキュバスである私をご指名するなんていけない人ですね」






んひいー!彼女の言葉、仕草一つひとつが心臓に悪い。なんだこの可愛い生き物。サキュバスっていうのは皆こんなに可愛いのか。






「最近は人族のお爺様方ばかりお相手していましたから、女の子の相手なんて本当に久しぶりですね」




「女の子は久しぶりなの?」




「ええ、かれこれ数年は相手していないかと。だから、ミニッツに話を聞かされた時私結構楽しみにしていたんですよ」






リリスは慣れた手つきで小道具を持参したバッグから取り出し、お風呂にいきましょ、と声をかける。






「アリッサ様はサキュバスについてどれくらい知っています?」




「え?ええっと、昔魔王が人族と戦争をしてその際に四天王にクィーンサキュバスがいたとか。んで、魔王側が負けたことで魔族の戦力が軒並み削られて、サキュバスは好き勝手精気を食えなくなったから娼館をしているとかだったか?戦闘能力は上級悪魔に届くか中級悪魔程度くらいってことかな」




「ほとんど知っておられるのですね」






身体の隅々まで泡で洗って貰いながらそんな話をする。なんでもっと楽しい話をしないんだ?






「ああ、もちろんリリスちゃんのことも知っているぞ。いやー前から会いたかったんだよね。エメランテに行こうと思っていたけど、まさかブルースにいるとは」




「あら、私に会いに来てくださったのですね。それは嬉しいですわ」






柔らかいふわふわの肌を擦りつけられ早くも息子が暴発しそうだが、ただ洗っているだけでこれなのだ。本番になったらどうなってしまうというのか。恐らく彰くんにも表の看板娘がついたと思うが、その子もサキュバスだろう。彰くん、生きろ。






「リリスちゃんは決まった相手としか精気を吸えないみたいだけど、大丈夫なの?生きて行けるの?」




「大丈夫ですわ。私は部下のサキュバス達から力を分けていただいていますので」




「力を?」




「ええ、私これでもクィーンサキュバスなので。配下のサキュバス達から力を得れるのです」






あ、この子のレベルがとんでもない理由が分かった気がする。この子部下のサキュバスからレベルドレインしているんだわ。


それで部下のサキュバスは冒険者から少しずつ力を奪って……―――え、この娼館やばくない?






「あら、もしかして気付きましたか?でも、ご安心ください。私や部下のサキュバス達はこの生活を気に入っていますので、どうこうするつもりはございません。それにアリッサ様からは真竜の臭いがします。下手に手を出せば竜族と事を構えそうですし、貴女様には手を出しませんよ。それにしても本当に貴女様は何者なのですか?」




「さぁね」






冷水をぶっかけられた気分だ。サキュバスめっちゃええやん、リリス?更にめっちゃええやん!とか思っていた数分前の自分を殴りたい。


こいつはダメだ。結局リリスやサキュバスはモンスターだ。心の奥底で出し抜こうという考えが見え隠れしてしまっている。やっぱ現実世界は甘くねえなぁと、アニメのような展開にはならねえなと再認識した。






「………つまらないですわね」




「なにが?」




「私がご奉仕しているのにその表情はなんですか」




「なんか白けたわ」




「は?」






上に乗っているリリスを退かし、呆気に取られている彼女を尻目に勝手にシャワーで泡を流すとアリッサは着替え始める。






「何をしているんですの?」




「帰るわ。なんかすまんな。リリスは可愛いし、美人だし、君が3大美女に選ばれた理由もよく分かるけど、君人間嫌いでしょ」




「っ!」




「人から力を奪ってほくそ笑む姿が容易に想像できてさ。おめえ、やっぱモンスターなんだな」






作中では可愛らしく主人公の力になってくれる存在であったが、裏の顔があるとは思わなかった。もしかしたら設定資料か何かで彼女について知ることも出来たかもしれないが、今ではもう遅い。






「君の顔と店に泥を塗るつもりはないから、オレの体調不良ってことで今日は帰るわ。んじゃな」






着替えたアリッサはさっさと部屋から出て行ってしまった。そして残されたリリスは俯き、握りこぶしを作って怒りで震えていた。






「わ、わたくしが…!!!モンスターですって…!?この誇り高きクィーンサキュバスである私を……?クソが!!!!!」






波乱の幕開けである。

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