第17話 変人と再会する仲間

訓練場とは正反対に位置する研究所は思った以上に大きな建物だった。

モンスター研究所とは読んで字のごとく、モンスターを研究している施設なのだが、レジェンダリーファンタジー初期からあったものではない。

このVR版レジェンダリーファンタジーの1つ前の作品で今作はモンスターも仲間に出来るクラスが登場!というキャッチコピーと共に突然王城の東にどーん!と作られたのが景観ぶち壊し研究所というわけだ。


モンスター使いならば絶対お世話になるであろう施設だが、武器コンプリートを目指すだけの坂口龍之介にとってモンスター研究所はあまり利用していないため、何があったかは詳細に記憶をしていない。




「失礼します」



新垣が研究所の扉を叩いて中へ入ると、そこは動物園だった。



「めっちゃモンスターおるやんけ」



清潔感漂う白いタイルで囲まれた壁と床があり、そして転々とモンスターの檻ごとに設置された精密機械の稼働音が施設内を満たしている。

モンスターと研究者の間には透明な壁があり、気性が荒いモンスターが壁へ体当たりをしても傷一つ付かないどころか音すらも遮断していることからアリッサは、この壁を作成した開発者を思い浮かべて眉をひそめる。



「いつ見ても凄いですよね。これだけのモンスターを一か所に集めることが出来るなんて」


「確かに凄いな。ここには一体どれくらいのモンスターが集められているんだ?」


「200体だ。現在この施設には200体ものモンスターが集められている」


「ん?」



アリッサの疑問に答えたのは新垣ではなかった。声がした方へ顔を向けるとそこには1人の研究者がいた。



「ユーデンス様!?」


「ふん、リーシアか。久しぶりに顔を見せたと思えばとんだ厄介者を持ち込んでくれたな」



白衣を身に着け不健康な痩せ方をしているひょろがりの男はこの国第二皇子ユーデンスだった。

リーシアが慌てて頭を下げたので、アリッサ達もそれに釣られる形で頭を下げる。



「いい、こんな場所まで長ったらしく頭を下げるな」


「は、はい。失礼しました」


「それより僕の研究所に何の用だ?ここは関係者以外立ち入り禁止にしていたはずだが?」


「えと、僕達のパーティーメンバーのアザムさんがここに来ていませんか?」


「アザム……?ああ、あのウィンドドラゴンか。奴なら奥にいる。お前たちに僕の大切な研究所を好き勝手ウロチョロされても困るからな、案内しよう」



メガネをくいっと上げ直したユーデンスは白衣を翻してついてくるよう促す。



「ここはユーデンスの研究所だったのか……」


「アリッサ知らなかったの…?」


「ああ……オレは武器集めしか興味がなかったからな……モンスターは移動手段か素材としか見えてなかったというか…」



当時モンスターを仲間に出来るようになったことで、プレイヤー同士のバトルことPVPの他に育てたモンスター同士でのバトルが盛んに行われていた。

配合によってモンスターの成長が変わったり、戦わせたモンスターによって能力値の伸びが変わったりと武器以外の沼要素にファン達は嬉しい叫び声を上げていたものだが、生憎武器しか興味なかった坂口龍之介は当時の波についていけなかった。



「新垣達はここによく来るのか?」


「そんな頻繁に来ていませんよ。ただ僕らはこの世界についてもっと知らなくちゃいけないなって思いまして、勉強のために来ているんです」


「勉強?」


「あたしらはモンスターのことを知らな過ぎたっていうか」


「戦いの際に己の心にある迷いをなくすためにもモンスターについて勉強しているんです」


「要は初見のモンスターと出会っても弱点を見抜いたり、どういう攻撃をしてくるのか予測が出来るようになりたいんです」



麗奈と武人の言葉を補足するように新垣が言葉を繋いだ。



「なるほど、最近お前たちが我が研究所に足を運ぶのはそのためか。勤勉なことだ」


「他の勇者たちはここに来ないんですか?」


「来ないとも。まあただ物珍しさに来る奴はそもそも研究所に入れないがね」



ああ、そう言えば……と先を歩くユーデンスが呟く。



「最近2人ほどお前の世界の人間がよくここへ来るな。最初は先ほど言った物珍しさからと思ったが、どうやらモンスターに興味があるようでな。興味深いから出入りを自由にさせていた」


「え?誰だろう」


「さーあたしにはわかんね。つか、うちら出入り自由と言っても入り口ぐらいしか見せて貰っていないから、出会ったことなくね?」


「ああ、相当ユーデンス様に気に入られたのだろう」


「先に旧友へ挨拶にでも行くか」


「え、ええ!是非お願いします」



旧友、いつの間にか昔の友達扱いになっていることに新垣は若干の違和感を覚えつつ道を逸れ、頭上にある案内板の危険度が真っ赤に染まる通路へ足を踏み入れるのであった。




危険度が真っ赤に染まる理由はすぐに分かった。ここにいるモンスターはやばい、そうアリッサを含め全員が抱いた感想だった。



「タイラントワームの赤ちゃんか……」


「こっちはユピテルクライよ……」



先ほどの檻とは格段にレベルが違う強度で覆われた部屋に巨大な芋虫がいた。透明な壁ごしでも伝わる轟音。砂漠の砂から顔を出すヤツメウナギのような口を持つ全長30mを超すモンスター。それがタイラントワームだった。


タイラントワームは獣人国の砂漠地帯『ケイオスの背中』と呼ばれる地に棲むモンスターである。タイラントワームは人間国のアスガルドと並ぶ獣人国が災害指定しているモンスターの1体であり、マザータイラントワームとなるとその大きさは100mは軽く超えるという。



そしてリーシアが軽く震えながら見つめる先には一本の木で休んでいる黄金の鳥であった。


ユピテルクライは神話に登場するユピテルという雷を司る神様の僕と言われている。全長7mの大きなこの鳥のくちばしはドリルのように鋭く、足のかぎ爪はアダマンタイトであろうと引き裂く力を持つ。

だが、ユピテルクライが恐れられているのはその名を示す雷である。


ユピテルクライはとても温厚な性格をしており、ある村ではこの鳥を神聖なものとして崇めていた。だが、そこへ流れ者の悪党が村で悪さをしたという。

その悪党は普段からユピテルクライのお世話をする巫女へ手を出してしまったのだ。ユピテルクライは普段の姿から考えられない怒りを爆発させた。その時、空はたちまち黒雲に覆われ、次第に滝のような雨が降り注ぎ、激しい落雷が落ち、豊かさの象徴であった周辺の森はたった1体のユピテルクライによって破壊されてしまったのだ。



「よく知っているではないか」


「え、本当の話なんですか?」


「ああ、本当だとも。実際ユピテルクライの怒りを買って滅ぼされた村は少なくはない」



何となくアリッサが聞かせた話をユーデンスは聞いていた。



「そ、そんなモンスターをこんな檻に閉じ込めておいて大丈夫なんですか!?」


「心配はいらない。このユピテルクライは我が国が誇る聖剣使いオズマンのものだからな」


「ええええ!?オズマンさんのモンスターなんですか!?」


「ま、まじで!?」


「なんと……!?」


「ただまぁ一つ問題があると言えば、ラクーシャ以外懐いていない」



足を止めたユーデンスがじっとアリッサ達を見つめるユピテルクライに近づくと……



『ガアアアアア!!!』


「ほらな?この通り威嚇してくるのだ」


「いやいや、離れましょうよ。下手に刺激しない方がいいですって!」



黄金の翼を広げ、頭につくトサカを逆立てて威嚇してくる。若干稲妻が迸っているのは気のせいだろうか。



「流石聖剣使いってところかしら」


「人間族最強も伊達じゃねえわ」


「アリッサ、貴方の目で見てみてユピテルクライはどれくらい?」


「う~ん……」



ユピテルクライ レベル120


人間国が災害指定するSSランクモンスター。非常に気高い性格をしているが、争いを好まない温厚なことでも知られている。だが、ひとたび戦いになれば容赦はせず、雷属性最強魔法の神雷を振るう。


スキル:神鳥の稲妻 :雷属性完全耐性 :天候操作(雷) :結界(大)



「120レベル。雷に完全耐性を持っているし、伝承通り天候を操作できる。あとアザムくんより強力な結界を持っている」


「うへえ……オズマン公爵はどうやって従えたのかしら…」


「いや?従えてはいないな。奴隷紋ついてないし、どういう関係なんだろ」


「え!?」


「まぁ暴れていないし、ラクーシャに懐いているみたいだからいいんじゃね?オレの記憶通りならオーディアスでユピテルクライが暴れたっていうイベントはなかったはずだし」


「で、でもぉ……」


「暴れたってどうしようもないぞ」


「そ、そうだけどぉ……」


「不安になるのは分かるけど、今は行こうぜ。ほら、新垣達も行ったぞ」


「うう、ラクーシャ様……」



右腕に抱き着いてくるリーシアを引き連れてユーデンスの後を追う。途中もユーデンスのモンスター解説は続いた。明らかに捕獲しちゃやばいモンスターがいたが、アリッサ達は見て見ぬふりをし、やっとのことで白い扉の前でユーデンスは足を止める。



「ここだ」



扉を開けた先には2人の男女がいた。男子生徒の方は少しでこが広く前髪が逆立っているのが印象的で、もう1人の女子生徒は三つ編みが可愛らしい清楚な女の子だった。



「あ、ユーデンス様」


「ご無沙汰しております!」


「2人とも客人だ」


「え?大海さん?」


「あれ?新垣と武人君じゃん」


「2人って神田君と飯田さんだったの!?」



男子生徒の名は神田 友和。新垣のクラスメイトでありオタク友達だという。

そして女子生徒の名は飯田 千尋。新垣達のクラス委員長であり、生徒会の副会長を務める優秀な生徒らしい。



「2人ともなにしてんの?」



麗奈が部屋を見渡しながら2人に尋ねる。ギャルである麗奈に話しかけられ、どもってしまう神田に対して飯田はすらすらと答えた。



「私達はユーデンス様が研究をしているモンスターのお世話をしているんです」



そう言って先ほどから気になっていた大きな円柱型のケースに入っているモンスターを見せてくれる。



「アクティオンアント……」


「知っているんですね。はい、こちらは神田君がお世話をしているアクティオンアントの巣です」


「アリッサ先輩、アクティオンアントってなに?」


「オレに聞くのか……まぁいいけど、アクティオンアントって言うのはさっき見たタイラントワームと同じ砂漠地帯に住むモンスターだ。アクティオンアントは麗奈たちの世界に存在するアリと何ら変わらない生態を持っているが、一つ違うことは非常に獰猛な性格をしている」



神田じゃ話にならないと勝手に決めつけられ、麗奈はすぐに振り返ってアリッサへ尋ねる。



「こいつはまだ幼体で30cmくらいしかないが、成虫になると1mにもなる。んで、アリの狩りってどういうもんか知ってる?」


「えと、集団暴力?」


「まぁそうだね。つまり1mを超えるアリが大群で狩りをするってわけだ」



麗奈をそれを想像したのかひえええと情けない声を出す。新垣も武人も声には出していないが、苦虫を嚙み潰したよう顔をしており、いかにこのモンスターが危険かを認識したようだ。



「幸いにもアクティオンアントは縄張り意識が非常に強いから、あの砂漠から出ようとは思っていないみたいだけど、極稀に巣の中で女王が2匹誕生することがあるんだ」



部屋の中の皆がアリッサの語る言葉に耳を傾けていた。まぁユーデンスは口元を歪ませて笑っているようだが。



「どちらが女王に相応しいか巣を二分割してのクィーンアクティオンアント同士の戦争が始まる」


「ま、負けたらどうなるんですか…?」


「ん?当然負けたクィーンは死ぬ。そしてクィーン側についたアクティオンアントも殺される。あいつらは知恵を持たないが、仲間意識が非常に強い。だから、裏切り者は絶対に許さないんだ」



飯田の質問にアリッサは言い淀むことなく答える。



「そしてそのアクティオンアントは流れ者だ。もう巣に帰ることも出来ないだろうね」



ケースの中で1人せっせとクィーンもいない巣を掘り続けるアクティオンアントを見て神田は悲し気な表情を見せる。



「素晴らしい」


「え?」


「君、名はなんという?」


「えと、アリッサです」


「アリッサ君か!いやぁ実に素晴らしい!先ほどからタイラントワームやユピテルクライの生態と言い君は大変物知りのようだ!」



ユーデンスが初めて笑顔を見せた。



「アリッサ君、僕の助手にならないかね?」


「私は新垣の旅に同行するよう陛下に命を受けているためそれは難しいかと…」


「なんと!?一足遅かったようだ。残念だが、父上の命とあっては流石に無理か」



まるで演者のようにオーバーリアクションで嘆くユーデンスにアリッサは苦笑いを浮かべるしかない。

思った以上にユーデンスという男は面白いかもしれない。



「ところでこんな危険なモンスターを育てて何をしているんですか?」


「よくぞ聞いてくれたそこの女!」


「れ、麗奈です……」


「名前なんてどうでもいい!私はね!モンスターの軍隊を作り上げたいと思っているのだよ!」


「も、モンスターの軍隊!?」


「最近の研究で一つ分かったことがある。モンスターは赤ん坊の頃から育てた相手を親だと思い込む習性があってな」



へえ、とアリッサは素直に感心する。なら、モンスター使いなんて必要なくなるかもしれないと思い至ったところで。



「だが、それはタイラントワームやアクティオンアントと言った思考能力が低いモンスターに限定されてしまうのだ。先ほどのユピテルクライのような独自で考えて行動するモンスターは損得で動く」


「ああ、なるほど。だから、オズマン公爵とラクーシャ様には従うのか」


「その通り。ラクーシャは子供の頃から絵本が好きで、もちろんユピテルクライが話に出て来る本も読んだ。それで父上はラクーシャを甘やかしてオズマンにユピテルクライを捕まえて連れて来るよう言ったのだ」


「は、初耳です…」


「僕も王族以外にこの話をしたのは初めてだからな。まぁまさかユピテルクライをオズマンが連れて来るとは思いも寄らなかったが」


「どうやってラクーシャ様にユピテルクライが懐くようになったんですか?」


「さぁ?僕にはわからないね。あいつの純情な心に惹かれたのか、それともただあいつのブラッシングが良かったのか」



と、話がずれたと言ったユーデンスが『軍隊だよ』と話を戻す。



「僕はね、世界中のモンスター使いを集めて軍隊を作りたいと思っているのだ」


「どうして軍隊を?既にオーディアスには覇軍とも言える最強の兵が揃っておりますが」


「のんのん、リーシア、君は甘いよ。時代はね、モンスターなんだ」



恐らく今神田と飯田を除く全員が『何言ってんだこの皇子』と思ったはずだ。



「モンスターはいいぞ。まずカッコいいんだ。そして強靭なんだ。それに僕が愛情を与えれば彼らも愛で応えてくれる。人間は進化をしないが、彼らモンスターはその先を行く進化がある」



酔ったかのようにユーデンスは手を上げ、天井を仰いで語る。



「人間はいつか成長限界に到達する。だが、モンスターはその成長限界を進化という形で突破するんだ!!新たな可能性を見せてくれるんだ!!ふふ、いずれ父上さえも超えるモンスターを作り上げて見せるさ。そうしたらきっと認めてくれる。父も兄も僕の凄さをね!!」



拗らせてんなぁ、というのがアリッサのユーデンスに対する感想だった。モンスター使いルートをやらなかったアリッサはユーデンスという皇子が一体どんな人間なのか今の今まで分からなかった。



「はい!お供しますユーデンス様!」


「私もお供します!!」


「おお!!流石僕の家臣1号と2号だ!!さぁ!今日も研究するぞ!!最強のモンスターを作るためにね!!」



マントを翻してポーズを決めるユーデンスに家臣となった飯田と神田は涙を流しながら拍手を送る。そしてアリッサ達はそっと部屋を後にするのであった。




「なんかパーティーで見た雰囲気と全然違ったね」


「ああ、あれがこの国の第2皇子なのか……」


「いや~あれも立派なオタクっしょ」



学生3人組は先ほどのユーデンスを見て呆気に取られていたようだ。確かにあれは驚きであったが、良くも悪くも研究者なのだろう。

若干マッドサイエンティスト感があったが、モンスターを心の底から愛しているようなのでモンスターが反逆を起こす確率は低いとみていいだろう。




先ほど来た道を戻っていくと相変わらず凄まじい眼光を向けて来るユピテルクライの前をそそくさと通り抜け、中央通路まで戻ってくると彼はそこにいた。



「アザムくん!」


「よっ!姉御!」



アザムだった。彼は何ら変わらない様子で腕を上げて挨拶をして歩み寄ってくる。



「研究者が新垣達が来てるっていうから待っていたんだ。だけど、まさか姉御もいたとはな。もう大丈夫なのか?」


「ああ、腕はこんなことになっちまったけど、ぴんぴんしている」


「おう、それでこそウィンドドラゴンに認められた友よ。俺は姉御の心配なんてちっともしてなかったぜ」


「少しは心配してほしかったわ。で、アザムくんはなんでこんな場所に?」


「ああ、ユーデンスっていう奴が研究のために俺の血がどうしても欲しいとか言ってよ。だから、さっき血をくれてやったんだ」


「へえ?まぁ悪用はしないと思うけど、見返りは?」


「ああ、こいつを貰ったぜ」



先ほどから握られていた大きな袋を床に置くとやたら重そうな音が響き渡る。



「何貰ったの……」


「見ろよリーシアの姉御!あんたが欲しがっていたアダマンタイトだぜ!」


「まじで!?」



言葉遣いがこっちによりになったことに気付かずリーシアはアリッサを押しのけて袋を覗いた。そこにはアダマンタイトの原石と思われる岩の塊がごろごろと入っていた。



「たった少しの血を分けたくらいでこんなに手に入っちまったぜ!いや~逆に申し訳ねえくらいだ」


「ドラゴンの血は万病にも効くからな。まぁあの皇子はそれよりもモンスター研究に使いそうだけど、それにしても太っ腹だな」



リーシアや新垣達は初めて見る透明で虹色の輝きを放つ鉱石に夢中であり、アリッサと会話をしているのはアザムだけだった。



「アザムくん、オレに装備作って欲しいの?」


「や、俺じゃねえ。新垣達のことだ」


「ふぅん……」


「旅に出る時俺は族長に出来るだけ手を貸すなと言われた」


「君らドラゴン族は世界の監視者としての立場だもんね」


「そうだ。だから、あの時俺は手を出すか迷っちまった――――ってなんの話か分かるか?」


「ああ、ブラッディ・シャドウに襲われた話だろ?」


「そうそう。その何とかシャドウに襲われた話だ。だからよ、あいつらはこの先もっと辛い戦いが待っているはずなんだ。そのためにも少しでも強くならなくちゃならねえ」


「精神的な問題もあると思うけどね」


「まぁな。でも、それはオルバルトの爺さんの言葉があいつらの胸の奥に響いたと俺は思いたいんだ」



いつもの飄々とした雰囲気ではなく、アザムにアリッサも応える。



「分かった。このアダマンタイトであいつらの防具を作ろう」


「ありがてえ。武器はあのクマの武器があるんだよな?」


「出来ているよ。リーシアのはこれから最終調整だ」


「姉御でもウィンドドラゴンの素材は難しいか?」


「まぁねえ。今まで普通の炎でどうにかなったんだけど、ウィンドドラゴンの炎を使うと途端に難しくなってなぁ……やっと感を掴めたってところで襲われたからこれからだよ」


「仕事を増やして申し訳ねえ」


「いいっていいって。どうせならアザムくん用のための武器でも作ろうか?」


「本当か?」


「おう。ちなみにアザムくんって戦闘スタイルはなに?」


「俺は武人と同じ感じだ。この拳よ」



ぶん!と空気を震わせる拳の突きを見せるアザムにアリッサは『やっぱりか』と思う。



「アザムくんの気持ちは受け取ったよ。いっちょ頑張るかぁ」


「頼んだぜ」



退いた退いた、とリーシア達を押しのけてアダマンタイトを吟味を始めるアリッサにアザムは誰にも見られないよう頭を下げた。





そして無事アザムと合流出来た後、アリッサは学生3人組に出来上がった武器をプレゼントした。

いや、新垣のは武器ではなく大盾だ。



「新垣の盾は『ブラッディベアーの怒り』っていう能力をつけている。自分でも確認してほしいんだけど、それが思いのほか優秀な特性で、盾で攻撃を受ければ受けるほど次に放つ攻撃が強化されるんだ。タンクにぴったりな能力だろ?」


「はい!めっちゃいいですね!ありがとうございます!」


「武人のはリーシアの弟であるバングくんと同じ『ブラッディベアーの一撃』っていう能力をつけた。これは武器に血を浴びれば浴びるほど攻撃力が上がる能力だね。連撃を放つファイターにあってるっしょ」


「ありがとうございます!大切にします!」


「最後に麗奈のはボウガンだな。どう?左腕に付けた時違和感ない?」


「はい、ベルト式なのでいつでも調整できますし、グラグラ照準が揺れたりしませんね」


「オーケー。当たるようになるまで練習あるのみだけど、効果の説明をしよう。実はそのボウガンにブラッディベアーの素材は使われていない。残念だけど、ブラッディベアーの素材にボウガン適性はなかったらしくて、急遽別のモンスターの素材を使うことになった」


「そ、そうだったんですか……」


「悪いな。でも、同じ森にいるモンスターから使った素材だ。マーカスと同じデュアルホーンアぺスの角と革と尻尾の毛から作った」


「ま、マーカスと同じ……」


「話をしたらすっげえ複雑そうな顔をしそうだからマーカスに話すなよ?んで、効果は暗闇だ。自分の精神力を消費して闇の矢を放つことが出来る」


「魔法ですか!!」


「みたいなもんかな?ただし、相手の目に当てないと効果が発揮されないし、そもそも相手が暗闇耐性、または闇属性に耐性を持っているとかかりずらい。だから、使う時は慎重にな?あと自分の精神力がどんなもんか一度測ってみるといい。それで戦闘中一体自分は何回この矢を打つことが出来るか把握しておけるからな」


「はい!!練習します!!」


「よし、オレからの説明は以上だ。何か聞きたいことはあるか?」


「はい」


「はいってリーシアかよ。お前の武器はまだ出来てないって説明したじゃん」



ぶすーっと膨れているリーシアが手を上げていた。



「納得が行かないもーん!!」


「もーん!って子供かよ……もう少し待っててくれ。この手になってから鍛冶がうまく出来るのか試す必要もあるしな」


「あ………ごめん……」


「いやいや、そこで折れるなよ。気まずくなるじゃん。んじゃオレはリーシアの家で鍛冶してくるわ」



何となく居心地が悪くなったアリッサは逃げるように再会した新垣達と別れた。

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