第13話 大事だけどくだらない考え

アリッサがテレポートでリーシアの本家、アルベット家に瞬間移動してきた時には辺りは闇に包まれ、異様な雰囲気が立ち込めていた。



「物音一つしない…?」



両手に剣を構え、臨戦態勢のまま厳かな門を叩いて中に入ると突然紅蓮の烈風が彼女の脇を通り過ぎて行き、アリッサは目を伏せる。



「はっ…!?」



目を開けたアリッサの眼前に広がる光景は紅蓮。リーシアの家、アルベット家は燃えていた。火はごうごうと燃え盛り、肌に感じる熱は間違いなく本物だ。



「結界で辺り一帯を覆っているのか!?」



踵を返して外へ出ようとするとアリッサは額を見えない壁に打ち付け、その衝撃で尻もちをつく。



「いてっ!くそ!用意周到すぎる…!」



結界を破壊しようと次元宝物庫を漁っていると、アリッサの背後で金属同士がぶつかり合う音が辺りから無数に聞こえ始め、それを聞いて振り返れば、そこにはメイド達がそれぞれ得物を持ってブラッディ・シャドウの下っ端と戦闘を繰り広げていたのだ。


だが、相手は下っ端とは言えブラッディ・シャドウ生粋の武闘派集団ディケダインの部下。いくら戦闘訓練を受けたお嬢様方でも相手との歴然とした力の差が開いており、赤子の手をひねるかのように武器と盾が弾かれてしまう。



「バニラ!!」


「アリッサ様!?」



剣と盾を弾かれ、最期の時を待つのみとなったリーシア専属メイドのバニラを救ったのはアリッサだった。


目の前に突然凶悪な顎を持つ斧が飛来したかと思えば、暗殺者の胴体と下半身が真っ二つになり、何が起きたのか分からないまま彼は絶命した。



「アリッサ様!!ご無事でしたか!!」


「な、何とかね。それよりアルバルトさんは!?」



初めて人を殺め、内臓やら色々撒き散らす死体の気持ち悪さから目を背けつつバニラに問う。



「旦那様はまだ中です!!せめて私達だけでも逃げなさいと言われたのですが、思ったよりも結界が手強くジェニファに解除を頼んで時間稼ぎをしていたのですが...」



他の暗殺者にも次元宝物庫から飛び出した武器が彼らの急所を抉る一撃を加え、次々と倒していく中でバニラとアリッサの下へ短剣を構えたジェニファが現れる。



「アリッサ様!!」


「ジェニファも無事だったか!他の子達は!?」


「私が率いた子達は皆結界の外に逃がしました!すぐに王国騎士団を率いて戻ってきてくれるはずです!」


「分かった!敵の狙いはアルバルトさんの首だ。オレは今からそれを阻止しに行くから、2人もここの子達をまとめて避難してくれ!」


「アリッサ様それは無茶です!いくらアリッサ様が勇者であろうと相手はかのブラッディ・シャドウです!それを分かっているからこそ私達は旦那様の苦渋の決断を…!!」


「分かってる!でも、それでもリーシアの父親を見捨てるわけには行かないだろうが!!」



所詮ゲームでの付き合いでしかないが、天涯孤独の身となったリーシアがあまりにも可哀想に見えたため、ユーザー達はリーシアに救済を求めた。

彼女が何をしたってんだ。あんな小さな子供まで殺すことはねえだろうが!この鬼畜運営!と数々の罵詈雑言を書きなぐられた手紙が開発部に届いたらしい。だが、ユーザーの怒りも開発には届かず結局リーシアは、その後のレジェンダリーファンタジーに登場することもなかった。


結局彼女は何者だったのか、幼い少女が何故あんなにも壮絶な運命を辿らなければいけなかったのか、ただ開発部が虐めたかっただけなのか、謎が深まるだけでリーシア・アルベットという少女のその後の運命は一切語られていない。


もちろん二次創作が増えた。ハッピーエンドを迎えるマンガや逆に失った家族を糧に不屈の精神で立ち上がり、没落寸前のアルベット家を再建したりと創作は増えに増えた。


坂口龍之介のその1人だった。漫画も小説も書けないが、妄想はした。



リーシア・アルベットが登場した作品は、今から4作品も前のレジェンダリーファンタジーであり、その時の坂口龍之介は丁度高校生になったばかりで、まだ中二病が抜けきっていない時期だった。


何となく妄想した。自分の行動で変わる未来を。自分は常に確率で満ちている世の中を生きていると考えたりとか、ほんとしょーもないことを。



でも、実際知っている未来を変えるためには莫大な労力が付きまとうことを彼は知らなかった。



「両親がいないってめっちゃ悲しいんだぜ?当たり前だけどさ」



燃える屋敷の入口へ向けて水属性を持つ武器を次々と放ち、強引に屋敷内へ飛び込む。

アリッサがリーシアへ干渉したことでアルバルトが死ぬ運命の道筋は目茶苦茶だ。だがそれでも、運命はアルバルトが死ぬ運命をぐちゃぐちゃになりながらも目指す。


アリッサは再びこれに介入する。50レベルにも満たない自分がユニーククラス『マスターコレクター』でどこまであの筋肉ダルマと戦えるか。

最悪死ぬかもな、とか考えながら足元を消化しながらアルバルトの書斎を目指す。


間違いなくディケダインはいる。レベル75のアルバルトを倒すには下っ端じゃ相手にならない。ならば、幹部直々に殺しに来るはずだ。

それにディケダインは戦闘狂だ。最も暗殺者に不向きな性格をしているが、荒事担当として絶対的な地位を築いており、この世界の強者ランキングの上位に位置する存在である。



ディケダインは身長2mを超す筋肉もりもりマッチョの黒人だ。一応種族はヒューマン、人間種となっているが、裏設定で獣人族の肉を小さい頃に食ったせいで筋力数値だけ凄まじい伸びをしているそうだ。


基本武器らしい武器を使わず己の肉体のみで戦う。身体は鋼の如く硬く、一定の攻撃を無効化するほどの防御力を兼ね備えているわかりやすい脳筋である。


だから、ゲームではそこを突いた魔法による攻撃で倒すのがセオリーであるが、現在のアリッサのレベルは40そこそこ。使える魔法は中級であり、まずディケダインの装甲を突破できない。であるならば、次元宝物庫の武器による防御ダウンからの串刺しで一気に勝負を決めるほかない。



「ディケダインか……屑幹部の1人だが、会うのこええなぁ……」



基本大人しく生きてきた坂口龍之介は、昔から深夜コンビニ前でたむろするチンピラや不良に対して恐怖を覚えてきた。

直接何かされたわけではないが、坂口龍之介は臆病なのだ。だからこそこれから相対する本物の殺し屋に漠然とした恐怖を覚える。


メリシュはまだ女性だったので何とか口が震えることなく話すことが出来たが、ディケダインはリアルで見ても絶対お近づきになりたくない相手だ。

モンスターも頭をゲームスイッチに切り替えることで何とか戦えたが、さて筋肉ダルマはどうだろうか。



こうしている間にアリッサは暑さとはまた違う汗を流しながら、アルバルトの書斎に辿り着く。そう言えば奥様の無事を確認しなかったが、大丈夫だったのだろうか?

アリッサはバニラとジェニファが助けたと信じて水属性最強クラスの大剣『アトランティスの宝剣』で書斎の扉を斬り飛ばす。



「アルバルトさん!!!」


「アリッサ君!?」


「あ?」



切り裂いた扉の先にいたのは、額から血を流し満身創痍の状態で槍を構えるアルバルトと不気味に笑いながら拳を構える筋肉ダルマのディケダインがいた。



「お前がディケダイン……」


「おめえ、誰だ?まさか報告書にあったアリッサとか言う鍛冶師か?」



アルバルトから視線を外し、こちらに向き直ったディケダインは笑いながらゆっくりと歩み寄ってくる。

圧倒的巨漢。鋼の如く鍛え上げた上半身をこれでもかと見せつけて来るディケダインだが、ふとアリッサの鼓動が早くなり始めた。



「な、なんだ…?」


「ん?お?」



アリッサの視線がディケダインの両腕に向かう。なんと彼の両腕は禍々しい狼の毛で覆われていたのである。



「おめえ……アスガルドの防具持っているな?」


「その腕、アスガルドの呪いなのか……」



握った拳から見える鋭い爪はアスガルドそのものであり、スキルで解析すると爪自体に武器としての機能が備わっているそうだ。



「がはは!長年追い求めていた部位がまさか見つかるとはな!!おめえがなんでメリシュの尋問から逃げ出せたとかもうそんなことはどうでもいい!!今すぐそれを寄越せえええええ!!!」


「ひっ!!」



血走った眼をアリッサに向けた瞬間巨漢の姿が消え、気が付いた瞬間右拳を振り被ったディケダインが目の前にいた。



『死ぬっ!!!』



直感的に悟った瞬間、それを止める存在が目の前に現れる。



「アリッサ君!!!」


「アルバルトさん!?」


「死にぞこないが!!!!」



ぎりぎりとアスガルドの拳と拮抗する槍が徐々に押され始め、アルバルトとアリッサはそのまま殴り飛ばされる。



「ぐッ!!!」


「がはッ!!!」


「あ、アルバルトさん…!!」



アリッサは咄嗟にアルバルトへパーティー申請を送り、彼は一瞬驚くがアリッサの指示に従って彼女のパーティーに加入する。

そのままアリッサは40レベルで扱えるようになる斬りつけた対象を癒す『奇跡の短剣』をアルバルトの背中へ向けて突き刺す。



「き、傷が癒えて行く…!?」


「ふぅ……アルバルトさん、あいつのことは知っていますか?」


「名前だけならね」



立ち上がり、アリッサと相対した時のようにゆっくりと歩いてくるディケダインを2人は睨みつける。



「あいつはブラッディ・シャドウの幹部の1人ディケダイン。主に暗殺ではなく襲撃や鎮圧と言った荒事を担当する幹部きっての武闘派です。オレが来る前から戦っていたアルバルトさんなら言わなくともわかると思いますが、あの拳に気をつけてください」


「うむ、正体は分からないがあの爪に斬られる度に力が抜けるみたいだ」


「それはアスガルドの能力の呪いによるものです。アルバルトさん、確かホーリーランサーですよね?」


「そうだね」


「カースクリアで解呪できるはずです」


「ほんとかね?カースクリア!!」



真眼を発動させながらアルバルトのステータスを覗いていると、状態異常欄にあった呪いが綺麗さっぱりなくなった。



「む?身体に活力が!」


「良かったです。では、ここは力を合わせて行きましょう」


「是非とも!」


「アルバルトさん!これを受け取ってください!きっと今のあなたならあいつの装甲を貫けるはずです!!」



アリッサとアルバルトがロケットの如く拳を振りかざしながら飛んできたディケダインを左右に避けると、アリッサは次元宝物庫の欄を高速で呼び出してパーティーのアルバルトへ70レベルになることで装備できるようになる上級装備『アイス・ドラゴンエイジ』を貸し出す。



「これは…!」



受理したアルバルトの手元に氷風を纏う斧槍が現れる。アイスドラゴンの素材がふんだんに使われたこのハルバードは、特殊能力で敵の防御を下げる『氷風』とドラゴンの威圧を与える『竜族の威厳』が備わっている。


アルバルトにはこれで接近戦をしてもらい、防御が下がったところでアリッサが死角から次元宝物庫による武器投射を行い、ダメージを与えていくという算段になっている。



「なんだぁ?その槍は?おっかねえ雰囲気がしやがるぜ」


「これで貴様の肉を貫こうぞ。今まで後れを取っていたが、もう負けん」



奇跡の短剣による回復が完全に行われ、回復しきったアルバルトは槍を手にあの英雄オルバルトを彷彿させる気合いと共にディケダインへ突進を仕掛けた。



「ちぇええええええい!!!」


「満身創痍の身体でこいつ!?」



アルバルトが回復したことに気付いていないディケダインは反応が遅れつつも何とか後ろに下がってランサーの上級スキル『ランス・チャージ』を避けるが、槍先が僅かに掠め、傷付けた腹部が凍り付く。



「な、なんだこれは!?お、俺の身体が!?」


「おおおおおおおお!!!!」



休ませる暇など与えないと言わんばかりにアルバルトは肉薄し、鬼神の如く攻め立てる。



「調子に乗るんじゃねえ!!!」



次々と刺した腕が凍り付いて行くなか、ディケダインは一旦思考を破棄し、目の前の相手を潰すことだけに専念する。

すると動きに迷いがなくなり、斧槍による連撃を躱した瞬間アルバルトへのカウンターを喰らわす。


だが――――



「ぐああああ!!??!!」



振り被った腕に剣が突き刺さる。その瞬間にアルバルトは一度態勢を立て直すため後ろに下がると、ディケダインは剣が飛んできた方向を睨みつけた。


そこには右手を銃のように構えたアリッサが立っていた。



「おめえ!!何をした!!!!」


「やっぱり貫けない…!防御デバフをかけないと貫けないのは原作通りか…!」



ディケダインの問いには答えずアリッサは冷静に次元宝物庫から次に飛ばす武器を選ぶ。ただ強い武器でもダメ。この際相手は結界を持っておらず、無駄に結界に特化したグングニルを出しても意味はない。


実は次元宝物庫から射出される武器の速度は一定である。これは最近になって知ったのだが、どんな武器も一定であり、弱点でもあり強さでもある。だからこそ今回の相手はただ脳死で武器を飛ばしても避けて来ると読んでいる。


なので、確実に当たるタイミングで撃たなければ当たらないのだが、今は試しに武器の性能のみで選んで飛ばしてみたところ、やはり原作の能力は生きていた。


ディケダインの身体は鋼鉄である。いや、今鋼鉄を超える武器でダメージを与えに行ったけど通らんやーん、というツッコミはさておき彼の身体はとにかく硬い。

そこで原作での攻略方法は防御ダウン効果がかかっている間はダメージが通る、というもので、多くのプレイヤーはディケダインに初見殺しをくらった。


まぁ事前に彼への攻略方法をほのめかす情報を流すNPCがいるのだが、そいつはアイスドラゴンの里にいるのでまず気付くプレイヤーが少ないという裏話がある。



「アルバルトさん!!」


「相分かった!!」


「てめえ!!」



アリッサの意図に気付いたアルバルトは再びディケダインへ接近戦を仕掛ける。対してディケダインはアルバルトと戦いつつもアリッサにも気を配らなければならなくなり、これには流石の筋肉ダルマも頭を使い、思わず舌打ちが零れる。最初に笑っていた彼にもう余裕はない。


まるでダンスを踊るように立場が変わる変わる。丁度ディケダインが拳を振るった瞬間にアリッサの前にアルバルトが来るので、装填した武器が放てない。



「筋肉ダルマ考えやがったな……」



そしてアルバルトにも疲労が見え始め、ゆっくり狙っているわけにも行かなくなった。



「てめえが来たってことはよぉ。つまりもうすぐここにくそうぜえ騎士どもが来るってことだろ?」



肩で息をするアルバルトに対してディケダインはまだ余力がありそうだ。



「そいつはいけねえ。俺が死ぬわけがねえが、あいつらの諜報機関にアジトを知られるとボスが怒るんでなぁ」



ディケダインの雰囲気が変わり、それを察したアルバルトはアリッサの元まで下がる。



「アリッサ君、何か知っているかね?」


「恐らく獣人化を使うと思います。あいつは小さい頃に獣人を食ってその能力を得ています」


「なんと!?獣人の中でも使える者は少ないと聞いているが、まさか人間の身でありながら!」


「変身を許してしまうとまず勝てないと思います。だから...」


「では、変身させるわけにはいかないね?」


「それが一番です。ここからはオレも参戦します。足手まといになってしまうかもしれないですが、あいつを倒すには……」


「任せてくれたまえ。君の命は私が守ろう」


「アルバルトさん……」


「若者が先を急ぐ必要もない。ここは私が身体を張るものだ」


「でも、あいつの目的はアルバルトさんの暗殺です」


「だが、あいつをここで倒さなければならないのも事実」



屋敷のどこかが崩れる音が聞こえた。



「行くぞアリッサ君。私と君であいつを倒すのだ。この国の平和を目指すためにも、いや、我が娘の未来のためにも!!」



再び槍を構え、変身をしようとするディケダインを阻止するためアルバルトは突進をした。アルバルトの決死の覚悟に槍は応え、槍は激しい氷風を纏い始める。



「やるしかねえんだ!!!」



人の死とか絶対見たくない、なんて悩んでいる場合でもなくなった。この世界はどうしようもなく命が軽いのだ。気に入らないから殺すとかまかり通っている世界で、自分を殺そうとする相手を生かすとか、相手からすれば舐めた行動にしか映らない。


なら、覚悟を決めるしかないじゃないか。自分がどっちに肩入れをしているかで判断するしかないじゃないか。

だって、自分が手を抜いたせいでアルバルトが死んでリーシアが泣く姿なんて見たくないじゃないか。


殺して吐き気とか鬱になるとか精神的に参ってしまうとか、そんな悩みなんて後からでもどうとなるじゃん。



頭の中でぐるぐると回り続ける人の死についての考え。切り替えろ、切り替えろ、とアリッサは念じる。もうなるようにしかならない。


それを覚悟して自分はアルバルトを助けに来たのではないのか?リーシアの泣いている姿が見たくないからっていうくっそ青臭い理由で自分の命を天秤にかけてさ。



「なら、最後までカッコつけるしかねえだろうがあああああああ!!」



攻撃が通らないとか関係なしに意識を逸らすためだけに次元宝物庫の中からランダム選択で武器を発射していく。



「変身を待つ奴なんていねえんだよ!!!!」


「ちッ!くそガキが!!!」


「私を忘れないでもらおうか!!」



アルバルトと同じアイスドラゴン製の片手剣を両手に持ちながらアリッサは背後から襲い掛かり、ディケダインは振り返ってアスガルドの腕で受け止めるが、受け止めた部位が凍り付き、そこへ更に追撃で繰り出されたアルバルトの槍がディケダインの腕を貫く。



「な、なに!?俺の鋼鉄の身体が貫かれた!?」


「てめえのタネは分かってんだよ!!」



焦って振り払われた腕を両手の剣で受け止めるが、アリッサの身体は簡単に浮いて吹き飛ばされる。



「がはっ!?」



壁に激突した衝撃で肺から空気が抜け、一瞬息が出来なくなるが、ほとんど本能でその場から飛び退くとそこへハンマーの如き右手が叩きつけられ、床が破壊される。



「ひゅー……ひゅー……!」


「大丈夫かね?」



アリッサは相槌のみで応える。



「それは結構。もう一度聞くが変身させては勝ち目はないのかね?」



また相槌を打つ。



「なるほど。では、もうひと頑張りといこうか」



原作でも変身したディケダインに勝つには相当な準備を要した。まず通常プレイで勝つことは敵わず、レベルを現界突破させて対ディケダイン装備を集めることでようやく話になる相手なのだ。


だから、今ここで変身を許してはいけない。



「かー!!!!」



鋭い突きを繰り出すが、紙一重で回避するとそのまま流れるような拳による連撃が繰り出される。

ディケダインは予想を遥かに超えた強さを持っていた。アダマンタイトを混ぜた防具を装備しても簡単に貫いてくる拳なんて想像できるはずもない。


というか、この世界に来てまともな装備してダメージを受けたのは初めてかもしれない。最初に死にかけたこともあったが、それでもあの時は死んでも生き返るだろ、なんて甘い考えを持っていた。


でも、今回は間違いなく死ぬと理解している。



「ほんといらんことばかり考える…」



息が安定し、声が出せるようになったアリッサはもう考えるのをやめた。

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