第7話 ケーキとアリッサの選択

 王城パーティーから帰宅したその翌日、メイド達とキックベースボールで遊んでいる時の事だった。



『はぁ!?どうしてそうなるのよ!!』


「またか」


「顔を合わせる度に喧嘩していますね」



 父親に呼び出されたかと思いきや屋敷内から聞こえてくる怒声。ここ最近ずっとである。



「突然始まる今日の喧嘩の理由当てげーーーむ!!」



 リーシアの怒声で皆の動きが止まっていることを確認したアリッサは、大きな声で家主とその娘の喧嘩を会話の種にする。



「その1!例の如く縁談を持ち込まれたことに対して怒るリーシア!その2!家の手伝いをしろと言われ、それを全力で断るリーシア!その3!まだ知らない新ネタの登場に怒るリーシア!さあ!どれだ!?当てたチームには褒美としてオレ特製デザートが振る舞われます!よ~く話し合って決めてくださいねー!シンキングタイムスタート!!」



 アリッサの声で両チームの貴族のお嬢様方は颯爽と集まり、チーム内でああではない、こうではないと活発に意見が交わされ始める。



「制限時間はリーシアが来るまでとしますよー!」



 それから5分後、怒り心頭と言ったリーシアが腕を組みながらベンチに腰掛けたところで全員がそわそわしながら集まる。



「リーシア、今日はどったの」


「今日はね、父上が王様からリーシアを勇者の仲間に加えるよう言ってきたらしくて、めっちゃ喧嘩してきたわ」


「はい!ということで見事3番を選んだメリスチームの正解でーす!!」


「やったー!!!!」


「あ、アンタたち私と父上の喧嘩で賭け事してたの!?」


「いやーチームキャプテンメリスさん、正解の鍵はなんでしたか?」



 野球の今日のMVPを尋ねる取材のように握りこぶしを作ってメリスの口元に手を添えるアリッサに絶句するリーシア。



「えっと、皆の気持ちが一つになって選べたのが正解に繋がったと思います!」


「なるほど!!チームの仲の良さが垣間見えた瞬間でした!では、正解したメリスチームには後程アリッサ料理長によるパフェが振る舞われます!お見事でした!!」


「「「「やったー!!!」」」」



 前回城に行くまで暇だったアリッサが何となくデザートを振る舞ったところメイド達に大うけし、今日もただキックベースボールをやるのもなんだと思い、勝ったチームにはデザートを振る舞うと宣言したらメイド達に火がついたのだ。


 初心者ながらも結構本気でチーム内で戦略を考えたりと工夫しながら遊ぶ彼女らを見て、デザートを用意したのは良い刺激になったとアリッサは満足げに頷く。



「落ち込むのは早いぞジェニファチーム!今回の試合終了はリーシアが来るまでとなっているので、現在の得点を改めて確認すると……!2対3でジェニファチームの勝利!!よって!ジェニファチームにもご褒美のお菓子が振る舞われます!」


「やりましたわー!!」


「やったね!!ジェニファ!!」


「ああ……皆がアリッサに毒されて行く……」


「いいじゃん。くっそつまらねえ屋敷仕事にも息抜きは必要だぞ」



 皆が互いに手を取りあって喜びを分かち合い、良い汗を流す。素晴らしい青春じゃないか。この世界に青春なんて言葉はないかもしれないが、今アリッサの目の前に広がる彼女達はまさしく青春していたのだ。



「はーいみんなー!キックベースはそこまでにしてシャワーを浴びたら仕事よー!」


『分かりました!お嬢様!!』


「んじゃ休憩時間になったら厨房の冷蔵庫を開けてみてくれ。それぞれチームごとの張り紙をしておくから、空いた時間に食べてなー」


『はーい!』



 皆楽しそうに明日はどうボールを投げるか、明日の守備配置はどうしようかなど各々話しながら屋敷に戻っていく様子にアリッサはキックベースを教えて良かったと心の底から感じた。



「ああ、リーシアにも振る舞うから安心してくれ」


「まぁ、それは楽しみだけど……」


「話があるんだろ?厨房で作りながらでいいか?ジェニファのチームに作るケーキの生地って時間がかかるんだ」


「ええ、構わないわよ」



 マーカーとボールを片付け、庭の砂を慣らしたところでアリッサとリーシアは屋敷に戻る。そのまま厨房にいき、事前に話を通しておいた屋敷内で唯一の男にして料理長のゴードン氏に興味深そうな目を向けられながら調理を始める。



「小麦粉と砂糖と卵っと…」


「でね、さっきも言ったけど私勇者の仲間になるように言われたんだよね」


「断れないんだろ?それ、バジェスト王の勅命か何かか?」


「大当たり。流石に縁談の件は父上も考え直したようで断ったみたいなんだけど、こればっかりは断れなかったみたいでさ~」



 ボウルにクッキングシートに似た薄い紙を敷き、卵と砂糖を入れ手に限界まで調整した風魔法のウィンドカッターを纏わせ、かき混ぜて行く。


 リーシアはアリッサの指示で先に竈の火を入れて予熱の準備をしながら先ほど喧嘩した理由を話していく。



「で、どうしたいのさ」


「それが困っているのよね~……私はアリッサと旅をしたいのだけど…」


「オレの旅って………いうてアスガルドシリーズを集めたり鉱石を集めたり、パティシエに目覚めたりそれくらいだぞ?断じて世界の命運を担うような旅にはならない」


「アスガルドシリーズを集めるのも面白そうだし、アリッサが作る武器とか美味しいデザートにも興味があるし、私だって好き好んで戦いに行くような女じゃないわよ」


「つまりリーシアは勇者の旅の仲間になりたくないわけだ」


「本心はそうねえ……でも、バジェスト王の命とあっては断れないのが現実ね」


「貴族だしな~。それも未婚で腕も立つとなれば腐らせておく意味はないわな~」


「そうなのよ。だから、父上も結婚していないお前が悪いって言って来てついカッとなっちゃってさ」



 ゴードン氏にもケーキのスポンジの作り方を教えながらバイトでケーキ屋6年の腕を信じ、泡立ち具合を確認しながら小麦粉を加え更にかき混ぜる。



「それがあの喧嘩に繋がると」


「それが事の顛末よ」


「王様も随分と汚い手を使ってきたなぁ」


「別に王様が悪いわけじゃないわ。王様はこっちの事情を知らないんだし、多分私を想っての事なのよ」


「なるほど」


「縁談を断るなんて考えられないから、王様はきっと勘違いして勇者の仲間になって各地を冒険し、名を売って良き相手を見つけろって意味で今回の命令を下したのだと思うわ」


「確かにバジェスト王はオルバルトの爺さんに世話になったって言っていたしな。リーシアは王様にとって娘みたいなもんなのか」


「まぁねえ……小さい頃はよくラクーシャ様と遊んだりしたし、バジェスト王にもよくして貰ったわ」


「なら断るのは土台無理な話か」



 ゴードン氏と自分の泡立ち具合を確認し、予め用意しておいた型に流し込み、そのまま予熱で温めた釜に型を入れる。



 生クリームは昨日クレープを振る舞った時に使ったものが残っているので、パフェとケーキに盛り付ける果物を切っていく。



「ゴードン氏めっちゃ覚えるの早いやんけ」


「ははは!アリッサ様の教え方が上手なだけですよ。しかし、昨日に引き続いてアリッサ様は不思議なお菓子を思いつくものですね」


「教えて貰ったもんだけどね~。でも、ケーキとかはあんまり王都には広まらないかもな」


「どして?」


「生ものばっか使っているから腐りやすいんだ。一般の方々の家には冷蔵庫がないと聞くし、これは嗜好品として貴族の間にしか広まらないかも」


「そうですなぁ。材料費、手間、保存方法など考えるだけで破産しますぞ」


「ま、今はこの家にだけ伝わる秘伝のお菓子ってことで」



 それから生地が出来上がるまでゴードン氏に菓子パンの作り方やスポンジの派生でカステラの作り方などを教えてあげた。



「リーシアさぁ、もしもの話だけど、オレがいなかったら勇者の仲間になってた?」


「………」



 それからスポンジが焼き上がり、最終段階の盛り付けへと移行し、熱したヘラでケーキを回しながら側面につけた生クリームを平らにしていく。



「多分、なってなかったわね」


「どうして?」


「だって、アリッサと出会わなければオーディアスに来ることもなかったしね。私はあのままあの村で弟や妹の世話をしながら一生を終えると思うわ」



 余分な生クリームを取り除きながら芸術品を作るが如く集中する。



「あなたの未来に起こる出来事を知っていたとしてもね」


「確かに隠しキャラだな。お前は」


「え?」


「リーシアってさ、最終章になってようやく仲間になるキャラなんだけど、実はそれまでに村で人々の頼みごとを全てこなし、マスターランサークラスになってオルバルト道場に訪れるとリーシアが待ってるんだ。んで、それに勝つとようやく仲間フラグが立って本来最終章終わり時にパーティーから抜けるゲスト参戦フラグがなくなって正式加入になるくっそ面倒なキャラなんだよね」


「え、私と戦うの…?私、面倒な女過ぎない…?」


「ちなみに戦うお前のレベルは130だ。メインストーリーが終わるまでレベルの限界突破はできなかったから、当時のお前はマジでクソゲーだった。硬いし自己再生持ちだし、何なら回復魔法も唱えるし害悪の一言よ」


「私つよ!!!!つんよー!!!」


「オレの肩を揺らすなや!!ケーキが崩れるだろうが!!」



 無事ゴードン氏と共にメイド達へ果物をふんだんに使ったケーキとアイスパフェが完成したのであった。





 そして完成したケーキと共に2人は彼女の父親の書斎を訪れていた。


 リーシアの父、アルベルトは笑顔を浮かべてアリッサが作ったケーキを絶賛している。リーシアの話を聞いた限り気難しそうなイメージがあったのだが、そこにいたのはただ陽気な顎髭を生やしたおじさんだった。



「いやー実はあまり甘味は好みではないのだが、このケーキとやらは最高だね。アリッサ君、娘に話を聞いたが、腕も立つそうだね?それでいて料理の心得もあるとはすばらしい!」


「あ、ありがとうございます」


「リーシアも良いご友人を見つけたな」



 ひとしきりケーキとティータイムを楽しんだアルベルトはカップを置き、突然真剣な表情を作りアリッサも身に力が入る。



「それでどうしたのだ?」


「用があるのは私じゃない。アリッサよ」


「ふむ……」


「先ほどケーキを作りながらリーシアに事情を聴いたのですが、勇者の旅に同行するというのは本当ですか?」


「本当だとも。ただ、困ったことに娘がこれを拒否しましてね。王命でもありますし、どうしたものかと」


「まるで私が悪いかのように言うじゃない」


「お前が悪いんだよ……アリッサ君も説得してくれないかね」



 額に手を当て疲れた顔を見せるアルベルトは小声で『どうしてこうも我がままに育ってしまったのだ……』と愚痴を漏らす。



「と、とりあえず詳しい話を聞かせてくれませんか?オレもお嬢様から話を伝え聞いただけですから」



 父親の前だからとりあえずリーシアをお嬢様と呼んだが、アルベルトは朗らかな表情を浮かべて好きなように呼んでも構わないと言ってくれた。



「そうだね。まずは読んでもらった方が早いかもしれない」



 アルベルトは机の引き出しから一通の手紙を取り出してこちらへ渡してくる。



「読んでもいいんですか?」


「君になら構わないさ。それにこれは君にも関係がある話だ」


「え……?えと、それでは拝見させていただきますね」



 人生の中で最も慎重に手紙を開けたアリッサは綺麗に折り畳まれた手紙を広げ、むすっとしたリーシアを横目に手紙へ目を通す。



「………は?」


「だから私は反対なのよ……私だけなら良かったけど、アリッサを巻き込むのは断じて許されないわ」


「私も困っているのだがね……」


「なんでオレもリーシアの旅の同行者として数えられているんです?」



 そう、勇者の仲間に同行するのはリーシアだけではなかった。



「陛下はアリッサ君の腕を買ったそうだね」


「あとアリッサ、貴方あの晩ラクーシャ様に酷い言葉を浴びせたでしょ?姫様は陛下に抗議を申し立てたそうだけど、流石に王族に向かってあの言葉は彼女が許しても周りの貴族が許さないそうで、王族として示しをつけなくちゃならなかったのよ」


「と言っても勇者の旅に同行するなんてむしろ光栄なことなのだがね。陛下もラクーシャ様には甘い」


「まぁ本来なら打ち首もんだけど、嘘だけど爺さんの門下生だし、家名が役に立ったのかもね」


「な、なるほど……オレのせいなのか……」


「嫌なら嫌って言えばいいのよ?」


「嫌って言って断れる案件じゃないだろこれ!」


「断れるわよ?」


「どうやってよ?」


「陛下に勝てば」


「アホか!!!」


「痛い!」



 しれっととんでもない発言したリーシアの頭にチョップを下す。



「あはははは!とても仲が良いようで何よりだ。してアリッサ君、どうするかね?私も正直なところ君の才能が惜しいと考えている」


「え?」


「勇者の旅に同行する以上の功績を挙げ、私の口添えがあればこの件を断ることも可能だと言っているのだよ」


「まじすか?」


「ま、まじ?」


「本当って意味よ」


「あ、ああ、本当だとも。聞き慣れぬ言葉故に戸惑ってしまったよ」


「功績……ですか……」



 功績、そう言われ真っ先に頭に浮かんだのは自分の鍛冶才能だった。だが、これを見せてしまえばアリッサはもう元の生活には戻れないだろう。

 リーシアが言った面倒な貴族のしがらみに捕らわれ、自由に外を歩くことも出来なくなる可能性が出て来る。



「アリッサ……」



 リーシアが心配そうな顔で見て来る。確かに現代の知識と与えられた力は強力だ。だが、それはこの世界のバランスを壊すことを同時に表し、考えすぎかもしれないが制作した武器によってはそれを巡って国同士の戦争に発展しかねない。


 自分は主人公ではない、とアリッサは自分の内なる坂口龍之介に言い聞かせる。あの勇者たちが好き勝手チートをする分にはいいが、自分が世界に混乱をきたすのは何か間違っている気がすると思う。


 エウロも言っていた。自分の処遇を巡って口論があったと。これは大人しくしているべきだとアリッサは決定づけた。



「リーシア、オレは決めたよ」


「そう………それでいいのね?貴方の平穏がなくなるかもしれないけど」



 どこか晴れ晴れとした表情を浮かべるアリッサにリーシアも腹を決める。



「や、そこは追々考えて行くさ」


「なら私はいいわよ。私はアリッサの旅に同行するって決めたから」


「アルベルトさん、オレ勇者に同行します」


「父上、私も仕方ないけど行くわ。だから、これ以上縁談の話は持ってこないでよ?」


「アリッサ君の英断に深く感謝するよ。それとリーシア、とりあえずその件に関して今回だけは勘弁しておいてやるが、いい加減相手を見つけてくれ。私もパーティーに出る度に言われてね。お母さん共々参っているんだ」


「だってよ。お前もお父さんとお母さんを安心させてやれよ。こんなに娘想いのお父さんもいねえぞ」


「おお!アリッサ君!君も分かってくれるかい!?いやー君はよく出来た人だ。是非旅の終わりにはうちの仕様人として働かないかい?」


「そいつは魅力的な相談っすね」


「なによー!アリッサも父上の味方なの!?ってアリッサの中身はそうだったぁ…!!」



 思わぬ援護射撃を受けて感激し、そのままアリッサと力強く握手をするアルベルトは心を良くしてそんなことを言いはじめ、その様子を見たリーシアは一度怒りを見せるが、アリッサの中身を思い出して父親と同じように額に手を当てるのだった。



 その晩、リーシアの母親であるクレミア夫人と顔を合わせをし、彼女ようにとっておいたパフェを振る舞うとこれが大絶賛の嵐で、商人の血が騒いだのか何とか商品化しようと食事中もその話でもちきりだった。



「クレミアさん……すげえ迫力だったな……」


「まぁ母上は商人だしね~」


「でも、私もパフェの商品化は嬉しいですよ?」


「そうですわね。アリッサ様のデザートは全て美味しいのですが、いつも作って貰うのはどこか申し訳ない気がして」


「いつでも買えるのなら楽でいいですよね」



 食後、リーシアとアリッサはいつもの3人メイドを後ろに控えさせながら紅茶を楽しんでいた。



「キックベースボールの件もめっちゃ食いついてきたしな。そのうち王都で流行るんじゃね?」


「絶対流行りますよ!」


「他の貴族にアイディアを持ち逃げされるより、うちで大規模プロジェクトとして空いた土地を開拓してそこをキックベースボール場にしてもいいかもね」


「あんまりやりすぎるなよ?他の貴族に目をつけられるのは面倒だぞ」


「分かっているわよ。でも、最近うちの事業が浮き沈み気味でねぇ……正直アリッサの案は渡りに船なの。だから、多分私が止めても母上が止まるとは思えないわ」


「パワフルの塊だよなぁ……あの人……」


「それにゴードンに教えちゃったでしょ?お菓子の作り方」


「まぁね。ゴードン氏、まだ作ってんの?」


「はい、先ほど厨房を覗いた時はずっと材料と睨めっこしていました!」



 メリスの元気な報告に思わず笑顔が零れる中身おっさんのアリッサは、リーシアの母親をもはや止められないと悟る。



「職人魂に火が付いたか」


「ゴードンさんもこの前新しいことに挑戦したいと仰られておりましたから、恐らくアリッサ様の考え通りかと」


「先ほど試作品を食べたのですが、アリッサ様のすぽんじ?の方がふわっとして美味しかったです」



 思い出しながら答えるバニラに自分の腕もまだ捨てたものじゃないなと自負する。



「まぁオレは風魔法を使って高速でかき混ぜているからなぁ……混ぜすぎも良くないんだけど、あれほんと匙加減が難しいんだわ。オレも昔は先輩に怒られてばかりでさ、その先輩にこれなら大丈夫って言われた時は思わずガッツポーズをしたもんだよ」


「とアリッサは言っているけど、3人はあまり深く考えないようにね?」



 坂口龍之介の話をしてもきょとんとする3人娘をうまくフォローするリーシアは、半眼でアリッサを睨む。



「あ~うん……えと、最初ここに来た時はこんな無駄に豪華な場所で生活できるかー!って思ったけど、案眼人間ってもんは慣れるんだな。今じゃもう野宿なんて考えられんわ」


「でもこれからそうなるのよ?勇者の旅に風呂とふかふかのベッドがついてくるわけないじゃない」



 頭を掻きながら強引に話を変えるアリッサにリーシアは乗ってくれるが、彼女の言葉に軽く絶望する。



「やめよっかな……」


「今更無理でしょ。もう返事も送ったのよ?」


「え、アリッサ様も勇者様の旅にご同行するのですか!?」


「ん?まぁね。すげえ不本意だけど」



 何故メリスが驚くのかと振り返ればバニラもジェニファの2人も同様に尊敬のまなざしでこちらを見ていた。



「凄いです!お菓子作りも出来て腕も立つなんて!」


「この世界には名を馳せる女性はおらんのか」


「いるわよ?でも、ほとんど男性のようなムキムキ女性ばっかりなのよ。だから、私のような華奢な女性は憧れの的になると同時に軽視されるのよ」


「男性優位の社会構造だしな。それにプライドが許さんか。男性よりも強い女性なんてもんは」


「それは貴女の奥底からの考えかしら?」


「オレはむしろ尊敬するけどね。でもさ、結構周りにいたんだわ。そういう人たちがさ」


「どこに行っても変わらないものなのね」


「古き時代から人間の心の奥底にあるものさ」


「先ほどからお二人が何を話しているのかさっぱり分からないです……」


「大丈夫よメリス、私もそうだから」


「流石リーシアお嬢様とアリッサ様ですわ」



 アリッサとリーシアの会話に全くついていけない後ろの3人娘はせめて聞き逃すまいと必死に耳を澄ませるのであった。

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