第3話 鍛冶才能

「アリッサ!敵は全て私が薙ぎ払ってやる!君は後ろで私を熱い眼差しで見ていて!」


「うぜえ……」



 場所は森。現在アリッサとリーシアはレベルを上げるためモンスターと戦っていた。リーシアはホーリーランサーよろしく純白の鎧を身に着け、ガッシャガッシャ音を立て鼻歌を歌いながら気分よく歩いている。


 対するアリッサはオルバルトにその格好で森に行くのは危険だから、と言って急遽昔リーシアが使っていたおさがりの鉄製の鎧を貰い、それを装備している。



「でもなぁ……」



 実際リーシアは強かった。25レベルとは思えないほどの身のこなしでどんどんモンスターを屠り、ビーストランスの特効も乗ることから獣属性のモンスターなどちぎっては投げの無双を繰り広げる。



「お前って実は強いのか?」


「分からないわ。まだお爺さんには勝てないけど、王国騎士隊長を務めていた父とは互角くらいね」


「つっよ……」



 流石ジャンヌダルク様だ。これが最後には世界を滅ぼそうとする巨悪と主人公と共に肩を並べて戦うのだからどうなるか分からないものだ。



「ところでアリッサは面白い戦い方をするのね」


「お前のおかげですげえ楽な戦い方を覚えたんだよ」



 そう、現在のアリッサは次元宝物庫から武器を投擲していた。このスキル、どうやら武器を装備するわけではないそうなので、たとえ過去作でレベル限界値でしか装備できない武器だろうと投げる分には問題ない。

 なので、神々しいエフェクトをした槍やら禍々しい明らかに装備しちゃいけない系の剣やら斧やらが次元から現れてはモンスターに突き刺さっては倒していく。



「なんだかあなたの宝物庫には私が今持っている槍すら霞むような武器がいっぱいあるとお見受けするんだけど」


「当たり前だろ。ビーストランスなんて鼻ほじっても作れるもんだ」



 ジト目で見て来るリーシアの前に巨大な猿が現れるが、モンスターが雄たけびを上げる前に稲妻を纏った槍が発射されて巨大な猿は一瞬で絶命する。



「ちなみに今の槍の適正レベルは?」


「今のは175レベルで装備できる神槍グングニル」


「あれ……私の知識だと人間のレベル限界値って100までじゃなかったっけ……」


「現界突破をすれば200まで上がる」


「ほんと!?」



 目標を倒したグングニルは光の粒子となって消え、再び次元宝物庫の中に戻っていく。



「知らなかったのか?」


「なんか学校で読んだ書物には過去に人の限界を超えた人がいたっていうのはあったんだけど、眉唾ものらしくて誰も信じていないのが現実」



 でも、とリーシアは続ける。



「アリッサの話を聞いてからあの本は間違っていなかったんだって思うわ」


「オレが嘘をついている可能性を考えないのかよ…」


「え?アリッサが私に嘘をつくわけないじゃない」


「こわっ!」



 どこか狂気が宿る笑みにアリッサは思わず後ずさりし、それを見たリーシアはぷくーっと可愛らしく頬を膨らませる。



「でもさ、アリッサ。そういう話は黙っていた方がいいよ。その武器投擲スキルもろくな結果をもたらさないと思う…」


「どういうことだ?」


「レベルの限界突破に関しては最悪異端審問として殺されるかもしれないし、マスターコレクターのクラスも貴族とかに目をつけられた面倒なことになるよ」


「うわ、確かにそうかもしれない……」



 オルバルトの会話にもあったように、この世界の武器製造技術は遅れていると見て良い。辛うじて素材の声に耳を傾けることができる鍛冶師が数人いるらしいが、どれも王宮仕えの国宝鍛冶師として任命されているため間違っても彼らの武器が流通することはない。


 なので、それを軽く超える武器を無数所有するアリッサはそういった連中の標的にされやすいとリーシアは言っているのだ。



「だから、この村を出る時は使う武器を3つほどにした方が良いと思う。剣や槍や弓を使うクラスはあるけど、全部のスキルを使えるクラスなんてないからね」


「お前、まともなことが言えるんだな……」


「ちょ!それどういう意味!?私はアリッサのことが心配で言っているのに!!」


「あー分かった分かった。んじゃ剣と槍と弓にするよ」


「それならウェポンマスターとして名乗れるのかな?それにしては下位スキルしかないけど」


「オレのレベルが上がるとクラススキルが上がるシステムだし、クラスレベルとはまた別枠なんだよ」


「そういうことね。なら、もっとレベル上げないと!」



 むすー!と張り切ったリーシアに連れられ、その日は太陽が沈むまでモンスター狩りを続け、アリッサは素材の剥ぎ取り技術も上がったし、そう悪いものでもなかったなとぱんぱんになったインベントリを見ながら満足するのであった。




 それからリーシアの妹、弟と遊びながら中級鍛冶ハンマーが装備できる30レベルになるまで4日ほどかかった。

 思った以上にレベルの上りが遅くて時間がかかってしまったが、村人とも仲良くなり自身が村の住民になったかのような錯覚を覚えたところで、アリッサは村の中で唯一鍛冶が出来る製鉄所を訪れ、事前に用意してもらった鉱石と自分が剥ぎ取った最高品質のブラッディベアーの皮と血液をテーブルに並べる。



「アリッサ、足りそう?」


「ああ、問題ないよ。それじゃ作るからしばらくの間1人にしてくれ」


「分かった。何かあったらすぐ呼んでくれ」


「頼みましたぞ。アリッサ様」


「アリッサお姉ちゃんがんばって!」


「姉ちゃん頑張れ!」



 両親はまだオーディアスにいるようだが、一家総出で激励してくれて握るハンマーにも力がこもるというもの。


 アリッサは事前にこの世界で鍛冶をする上でどのような仕様になっているのか確認するためロングソードと呼ばれるレベル5で装備できる一般武器を試作で何本か作っていた。

 過去作では一瞬で出来た武器だったが、リアルの鍛冶よろしく行程一つひとつに順序があり、思った以上に時間と集中力が必要で、敏捷値に回していた8割のうち5割を慌てて精神力に振ったのは頭の痛いことだ。


 ビーストランスを作りながら改めてレジェンダリーファンタジーの仕様を確認していた。


 ステータスはHP、MP、筋力、耐久、精神力、敏捷、幸運の7個に分かれている。


 HPは言わずもがな自身の命のことで、これがなくなると死ぬという何ともあっさりしたものだが、一番重要なのだから無視できる存在ではない。


 MPは魔法や属性攻撃を行う際に消費し、クラスによって最も振れ幅が大きいステータスになっている。だが、マスターコレクターは万能と言うだけあるのか、並みのクラス以上にあり、本職であるキャスターには及ばない程度で収まっている。


 筋力は物理攻撃をした際に与えるダメージが増えるもので、斬撃・刺突・打撃と言った3種類の攻撃全てに等しく参照される近接が最も気にしなければならないステータスだ。だが、魔法剣はこれだけではなく、筋力と精神力を参照するので注意が必要。


 精神力は魔法のダメージが増えたりと近接が筋力ならば魔法は精神力と分かりやすい。魔法は火、水、土、風があり、火は風に強く水に弱く、水は火に強く土に弱く、土は水に強く風に弱く、風は土に強く火に弱いという相性循環がある。

 だが、例外として聖と闇属性があり、この2つの属性は4属性の相性に左右されないが、互いに弱点という欠点がある。ただ、聖と闇属性を扱える者は少ないらしく、かなり不本意だがリーシアは聖属性が使える希少な存在らしい。


 その消去法で行くと聖属性に該当する回復魔法の使い手が少ないことを意味し、教会側に呪いの解呪や治療を頼むと莫大な寄付金を要求されるとリーシアは嘆かわしく言っていた。


 脱線したが、敏捷は素早く動くことが出来ることを示す読んで字のごとくとはよく言ったもの。簡単ではあるが、アリッサは敏捷と精神力はHPの次に重要なことだと理解していた。

 敏捷はとにかく早くなる。手作業も。それは剥ぎ取りや鍛冶も例外ではなく、全ての物事が早くなるのは盲点だった。だから、筋力よりも敏捷を優先するし、精神力の隠しステータスだと思われるスタミナの概念もあると考えていることから精神力にも最近振っている。


 さて最後に幸運。これは正直実感がわかない。やり直しが効かないこの状況で試しに幸運ステータスに振るわけにもいかないし、推測するに恐らく鍛冶の大成功率やモンスターの急所に当たる確率などありとあらゆる確率に影響を及ぼすステータスなのだろう。


 だが待って欲しい。リアル志向で作られた今作で幸運ステータスは死にステなのではないかと?そんな幸運を極振りしたからと言って宝くじがバンバン当たるわけでもないと思えばどうだろうか。


 そう考えたアリッサは幸運ステータスに関しては研究不足感が否めなかった、そもそも幸運という実態として掴みにくいものをどう表せばいいのか分からないし、自ら実験体になるつもりもないので半ば究明は諦めている。



 と、改めておさらいをしながら進めること3時間。何となく思い浮かぶ手順に沿って武器を作り上げていくとビーストランスが完成に近づく。


 1つ目は妹のクーナちゃん用のビーストランス。彼女は女の子なので付与能力に軽量化を入れてあげ、持ちやすくしてあげた。その代わり弟のバングくんよりも最大ダメージ値が低いが、彼女は精神力が高いためきっと手数でそれを補うことだろう。


 2つ目のビーストランスは父ちゃんみたく立派な騎士になるんだ!と意気込むバングくんのために付与能力のブラッディベアーの一撃をつける。これはクーナちゃんの槍の方にもつけられたものだが、軽量化とは共存しないものだったため、あちらは扱いやすさを追求し、こちらはダメージ重視というわけだ。


 ロングソードを作っている時も思ったが、今作の鍛冶は武器に能力を付与することが可能で、完成する武器のランクによって付与できる数が変わってくるのだが、その他にも素材の品質で同じ能力でも数値が変わるなど大分鍛冶に対する上方修正がされているように感じた。



「よし」



 完成したビーストランスを並べて真眼を発動する。2本とも完成度は最高品質で、現在自分が作り出せる最高傑作に近いものができた。


 一応作る前に鍛冶スキルを発動させて品質向上を狙ったのだが、それでも運が悪ければ7割程度の力しか引き出せない粗悪品が出来てしまうのだから意外と緊張の瞬間ではあった。


 2本とも僅かな差があるが、それでも完成度は98%と99%で悪くはないできだと思う。リーシアが持っている奴なんて適当に作ったから完成度は87%だし、とは口には出さないつもりだ。



「付与能力もちゃんとついているな」



 2本の重さを比べ鉄と竹を持った時のような重さの違いを感じ、ちゃんと付与能力が起動していることを確認してから鍛冶道具をインベントリにしまう。


 鍛冶屋から出るとそこには4人の姿があり、数時間も待っていたのかと若干悪い気もしてくる。



「できたの?」


「ああ、約束の品だ。こっちがクーナちゃんでこっちがバングくんね」


「わー!お姉ちゃんありがとう!!」


「すげえ!!!こんな槍見たことないぜ!!!」


「おおお……リーシアが持つ槍も凄まじいものでしたが、こちらはより一層荒々しさを感じますな…」


「え?私の槍の方が凄いに決まっているでしょ!!」


「えー!俺の方が絶対いいぜ?」


「だよねー!」


「なんだって!?ちょっと貸して!」



 半ば奪い取るように妹と弟から槍を受け取るとその瞬間リーシアの表情が変わる。



「アリッサ……なにかした…?」


「ん?ああ、付与能力のことか。クーナちゃんは重いのは辛いだろうしから軽量化を付与して、バングくんは今後お父さんのように頑張って欲しいから攻撃重視の能力をつけただけだ」



 その言葉に爺さんとリーシアの表情が固まる。



「まじかよ!うわ!まじでクーナの軽いな!!練習で使う木の槍より軽いんじゃないのか!?」


「逆にバングのは重いわ!これが普通なの!?」


「大抵のことでは驚かないつもりだったけど………あなた素材の声が聞こえるの?」


「そうだな。鉱石とか素材を混ぜる時に俺とこいつは合わないとか、逆に俺とこいつはめっちゃ合うから混ぜると品質が上がるとかなんか分かる」



 恐らくマスターコレクターの説明にあった武器の声が聞こえるっていうのはこういうことなんだろうなと朧気ながらクラス説明を思い出す。



「神級鍛冶師と言っても過言ではない才能ね。流石過去にこの世界を何度も救った英雄様かしら?」


「おい、お前馬鹿にしてるだろ」


「そんなことないわ。でも、あなたのあの話を聞いてからその話が真実味をどんどん帯びて来ているのは本当の事よ」


「私もリーシアから話を聞きましたが、確かそのような話が書かれた書物が王宮の図書にあった気がしますなぁ」


「爺さんそれほんと?」


「ええ、もちろんですとも。こう見えて私は王の右腕と言われた騎士でしたからな」



 お恥ずかしいと言って笑う爺さんの話に違和感を覚えた。ってことはもしかするとリーシアは……



「え、リーシアって貴族のお嬢様?」


「あら、言ってなかったかしら?」


「言ってねえよ!!」


「それは申し訳なかったわね。ちなみに爺さんが村長よ?」


「え!?あ!だから鍛冶台を貸してくれたり素材を用意してくれたのか……」


「なに、この村の未来を想ってのこと。アリッサ様、此度の件に関して多大なる感謝を申し上げます」



 オルバルトはリーシアに命令し、まるで血が変色したかのような赤黒い禍々しいデザインの革鎧を持ってくる。



「こちらはそのお礼です。誰も装備ができないものなのですが、きっとアリッサ様なら装備することができるでしょう」



 誰も装備することができない?そう聞いて受け取る前に真眼を発動する。



 堕神狼アスガルドの革鎧。


 神狼アスガルドの素材をふんだんに使って作成された鎧。だが、作成者が魔に魅入られたためこの鎧は呪われている。

 アスガルドシリーズの1つで全てを揃えると神狼は目覚めるとされている。


 HP+40 耐久力+57 精神力+35 幸運-2


 ユニーク能力:アスガルドの俊足(敏捷上昇+20%、精神力上昇+10%) 堕神狼の呪い(狂気化・自我崩壊)

 付与能力:魔法耐性(中) 地形効果(軽減) 鑑定阻害(A)


 装備条件:レベル80(-40) 闇属性適応者



「おい!!爺さん!!!この鎧呪われているじゃねえか!!!」


「なんと!?」


「それもアスガルドだって!?あいつレベル95の超レアモンスターじゃねえか!!この鎧作った奴どこ行ったんだよ!」



 受け取りかけた鎧から手を引き戻し、呪いを付与しやがった作成者に怒りをぶつけるアリッサ。



「の、呪われているの…?」


「何でも作成者が魔に魅入られたとかでこれを装備すると狂気化して自我が崩壊するんだとさ」


「うわぁ……」


「ま、まさか村に眠る宝がこのようなものだったとは…」


「まあ鑑定阻害のAランクがご丁寧についているからな。凄そうな鎧ってだけで分からないか。いや、こんな禍々しい鎧が真っ当なもんじゃないってことは分かりそうだけど…」


「私持ってても大丈夫…?」


「ああ、装備しなきゃってかアスガルドシリーズはレベル80で装備できるんだけど、これは堕神狼だからマイナス40されて、しかも闇属性適応者にしか装備出来ないっぽいから大丈夫だと思うよ」



 今にも手を放してしまいそうなリーシアだが、アリッサの言葉を聞いて安心する。いや、今も一刻も早くこんなの捨てたそうな顔をしている。



「アリッサの能力でなんとかできないの?」


「今のオレは防具関係はさっぱりだからなぁ……呪いがつけられた装備は割かし珍しいもんじゃないんだけど、この呪いユニーク能力なんだよね」


「ユニーク能力とはなんですかな?」


「ユニーク能力っていうのは元々モンスターや素材が持っている能力のこと。良い例がそこにあるじゃん。バングくんが持っているビーストランスがまさにそれで、ブラッディベアーがオレの能力は便利だぜって言ったから今用意できるなかで一番良さげだったし、彼もそれを望んでいたからつけたんだ」


「たしかブラッディベアーは血を受けると攻撃力が上がる特性を持っていましたな」


「そそ。それをバングくんにつけているわけ」


「なるほど、ユニーク能力というのはそういうことでしたか」



 斬っていいと言われた槍を持って木をスパスパ伐採しているバングくんが子供のようにはしゃいでいる姿を遠目で3人は見ているが、アリッサは笑いながら木を伐採している彼に若干苦笑いなのは気のせいだろうか。



「で、ただの付与能力ならオレのレベルがもうちょい上がれば鍛え直しっていう鍛冶スキルでどうにか出来そうなんだけど、これはユニーク能力だから防具自体がそれを望んでしまっているからちょっと手を焼いているんだよね」


「今も声が?」


「んー………武器ほどじゃないけど聞こえるね。めっちゃオレを装備しろってオレに言って来る。あと散らばったオレの身体を集めろって言ってる気がする」


「うわ、もろ呪いね……防具になっても生きているとか……」


「やはりアリッサ様は装備できるようですな」


「できるけど願い下げなところだ。でもアスガルドシリーズは興味あるんだよなぁ」


「私はアスガルドについてあまり知らないけど、爺さんは知ってる?」


「うむ、数百年前にこの地で大災害を引き起こした巨大な狼だ。マリエナのモンスターを支配する7体のモンスターのうちその1体がアスガルドで、その当時は国が2つほど滅んだと書籍に残されている」


「まああいつでけえからなぁ……」


「アリッサ知ってるんだ?」


「アスガルドシリーズの武器なら作ってるし」



 投擲スキルでアスガルドの武器を目の前にボトボト落とすと、どれもキラキラと輝く銀糸ような綺麗な毛があしらわれた武器で、オルバルトとリーシアは思わず目を奪われる。



「なんと……これがかの神狼の武器……」


「圧倒的な力を感じる……」


「ちなみに未来のリーシアはこの槍を持ってモンスター相手に無双している」


「え!?」



 武器を次元宝物庫に戻すと2人は露骨に名残惜しそうにするが、出しただけで見せもんちゃうぞ。



「つか、アスガルドの武器を出したらそこの鎧めっちゃ反応したな。さっきより露骨にアピールしてくるんだけど」


「私にもわかりますぞ。ここまで邪悪な気配を漂わせるとは何故今まで気づかなかったのか」


「ええ、これはしかるべき場所に送って厳重に封印を施すべきものだと思うわ」


「いや、それは止めた方がいい」


「「え?」」



 2人の声が重なる。



「こいつ同じシリーズを装備している奴を引き合わせる効果があるらしくて、今までこの森の神聖なエネルギーで相殺していたけど、ここから出すと何をしでかすか分からない」


「ならこのまま村に保管?」


「それもまずい。オレと出会ってから邪悪な気配が森の外に漏れだしているから村に変な奴が来るかもしれない」


「なんと……ではどうすれば……」


「いいよ、それオレが預かるから」


「アリッサ様!?」


「元々貰う予定だったし、装備しなければいい話だからね」



 呆気に取られている2人をよそにリーシアが持つ鎧を勝手にインベントリに放り込む。するとさっきまでやかましかった声が完全に消え、これで一安心。



「防具が消えた…?」


「爺さん、これでアリッサが色々と規格外な存在だとわかったでしょ?」



 あ、いっけね。このインベントリに放り込むのもリーシアに人前で見せるなって言われたんだったか。パーティーはシステムで組めてインベントリが使えないってNPCの権限はどこまであるのだろうか。



「しかし、送るはずの鎧が呪われているとは……アリッサ様にはどうお詫びすればいいか……」


「んー別にそこまで気にしていないけどな?アスガルドシリーズなんて早々お目にかかれるものじゃないし、呪われているとは言え防具関係に興味が出てきたしね」



 ちなみに今装備しているアリッサの防具は――――



 鉄の鎧


 なんの変哲もない鉄製の鎧。女性用に作られたのか、男性用と比べて装甲が薄く、耐久力は低いがその代わり敏捷減少のデメリットはない。


 HP+10 耐久力+10


 と、普通の鉄製の鎧なのだが革に比べれば全然まし。



「爺さん、アリッサは首都オーディアスに行くつもりなんだ。旅の費用などでどうかな?最近道場に来る人も増えて潤っているじゃん」


「おお!それは名案だ。では、しばし待っていてくだされ」


「なんか悪いな」


「どうせお金持ってないんでしょ?」


「モンスターの素材を売るつもりだったんだが、ここでは買取はしていないのか?」



 大慌てで家の方に走り出した元気なオルバルト爺さんの背を眺めながら呟くとリーシアは気にしないでって言う。



「してないわね。そういうのは大体ギルドのモンスター素材買取所に持っていくしかないわ」


「ギルドねえ……今後の収入源として入るのもありか。リーシアは入っているのか?」


「ええ、あんまり活動していないからCランクだけどね」


「ギルドのランクって出来高制なの…」


「嫌な言い方ね……実績を積むって言って欲しいわ」


「なるほど、ギルドと信頼関係を築ければ上がっていくんだな」


「その認識で間違いないわ。最初はFからスタートしてSで打ち止めね」



 ギルドなんていう新しい要素が追加されたことに若干の高揚感があるが、今までのシリーズだと必ずと言っていいほどスタート時からどこかの組織に属しているためギルドを出すメリットがなかったのかもしれない。



「アリッサ様、私で用意できる限りの資金をここにあります。是非お受け取りください」


「まじっすか」


「何分慌てて用意したため少々銀貨が多いかもしれませぬが、ご了承ください」


「え、銀貨なの!?銅貨じゃなくて!?」



 ずっしりと重みのある袋を受け取りながら驚愕する。


 この世界は銅貨が1円。銀貨が100円。金貨が1000円。プラチナ貨が1万円だ。試しに今懐が0円なので、インベントリに放り込むと勝手に計算して合計額が出て来るが――――



「え、1万ゴールド?」


「本来ならばいくら金を積んでもあなたの偉業に見合う額を出せないのが心苦しいのですが…」


「いやいや!十分!序盤でこんなに貰えるなんてもっと武器作っちゃうよ!?」


「序盤…?」


「アリッサはこの村にある金を全部むしり取るつもりなの…」


「はっ!?ついゲームの癖が出てしまったか……いや、本当に十分だよ。爺さんありがとね」


「そう言って貰えるといくらか安心できますぞ」


「姉ちゃん!この槍すげえよ!!いつも苦戦するモンスターが簡単に倒せるんだ!!」


「お姉ちゃんありがとう!!」



 そこで森から帰って来たクーナとバングが興奮冷めやらぬ様子で近寄ってくる。



「喜んでもらえて良かったよかった」


「2人とも森に入ったの!?あれだけ危ないから大人の人を連れて行くように言ったのに!!あんまり言うこと聞かないと爺さんに説教してもらうよ!」


「わわ!リーシア姉ちゃんごめんよ!そんな奥に入ってないから!」


「ごめんなさいー!!」


「まぁまぁこれから2人は模擬戦だけじゃなく実戦を交えた修行をすればいいんじゃないの?」


「アリッサって子供に甘いよね」


「否定はしない」



 クーナとバングに渡したビーストランスもモンスターを倒せて喜んでいるようで、2本ともオレに感謝しているようだ。



「ああ、任せたぞ」


「なにが?」


「2本ともクーナとバングのことは任せろってさ」


「ふふ、確かに二人とも危なっかしいからね」



 爺さんに頭を叩かれている2人の様子を微笑ましく見つめ、オレは村ですべきことを果たしたので旅立つ決意をする。



「行く?」


「そうだな。リーシア、本当についてくるの?」


「当たり前よ。こんな常識がない人を放っておいたらどんなことをしでかすかわかったもんじゃないわ」


「そんなに危険か、オレ」


「ええ、危険よ」



 どうやら本気でアリッサについてくるようで、渋々それを了承した。



「アリッサお姉ちゃん元気でねー!!」


「アリッサ姉ちゃん今度相手してくれよ!!絶対この槍使いこなすからさ!!」


「ああ、ちゃんと槍の手入れをするんだぞ?お前らはこの槍に守って貰うんだ。毎日使ったらありがとうって言って磨くんだ。そうすればきっと槍は応えてくれる」


「もちろんだよ!」


「うん!」


「爺さん、槍の手入れの仕方を2人に教えてあげてくれよ?あの槍は生きている」


「もちろんですぞ。私も朧気ながら感じます。眩しいばかりと輝く槍の気配を」


「流石マスターランサーのクラスなだけあるな」


「おや、鑑定阻害の心得はあるのですが、どうやらアリッサ様には全てお見通しのようですな」


「まあね。爺さん、元気でな。いつでもここに来れるようにはしているけど、いつ来るかは分からない」


「ええ、それまでにあの2人をみっちり鍛え上げるとしましょう」


「はは、槍術が嫌いにならない程度にな」



 爺さん、あんた98レベルのマスターランサーなんだよな。昔王様の右腕だったっていうのは本当かもしれないな。


 しかし、なんだってこんなぼろい家に住んでいるんだろう。貴族っていうともっと豪華な屋敷に住んでいるイメージなんだが。



「ああ、それは爺さんの方針よ。うちは元を辿れば平民だから、それを貴族になっても忘れないためなんだって」


「へえ、それは立派な心掛けで」


「私も屋敷とか大理石で囲まれた家とか拒否反応示すのよね~。もうあの木造になれちゃったわ」


「庶民的だな」



 村を離れ、マリエナの首都オーディアスに続く道に沿って2人は森の中を歩いて行く。



「リーシアのお母さんは?」


「母上は立派な貴族よ。前王が爺さんと仲が良くてさ、貴族側も下手な嫁を出すわけにも行かなくて王国でも有数の商人出の娘を貰ったと聞いたわ」


「なるほど、だから両親とも売りに行ってここにいないのか」


「村の財務は全て母上が管理しているわ」


「んで、自分で物を売りさばくのか。激務すぎないか?」


「実家にいた頃に比べればましって言っていたわよ」


「お前の母ちゃんの実家ブラックすぎるだろ…」


「なんとなく言いたいことは分かるわ」



 リーシアの母親が過労で死んでしまわないか心配になるが、娘のリーシアがこれなのだ。心配するだけ無駄だろう。

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