第2話 現状把握
「んっ……」
アリッサは目を覚ました。もちろん見慣れない天井。いつの間にか眠っていたようで、昨日あのあと何があったのか何も覚えていない。
身体を起こすとアリッサは黒いキャミソールに着替えており、恐らくリーシアが着替えさせてくれたのだろう。
「オレ……帰れないのか……」
窓から見える森の景色をぼんやりと眺めながら呟く。元の世界に帰る方法が分からず、目的となる旅の目標もなく、あてもなくこの世界を歩くと思うと何もやる気が起きない。
「はぁ……」
精気が抜けるようなため息を吐くと同時に部屋の扉があき、アリッサが入って来た。
「起きたのね。大丈夫?落ち着いた?」
「ああ、とりあえずね……」
「なにか食べる?」
「いや、そんな気分じゃない…」
リーシアは椅子を引っ張って来てベッドの近くに置くとそこに腰掛け、優しく微笑む。
「あのさ――――」
「言いたくないのならいいわよ。なんだか込み入った事情のようだし」
彼女の言葉にアリッサは口を紡ぐが、それでも何だか彼女になら話してもいい気がした。
「聞いてほしいんだ。今から突拍子もないことを言うかもしれないけど、オレの愚痴だと思って聞いてほしい」
「………わかったわ」
それからアリッサは坂口龍之介が経験してきたこの世界とはまた違う世界の話をリーシアに聴かせた。
30分くらいだろうか。その間彼女はただじっと黙ってアリッサの話を聞いていた。口を挟まず、じっと。
「アリッサがどこか私達と違う気がしたのはそういうことだったのね」
「え?信じるのか?今の話を」
「話半分よ?でも、アリッサが風呂からあがってきた時に私を見た時どこかで会ったことがあるような、既視感を覚えたの。気のせいかなって思ったんだけど、今のあなたの話を聞いて確信したわ」
「はは……」
「一番私達と違うと思ったのはあなたの股間についているそれよ」
「な!?それはオレのせいじゃない!」
「ふふ、でもアリッサったらちゃんと私と同じ女性でもあるのよね。ほんと謎よ」
「え!?まじで!?」
「ええ、ほんと私達と同じ人間なの?」
「オレは人間だ!!」
そこでクスクスと笑っているリーシアがおり、ようやく自分はからかわれていることに気付いて赤面する。
「て、てめ!」
「ごめんごめん、でも元気出た?」
「え?」
「元気なさそうだから、ついからかいたくなったのよ」
「ああ……そうだな。質の悪い冗談だが、笑えたよ」
「いえ、女性のソレに関しては本当よ?」
「お、お前!いつの間に確認したんだ!!!」
リーシアはまだ笑いながらアリッサが着ているキャミソールを指差し、それですべてを理解した。
(こ、こいつ着替える際に全部脱がしやがったな!!)
「ねえ、素朴な疑問なんだけどアリッサっておしっこどっちから出るの?」
「知るか!!!!!!」
憤りをぶつける場所もなくアリッサはリーシアに背を向けそのままベッドに横になる。
「あ、ちょっとこっち見てよ~」
「やだね!」
「私、アリッサに興味が出てきたの」
そうやってアリッサの肩に手を置いた瞬間、アリッサは言い寄れぬ悪寒が身体を突き抜けるのを感じ、背筋が凍る。
「ひっ!?て、てめえ!まさかそっちのけが!?」
「アリッサが特別よ?」
「く、来るな!!お前のような痴女に興味はない!!」
「痴女だなんてひどいわ。同じパーティーなんだし、もっと互いの身体のことを知るべきだと思うの」
「来るんじゃねえええ!!!」
アリッサの激情に反応した次元宝物庫から明らかに彼女が装備できるレベルではない武器が現れ、そのままリーシアの頭と衝突しゴチン!!!と痛そうな音を立てて武器と共に彼女は崩れ落ちた。
「はぁ!はぁ!はぁ!!」
エクストラスキル:武器投擲 を取得しました。とログが流れたが、それより今はこの本性を現したレズから離れるべきだと思い、癪に障るがリーシアの服以外はないので、昨日彼女から貰った服をそのまま着て寝室を後にする。
「おや、目を覚まされましたか」
リビングに出ると中央のテーブルで槍の手入れをしている老人がいた。恐らく彼がリーシアの祖父なのだろう。
「あなたは…」
「私はリーシアの祖父のオルバルトと申す者です。孫から話は聞いていますぞ」
彼は手を招いてアリッサに座るよう言うと、席を立って紅茶を出してくる。正直一刻も早くあのくそレズから離れたいのだが、彼の人の好さを感じて思わず座ってしまった。
「まだまだ未熟な孫にあのような逸品を貸してくださり、私も眼福の一言です」
「ビーストランスのことですか」
「ビーストランスですか……私が知っている物とは些か形状が違うようですが、リーシアもそう言っていたので誠なのでしょうな」
「どう、違うんですか?」
「私が知っているビーストランスはブラッディベアーの牙を加工したボーンランスの派生と言えばいいでしょうか。ですが、あなたがお作りになられたビーストランスは鉱石との完全融合しており、平たく言えばあの槍は生きている」
「そう言えばあのくそレ……リーシアが素材が生きているとか言っていたな……」
「ええ、あれは生きております」
「い、生きている……」
あの血走った眼をしているクマが武器になってもなお生きているとか正直使いたくないんだが、リーシアに預けているからいいか。
「リーシアから話を聞いておりますが、アリッサ様はオーディアスに向かわれるとか」
「そのつもりですね」
「ふむ……」
そこでオルバルトは既に乾いて防具かけにかけられた革の鎧に目を向ける。僅か1日でダメにしてしまった革の鎧だ。
「アリッサ様、一つ提案がございます」
「なんでしょうか」
「アリッサ様の防具をこちらで用意させて貰えないでしょうか?」
「いいんですか!?」
「ええ、この村が出せる最高級の鎧を用意しましょう。ですが、その代わり一つ鍛冶をしてもらいたいのです」
「鍛冶……ですか……それは構わないのですが、現在オレのレベルは低くて満足が行く鍛冶が出来るとは思えません」
「なるほど……」
オルバルトはふむと唸る。アリッサは武器を製造することが出来るが、防具の製造は出来ない。なので、彼の提案はお互いに得のある話であり、出来れば応えたいのだが……――――
「えっと、モノによります。どういう槍を作りたいのですか?あちらにあるようなユニークウェポンの製造はオレのレベルが90にならないと出来ないものですが……」
「い、いえ!とんでもない!そのようなモノを要求するほどではありません。あくまでビーストランスのような槍が2本ほど欲しいのですが」
オルバルトがちらりと窓の外に目を向けるとそこには小さな女の子と男の子が木の槍を持って稽古を積んでおり、汗を流しながら的に向け力強く真っすぐ突きを繰り出している。
「なるほど、そういうことですか。なら、頑張らないといけませんね」
「感謝します」
アリッサは真っすぐな子供が好きであり、会社で支援している子供野球の試合があれば子供のためにスポーツドリンクの差し入れをしたりしてた。
「ビーストランスクラスの槍ならオレのレベルが20あれば事足ります。少し待っていてください。森でレベルを上げてきます」
「ああ、お待ちを!リーシアをお連れください。孫は目がいいので、森でもきっとあなたの役に立つことでしょう」
凄まじく断りたかったが、老人の真っすぐな目を向けられアリッサは断れずくそレズ女の同行を許してしまった。
あんな女を一瞬でも美少女だと思った過去の自分を殴りたい気分だ。
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