第8話

すると少女の心の奥からジワリと僅かにドス黒い感情がまるで清流に墨汁を一滴落とした様にドス黒い感情の波紋が小さく広がった。


『私のせいで…私のせいで…私の………せい?』


『シャンシャン』とまた何処か遠くから【神楽鈴】を二振り鳴った音が微かに少女の耳に入ってきた。さらに少女の心の奥からジワリとドス黒い感情が滲みだしてきた。急速に少女の心は黒く塗りつぶされて行った。


「ぁ?…ぁ?………。」


『……なんでおばあちゃんが死なないといけないの?…なんで…なんで…な………な・ん・で・わ・た・し・が・こ・ん・な・め・に・あ・う・の!』


虚ろで涙を流し続け心の中で呟くと少女は一変して目を見開き眉間には奈落の深さの様に深い皺が出来ると歯が千切れ飛ぶ程、噛みしめ血管が切れる程膨れ上がり太くこめかみに現れた。

少女の顔は凡そ人の顔からかけ離れた憤怒の顔がそこに現れた。

余りにも強く噛みしめた歯からバキバキと音を立て歯を食いしばっている歯茎が耐え切れず血が流れ出た。

口元が僅かに開き、食いしばっていた歯が少し開くと怨念が音となってゆっくりと流れ出てきた。


「ぁ?っ!あ゛っ!がぁ?っ!…お?お?お?!!…ごっ!・ろ?っ!・じっ!・でっ!・や?っ!・る?っ!…ごっ!・ろ?っ!・じっ!・

でっ!・や?っ!・る?っ!…ごっ!・ろ?っ!・じっ!・でっ!・や?っ!・る?っ!…ごっ!・ろ?っ!・じっ!・でっ!・や?っ!・

る?っ!ぁ?っ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


少女の目はみるみるうちに充血していき目から血が滴り落ちた。

少女は両腕に自分の限界を遥かに超える程の力を込めた。

力を込めた両腕にみるみるうちに無数の血管が浮き出した。

ビニールテープで頑丈に縛られている両手首にビニールテープがあり得ないほどめり込んでいった。

少女は更に両腕にありったけの力を込めた。

縛られた少女の両手首からメリメリと音がするとボキッ!と鈍い音と共に少女の手首が折れ手首ごと頑丈に縛ってあるビニールテープを引き千切った。

少女の手首から噴水の様に血が噴き出した。

手首と同じ様に片足づつ太ももと足首を折り曲げた状態で縛られていた両足も少女は常人では到底出せないありったけの力で足の筋肉や皮膚を引き千切りながら足を折りたたむ様に縛っていたビニールテープを外すと肉が抉り取られた箇所から手首と同

じ様に血が噴き出した。

手首が無くなった腕を動かし辺り一面、自分の血で部屋を塗りながら外に向かう為に這いずり出入口のドアに向かった。


『絶対に殺してやる!!絶対に許さない!!…殺してやる!!………殺して…や…る…殺し…殺………。』


心の中で呪怨の様に叫び続け顔から足先まで全裸の全身が自分の血で真っ赤になりながら這いずり出入口のドアに噴水の様に血が噴き出している手首の無くなった腕を伸ばした時、少女の意識が急速に薄れだした。少女の視界が無くなった時『シャン!』

と一振り少女の頭の中で【神楽鈴】の鈴の音が大きく鳴り響いた。

噴水の様に血が噴き出している手首の無くなった腕の伸ばした先にあった部屋の出入口が一瞬に消え失せ辺り一面漆黒の闇になっていた。

広がった漆黒の闇の中からとても人が発する声とは思えないほど綺麗で清涼な透き通った子供の歌声が聞こえてきた。


『 とヲりゃんせ♪ とヲりゃんせ♪ 』


『 ここはどこの 細通じゃ ♪』


『 天神さまの 細道じゃ♪ 』


『 ちっととヲして 下しゃんせ ♪』


『 御用のないもの とヲしゃせぬ ♪』


『 おのれを供物に 奉る♪ 』


『願いを申しに まいります♪』


『 行きはよいよい 帰えりゃせぬ♪ 』


『 怨み晴らしに ♪』


『 とヲりゃんせ♪ とヲりゃんせ ♪』


少女の目の前にいつの間にか二人の子供の姿をした【何か】が片手でお互いの手を繋ぎ二人共、もう片方の手に持っている【神楽鈴】の鈴の音に合わせ歌いながら舞を舞っていた。

一人の子供の姿をした【何か】は足先まで伸ばした神秘的な美しさの黒髪をなびかせ顔には右側に深紅、左側に漆黒の色で塗られた狐のお面を被っている。

血の色の牡丹の花があしらっている漆黒の足先まである振袖がフワリと華麗に舞っていた。

もう一人の子供の姿をした【何か】は対照的に足先まである鏡の様な艶のある白髪をなびかせ顔に被っている狐のお面は右に純白、左に深紅の色で塗られていた。

純白の色の椿があしらった深紅の足先まである振袖が同じ様にフワリと歌声と【神楽鈴】の鈴の音に合わせて舞っていた。

自分の血でドロドロになりながら少女は二人の子供の姿をした【何か】を魅入っていた。

二人の子供の姿をした【何か】は這いずっている少女に舞ながら近づくと繋いている手を潜らせる様に少女の両脇を通過した。

少女の目の前に広がっている漆黒の闇からズズズっと巨大な漆黒の随身門が浮かび上がった。

漆黒の随身門が完全に姿を現すと固く閉ざしていた漆黒の随身門の門が音も無くゆっくりと開くと門の内側に塗られた艶やかな朱色が眩しい光と共に這いずっている血みどろの少女を照らした。

少女は眩しさに顔をしかめつつ開ききった朱色の門の先を見た。

懐かしい二人の人影と見慣れていた少し背中の曲がった背の低い一人の人影が目に入ってきた。

顔は逆光で見えないが何時も何度も何度も夢で見ていた優しい両親と少女の事と一心に思い何時も笑顔で傍にいてくれた祖母だと少女は直ぐに分かった。

少女は目を見開き涙を流しながら潰れて声が出ない喉で必死に大好きな両親と祖母の名を叫び手首が無い腕を一心不乱に動かして血の道を描きながら這いずり漆黒の随身門の開け放たれた門に向かった。

三人の姿がはっきりと分かる程、少女が必死になって這いずり近づくと三人共純白の狐のお面を被って顔はわからないが少女にははっきりと亡くなっている両親と祖母だと確信した。

まだ血が勢いよく流れている手首の無い腕を必死に伸ばし少女が両親と祖母にとても優しく抱かれる様に門を潜ると血のお面を被っている様な血みどろの少女の顔は満面の笑みを浮かべ両親と共に過ごしていた少女の幼少期の頃、両親に抱かれながら眠りについていたとても穏やかな表情をしたまま三人の腕の中で目を閉じた。

漆黒の随身門の外で漆黒の暗闇の中、舞を舞っていた二人の子供の姿をした【何か】

がピタリと舞を止めると轟音と突風と共に巨大な漆黒の随身門の門が途轍もない速度で閉じられた。

爆音と共に閉じられた門を背に二人の子供の姿をした【何か】はその場で音も無く二人の狐のお面が不気味に歪み笑みを浮かべながら暗闇の中に沈み込む様に姿を消していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る