第4話

すぐさま奇声を上げた自分の口を閉じ中年男性は辺りを見回した。

周りの大きなゲーム音のお陰て思わず発した奇声が掻き消されて少し遠くに居る店員には気付かれていない事に安堵すると急速に酔いが冷めて行った。

頭を下げ続ける眼鏡を掛けたおとなしそうな少女から中年男性は目を放し腰に両手を当てながら少しの間、天を仰いだ。

中年男性は眼鏡を掛けたおとなしそうな少女に目を戻し肩を指先でチョンチョンと叩くと眼鏡を掛けたおとなしそうな少女は飛び上がるくらい体をビクつかせた。

眼鏡を掛けたおとなしそうな少女が恐る恐る頭を上げて中年男性を見ると中年男性は申し訳なさそうな顔をしながら手でゲームセンターを出る様に合図を送った。


「………。」


「………。」


「え~と…と、とりあえずこれ、あげるよ…。」


「……えっ!。」


ゲームセンターを出た中年男性と眼鏡を掛けたおとなしそうな少女は店の裏側にある人通りの殆どない路地まで足を運んだ。

しばらく無言で二人は立っていたが徐に中年男性は後ろポケットに手を伸ばし自分の財布を取ると一万円を眼鏡を掛けたおとなしそうな少女に差し出した。

それを見た眼鏡を掛けたおとなしそうな少女は差し出された一万円を見て驚きを口にした。


「あ~…っと…どういった理由でこんな事をするのかわかんねぇけど、やっぱ、やっちゃぁいけねぇと思うんだ…あんた見ないな子がやる事じゃぁ無いと…とりあえずこれあげるから…これで済むのかどうか俺…おじさんはあんまり頭が良くねぇからわかんねぇけど…まぁ…頑張ってとしか言えねぇから…。」


「………。」


「それと…今回はあげるけど、もし…またおじさんに同じ様に声をかけに来るんだったら今度は理由をキッチリ聞くから…。まぁ…これも何かの縁だし…赤の他人で冴え無いおじさんに何が出来る訳でもねぇけどな…。まぁ…今回だけでこんな事をやらなくて済む様になってると良いけどな。」


中年男性はそう言うと眼鏡を掛けたおとなしそうな少女にお金を握らせて足早に立ち去った。


「あ~ぁ…せっかくの資金が…まぁ…積みゲーも結構あるし…酔った勢いって言ってもなかなか自分でも太っ腹だな~…二十代前半だったら行ってたかもな~…なんて♪……でも気にはなるけど…やっぱ何にもできねぇよな~…。」


ガシガシと頭を掻きながら中年男性は日がまだ高く明るい表通りをゆっくりとした足取りで家路に向かった。

中年男性が立ち去ったゲームセンターの裏路地にまだ眼鏡を掛けたおとなしそうな少女が腰から崩れる様に座り込んでいた。

手に握られたお金をクシャクシャにしながら力強く握りしめ目には涙を浮かべていた。


「……うぅ…うっ…あ、あんな風に赤の他人でも真剣に言ってくれる人が△△さん(きつい顔立ちの美少女)の近くに居てたら…まだ…うううぅ…」


眼鏡を掛けたおとなしそうな少女は引き摺る様に起き上がると同時に眼鏡を掛けたおとなしそうな少女のスマホの着信音が鳴った。

スカートのポケットからスマホを取り出して電話に出ながら重い足取りで裏路地を戻り再度ゲームセンターに入って行った。




きつい顔立ちの美少女の幼馴染である長身で凛とした少女は朝早く学校に行来ていた。

1週間近く姿を見えないきつい顔立ちの美少女といつも一緒にいる眼鏡を掛けたおとなしそうな少女が学校に来るのを心配しながら待っていた。

何時もなら既に教室に居てる時間になっても姿を見せる気配が無いので少し不安げな表情を浮かべながら何時も三人で使っている少し奥まった女子トイレに向かった。


『は~ぁ…。今日も休みみたいね…。何もなければ良いけど…。でもほんと変わったねあの子…中学の時はあんな子じゃ無かったのに…明るくて優しくてちょっと強引な所はあったけどいじめみたいな事は一番嫌ってたのに…。』


長身で凛とした少女はきつい顔立ちの美少女の事を考えながらため息交じりでいつも使っている女子トイレのドアを徐に開けた。

開けた女子トイレの中に少女ときつい顔立ちの美少女と向かい合って無言で立っていた。

きつい顔立ちの美少女の後ろに隠れる様に眼鏡を掛けたおとなしそうな少女が心配そうな顔をしながら二人の顔を見つつ立っていた。

長身で凛とした少女は目を見開き息をのんだ。

目に飛び込んできた状況に少しの間、頭が真っ白になった。


「なっ!。あんた!学校に来てたの!なんで教室に来ないのよ!心配したんだから!それに○〇さん(少女)と一緒にこんな殆ど人気の無いトイレに…って…あんたまさか…。」


「はぁっ!。何言ってんのよ!勘違いしないでよね!私は何もしてないし!それにもう出て行くから!」


「ちょっ!。ちょっと待ちなさいって!。まだあんたに話したいことが…」


「私はあんたと話す事は何もないから!」


「………」


長身で凛とした少女は悲痛な表情できつい顔立ちの美少女の腕を掴み

事情を聞こうとしたがすぐさまきつい顔立ちの美少女は強引に掴まれた腕を振りほどくと何時もの様に一緒に居てる眼鏡を掛けたおとなしそうな少女の腕を強引に引っ張って足早にトイレから出て行った。

一瞬すれ違いざまに眼鏡を掛けたおとなしそうな少女が何かを訴える様に

長身で凛とした少女に悲痛な面持ちで目を向けていたのを感じ取って声をかけようとしたが一足先にトイレのドアが閉まり声をかけそびれてしまった。


「大丈夫?怪我とかない?」


「えっ!。だ、大丈夫です!。何もなかったから…。」


「…はぁ…まぁいっか。……どうしたの?」


「えっ!。え~っと…同じクラスの子に初めて話しかけられたから…ビックリしちゃって…。」


長身で凛とした少女はオロオロとしている少女に心配そうに声をかけた。

一瞬、きつい顔立ちの美少女に後で文句を言われると思ったが今更だと思いなおし自傷気味になり小さめの溜息をついた。

声をかけられた少女は凄くビックリした表情で長身で凛とした少女に答えると初めて同じクラスの子と言葉を交わしたことに少し照れながら言葉を口にした。

その姿をみた長身で凛とした少女は真剣な顔立ちで少女に向かって深々と頭を下げた。


「………○〇さん(少女)に今頃謝っても済すまない事をしていたのは十分わかっているし許してもらえないと思っているけど……………今まで酷い事をしてごめんなさい…。」


「……えっ!。あ、あの、そ、その…わ、私は大丈夫だから!。頭を上げてっ!」


「…………。」


「う~~っ…ホント、大丈夫だからっ!気にしてないからっ!」


ゆっくりと頭を上げた長身で凛とした少女は少し涙目になりながらオロオロとしている少女を見て少し顔を綻ばせた。


「やっぱり○〇さん(少女)は凄く優しくて強いね…。」


「……全然……強くなんかないよ……。」


「………。」


「………。」


「……挨拶とかしても良い?…。」


「えっ!。う、うん…。」

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