第1話

ある少女は14歳になったばかりの頃から頻繁に同じ夢をみていた。


自分が記憶にある筈がない生まれたての頃や少女自身がその場に居ない場合も含めて現在に至るまでの生い立ちがまるで映像を見ているかのような不思議な視点から少女自身が眺めている奇妙な夢だった。


若い両親に抱かれている生まれたての少女自身を照れ臭さが口元を歪め何度も見ているから夢の中だと知りつつも顔を赤らめながら少女は見ていた。


時には若き父が泣き止まない自分を困り顔で必死になってあやしている場面、時には母が目を細め穏やかな表情で少女自身に母乳を与えている場面等が動画のカット割りの様に次々と移り替わって行った。


夢を見ている筈の少女も微かに記憶に残る場面まで移り変わると夢の中だと言う事を忘れてまるで録画している家族の動画をみている時の様にある場面では笑いある場面では顔を真っ赤にして恥ずかしがったりしていた。


少女が幼稚園、小学校と成長する姿を見るにつれ次第に眺めている少女自身の表情が悲しみを滲みだす様になっていった。


少女が小学校の卒業式の日の場面が来ると眺めている少女自身の目から涙が止めどなく溢れ出していた。


これ以上は見たくないと眺めている少女は叫び必死になって夢から覚める様に少女自身を起こそうと叫び続けるが何時もの様に夢は覚めずに夢が続く事を眺めている少女自身も十分に分かっているがそれでも叫び続けた。


少女の小学生の卒業式が終わり両親と手を繋ぎながら満面の笑みを浮かべ自宅に帰って行った。


暖かな食事を両親と少女は笑顔で食べ真新しい制服を少女は着て両親に見せ家族全員が笑顔の絶えない一日を過ごしていった。


少女と両親が穏やかな表情で寝ている姿を眺めている少女自身は夢の中だから目を反らす事が出来ない事が分かっているので絶望の表情を浮かべ溢れ出している涙を拭うことなく見続けていた。


家族が寝ている姿から一変して眺めている景色が家の外に移り変わると真っ暗闇の中、自宅前の道路の所々に配置された街灯の灯りに僅かに照らされている深めにフードを被った男性が少女の自宅を眺めていた。


夢の中で眺めている少女自身、そのフードを被った男性が現れると一変して『止めて!』と泣き叫び懇願した。


膝から崩れ落ちた少女自身をよそに映像の様に場面が流れフードを被った男性は周囲を警戒しながら少女の自宅の玄関先を抜け雨戸が閉め忘れている一階の窓に近づ

いた。


僅かな時間の後、ピシリと言う小さな音を立てゆっくりと静かにフードを被った男性は少女の自宅の窓を開けゆっくりと少女の自宅に入って行った。


フードを被った男性はペンライトの灯りを頼りに引き出しや棚を開けて金目の物を物色して行った。


結果が分かっている少女自身は絶望の最中、只夢が早く覚める様に祈る事しか出来なかった。


しばらくフードを被った男性が引き出しを漁っていると突然、部屋の明かりが付き母親の悲鳴が響き渡った。


フードを被った男性は腰に手を回すとサバイバルナイフを取り出し母親に襲い掛かった。


母親は逃げ出そうとフードを被った男性に背を向けた瞬間、鈍い音と共にその場に倒れ伏し背中に突き刺さっているナイフを中心にじわりじわりと母親が来ていたベージュ色のパジャマに深紅の滲みが広がって行った。


悲鳴と略同時に飛び起きた父親と少女は2階の寝室から急いで降りると少女と父親の目前に、倒れている母親の背中に刺さっているサバイバルナイフを抜き取ろうとしているフードを被った男性が居た。


少女は倒れている母親を目にし『お母さん!』と叫びながら駆け寄ろうとしたがすぐさま父親に玄関の方に向って突き飛ばされた。


少女は驚いて父親の方を見てみると父親はフードを被った男性の方を見たまま背中越しに『交番に逃げろ!』と少女に向かって叫んだ。


父親はフードを被った男性に近くにあった本や衣類を投げつけながら動けずにいた少女に『逃げろ!』と叫び続けた。


呆然とへたり込んでいる少女の腕を父親は強引に引っ張り何とか立たせると少女を引っ張りながら父親は玄関に向かって走り出した。


急いで玄関のロックが掛かったドアを開け少女を放り出しながら外に出ると背中で玄関のドアを閉める様に押した。


玄関のドアが閉めかけた時、フードを被った男性の腕がこじ開ける様に突然出てきた。


出てきた腕の手には真っ赤に染まった大きなサバイバルナイフが薄暗い街灯に照らされて不気味に赤く光っていた。


それを見た少女は悲鳴を上げその場にへたり込んだ。


父親は必死に背中で玄関のドアを押しフードを被った男性と押し合っていた。


傍にいた少女を押し合いの中、何とか立たせ数回少女の頬を叩くと父親は『お巡りさんに助けを呼んで来い!』と少女に叫び続けた。


ようやく少女は理解して裸足のまま必死で交番迄走り続けた。


素足を血だらけにしながら倒れ込む様に交番に入って行った少女を偶然巡回から戻ってきた警察官に抱かかえられると力を振り絞り警察官の制服を力いっぱい握りしめて父と母を助ける様に懇願した。


少女が警察官に覚えていた自宅の住所を言うと直ぐに別の警察官に告げパトカーに乗り込む姿を少女は目にした時、眠る様に意識が無くなって倒れた光景を映像の様に映している光景を少女自身は見ていた。


絶望の表情を浮かべ魂の抜けた顔で呆然と場面が移り変わった光景を眺めている少女自身が見ているのは父と母の顔に白い布を掛けられ横たわっている所に母の胸に顔を埋めて泣き叫んでいる少女の姿だった。


・・・・・


ピピッ・ピピッ・ピピッ・。


「ん…。」


少女は寝ぼけながら短い声を出すと机の上にある緑色の四角い目覚まし時計に手を置きアラームを止めた。


「あ~…また座って寝ちゃった…怠いな~。」


少女とは思えないガラガラ声で言うと机から身を起こし首と肩を回した。

自分の頬に涙の跡が付いている事に気付くとまた何時もの夢を見ていた事に気付き気持ちを沈めた。


「まだ覚えていないだけマシよね…。」


目をこすりながら数年前から見る様になった自分の過去の夢を頬に残っている涙の跡で初めて気づいた事に少しだけ救われた気分になり自傷気味に笑みを浮かべ一人呟いた。


パンパンと軽く自分の頬を叩き強引に目を覚ませるとテキパキと机にある勉強道具を

片付け学校に行く身支度を始めた。


身支度を終えて2階にある自室から祖母のいる1階の台所に向かった。


「おばあちゃん!おはよう!。私も手伝うね!。」


「あらあら、おはようさん。大丈夫かい?もう少しゆっくり寝ても良いんだよ~。何時も遅くまで勉強頑張ってるんだからこんなに朝早くに起きてこなくても良いのにね~。」


「全然大丈夫!おばあちゃんと一緒にごはんの用意をするのが楽しいから逆に一緒に作れなくなっちゃったら元気が出ないよ~!」


少女より背が低い少し背中が曲がった祖母が優しい目で少女に言うと少女は満面の笑みを返しながら元気よく答えた。


「いつも年寄臭いお弁当だけどごめんね~。」


「全然そんな事無いよ!私、おばあちゃんの作るお弁当が大好き!優しい味がして何時も美味しく食べてるよ!。お爺ちゃんはもう何時もの畑に行ってるの?」


「年寄りは朝が早いからね~。あたしもゆっくりしてからお弁当を持って畑に行ってくるさね。」


「じゃぁ、私は学校の帰りにスーパーに寄って晩御飯のおかずを買って帰って来るね!何にしようかな?…お魚で良い?」


「そうさね~あたし達はお魚が良いんだけど爺さんはお肉が好きさね~…でもお魚にしようさね。」


「あははは!。晩御飯の時にお爺ちゃんに謝っちゃおう!。じゃぁ、お魚買って帰るね!」


暖かい会話を交わしながらテキパキと朝食と弁当3つを作り朝食をすませると何時もの様に居間にある暖かく日差しが差し込む部屋の仏壇に手を合わせ父と母の位牌に「行ってきます」と小声で挨拶をすませた。


祖父母と少女が暮らしている少し広い庭に蔵がある昔ながらの平屋の玄関を開けて見送りに立つ祖母に手を振りながら笑顔で学校に向かった。


少女が通っている高校に近づくにつれ何時もと同じ様に少女の表情が次第に強張っていった。


学校に着いた少女は重い足取りで自分のクラスに向かった。


教室の教壇から後ろ側のドアの前迄来ると少女は大きく深呼吸して少し間を置いた。

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