【11.休憩出来ない休憩室。】


前半の休憩組は、

私と山本さんと佐々木さん、それから女の子が1人。

休憩室にみんなで行って、7つある席の内の1つの席に座ろうとする。

誰とも隣りの席になりたくないので、いわゆるお誕生日席にした。

すかさず1番近い席に佐々木さんが座り、少し私の傍に近付く。

そして、私から1番遠い席に山本さんと女の子が座った。


「早川さん、ご飯それだけですか〜?俺のお弁当いっしょに食べましょうよ〜」

「早川さん、俺の昔の写真見ますか?」

「早川さん、今日一緒に帰る時クレープ食べません?」

佐々木さんは完全に私に対してしか話さないので、私はその話題を広げて山本さん達に投げかけ続けた。


「山本さんって、確か甘いもの好きですよね」

「ん?・・・あぁ」

「じゃあ、バレンタインとかめちゃくちゃ嬉しいイベントですね」

「そーいうタイプじゃないんで、そーいうの興味ないです」

それを聞いた女の子が、

「え?じゃあ、貰ったとしてもお返しあげないんですか?」と驚いた顔を見せる。

「いや、流石にもらったら返しますよ」

不意をつかれた山本さんは、思わずオドオドして照れ隠しの笑顔で応えた。


なにそれ、可愛い。


私が振った話題なのに、女の子と楽しそうに話してる。

心の中では、地団駄踏んで小さい私が暴れてる。

しかし26歳、

そこもポーカーフェイスで乗り越えた。


「陰キャだったから、そーいうの貰わないってだけで、貰ったらお返ししますよ」

「偉いですね」

ニコッと笑った私の家庭科の成績は、5段階評価中の2。

バレンタインまでに、チョコのスキルだけは上げなきゃなと、軽く決心。


「早川さん、バレンタインとかあげるんですか?」

佐々木さんが、興味津々である。

「あげますよ〜。私自身もチョコ好きなんで手作りしてますよ〜」

「へー、早川さんってどういう人がタイプなんですか?」

その瞬間、休憩室が静まり返った。


「うーーーーん、・・・陰キャ?」

「ゴホッ」

何の気なしに飲んでいたコーヒーでむせた山本さん、それを真顔で見る佐々木さん。


しまった、本当のこととはいえ、今の流れは厳しかった。


反省した時には、時すでに遅し。


「俺、高校時代陰キャだったんで、クリアですね!」笑顔を見せた佐々木さんに、女の子が1番驚いた顔を見せた。


「え?友チョコくらい皆にあげますよ?」

とぼけた私に驚いたのは、佐々木さんよりも山本さん。


そして、私は試合放棄。

「さ、そろそろ戻りましょうか」

捨てたペットボトルが、ゴミ箱の底に着く前に、私は休憩室を出た。

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