【7.そして、私も景色になる。】
この歳になると、好きな人ができたなんて可愛い理由じゃ世界は変わらない。
相手もその気じゃないので、あいも変わらず風景程度に山本さんが視界に入る日常を過ごしていた。
「早川さん、ポップコーンボックスの在庫どこにあるか分かります?」
同期の男の子に話かけられ、私はうーんと眉間に皺を寄せた。
「多分、わかる、と思うけど。何カ所か探すことになりそう」
「じゃあ、俺も行きますね」
同期の佐々木さんは、どこか私の知人を思わせる雰囲気を持っていて、佐々木さんがいるだけでテンションが上がる。
そして、楽しく話してくれるので懐いてもいる。
2人でポップコーン売り場を出て行くと、開けた扉の目の前に山本さん。
一瞥すると興味なさそうに前を向き直した山本さんは、「お疲れ様です」と機械的に発した。
「「おつかれさまでーす」」
ハモった私たちは、お互い目線を合わせたものの何も話すことはなく倉庫へと向かった。
「多分コッチかアッチなんだよねー」近くの扉を開けると、大きめの段ボールがズラリ。
「ココじゃなさそうですね」
佐々木さんが扉を抑えてくれている間に、私はスルリと倉庫から抜けた。
「ということは、コッチか!」
勢いよく開けると、さっきの3倍近い数の小さめの段ボール。
「ココですね」
2人で名目をチェックしていく、だが見当たらない。
「うーん、コレはないやーつですね」
「ですね」
今度は私が扉を抑えて、佐々木さんに道を譲る。
またも、山本さんの後ろを通過してポップコーン売り場に戻ろうとした。
そのポップコーン売り場への扉に、佐々木さんが手をかけた瞬間に、私の目線が彼の首元に留まった。
「あ、佐々木待って。ストップ、止まってください」
「ん?」
言われるがままに固まった佐々木さんの襟を正すと、ちょっと照れ笑いをした佐々木さんが「すいません」って会釈をした。
その小声な感じと照れ笑いが可愛すぎて、『年下の男の子半端ねー』って私も硬直してしまった。
少し間を持って、「ふふっ」と笑った私に
佐々木さんは「どうぞ」と扉を開けて道を譲ってくれた。
「ありがとうございます」って横を通った私の姿とかをフィードバックすると、微笑ましい新人コンビすぎない?なんて自分で思ってしまった。
まぁ、これも18歳とかの新人コンビならまだしも片やアラサーだからな。と、自分で作った夢を自分で現実に引き戻した。
「先週、佐々木さんいなかったから。なんか、すごい久しぶりな気がしちゃいます」
エプロンを着けながら話すと、佐々木さんは嬉しそうに笑った。
「早川さんって、誰とでも上手くやりそうですね」
「え?そんなこともないですよ?」
「そんなことあります。早川さんのこと嫌いな人なんて、いないですよ」
断言した佐々木さんは、本当にそう思っているようで、そのピュアな目が眩しすぎる。
過去にあったアレやコレや、気の強い性格も全部いま喉の奥に飲み込んだから、君に見せることはないよ。
言いはしなかったけど、その意味を含んで笑顔で応えた。
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