【5.久しぶりすぎて、気付きませんでした。】


翌日、連休最終日である。


またも、扉を開けると先輩がシフトを見ていたので

「ぱいせん、今日もポップコーン売り場ですか!」と高めのテンションで声をかけた。

「いいえ、有人受付けです」

今日も、低めのテンションで返ってきた。

一言放つとその場からいなくなるのも、全く同じ。なんだこれ、デジャブか?


私は、更衣室のドアノブに手をかけた。

「おはようございます」

「「「おはようございまーす」」」

一斉に挨拶が返ってくる。

自分のロッカーに行き、黒のズボン、灰色のTシャツ、紺のスニーカーに履き替える。

髪は高めのポニーテール。

化粧はつり目で、少しでも幼さをカバー。

Tシャツの中に香水を1プッシュ。


「また映画観てきました〜」

「えー、その作品観るの何回目よ」

「7回目です〜」

「すごいね、本当に」

たわいもない会話をBGMに、決まったルーティン通り着替える。


そして、みんなと同じタイミングで出て行く。


今日もポップコーン売り場。

朝礼を終えて、開店準備を済ませて、昨日と全く一緒。


準備を終えるとちょうど開店の時間、エプロンをつけてレジ前に立つ。

しばらくはボーッとするだけの時間だった。


ふと目に付いたのは、先輩。

映画を7回観た彼女と同じ有人受付けにいる。その有人受付けの女の子は、私より少し小さいくらいの身長で、笑い方が無邪気で可愛い。先輩と楽しそうに話す笑顔が、可愛らしくてなんだか目を引く。

その子の頭1個分以上も上のところにある先輩の顔も何だか楽しそう。


『・・・え、待って。デカくない?』

少なくとも私より頭1個分は、身長が高いように見える。

おそらく、昨日女の子が言っていた背の高い人は先輩のことであっていたようだ。

傘にまで入れてもらって、なぜ身長に気付かなかったのか。

いや、そもそも私の顔の横に傘を持つ手があった時点で身長差なんて目に見えて分かるじゃん。


『興味ゼロかよ・・・』

自分の無関心さに脱力した。


「?早川さん?」

「あぁ、いや、すいません」

「ははっ、暇ですよね」

「暇ですね〜、みんな喋ってますけど結構夕方とかまで暇でもずっと喋ってますよね。話題が豊富で、よく続くなぁって感心します」

「あー、みんな仲良いですからね〜」

「それは、すごい感じます」

気付いたら、チラッと有人受付けに目線が行っていた。


「山本くんと里中ちゃんは、山本くんがまだ入って少し経ったくらいなんだけど、2人ともよく喋るからね〜」

目線に気付いた女の子がサラッと名前を言ってくれた。


〔山本さん〕


使うことがあるか分からないけど、一応覚えておきます。

っていうか、やっぱあの人喋る人なんじゃん。

なんだよ、あの傘の日以外全く私とは喋ってくれないぞ。


もう一度チラリと見ると、手振りまでつけて話している。

その社交性、私にだけ適応しないの何でなの。


「山本さん、私と同い年なんですよ〜」

「・・・羽田さんって、確か20歳でしたっけ?」

「はい!」

もう一度、チラリと見る。


20歳かーーーーーーーーーーーー。


っていうか、

私何回彼のこと見るの?


は?なにこれ、好きなの?26歳が?20歳を?



いやいやいや、ないでしょ。



ゼロ距離で隣り歩いても、身長差にも全く気付かなかったくらい無関心だったんだよ?



そして、その身長差という言葉に、私は雨の日のことがフラッシュバックした。

頭1個分ということは、25cm差はあるだろう。

そんな人のさしてる傘のヘリが当たる理由、普通にさしてたら当たる訳がない。

傾けていたんだ、こちら側に、傘を。



『・・・はーーーーー??ツンデレかよーーー』


ため息が、一生分出た瞬間であった。

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