【4.君の名は。】
翌日、連休中日である。
昨日からの豪雨は嘘のように晴れ、さわやかな出勤となった。
扉を開けると、偶然にも傘に入れてくれた彼がシフトを見ていた。
「あ!ぱいせん!おはようございます!
ポジション、ポップコーン販売ですか?」
「いいえ、違います」
昨日とは打って変わって、素っ気ない態度を取る彼。一言放つとその場から離れた。
「そうですか・・・」
残念そうな声を出して、シフトに目を移して見たが全く分からない。
っていうか、あの人の名前、なに?
今さら名前も聞けず、とりあえず先輩という呼び回しで回避していた状況に気付く。
『いや、まぁ考えても分からないか』
地味なユニフォームに着替えて、私も朝礼に参加することにした。
その後は1日の流れを確認して、ポップコーン販売の準備に移る。ひたすらにポップコーンのストックを作る。今日も、チョコレートポップコーンの香りは甘くてテンションが上がる。
そのテンションのままポップコーン売り場の裏側に回ると、そこには淡々と作業をする先輩。
「え!先輩、ポップコーン売り場じゃないですか!」
嬉しそうに駆け寄ると、ボソッと彼が何か言った。
「ん?」
小首を傾げるも、オーブンの音でかき消され、微妙な雰囲気が漂った。
『なんかよく分かんないや』
自分の中で興味のスイッチが切れたのを感じた。掃除用のダスター準備に取り掛かろうと21枚のダスターを取り出し、そのまま洗い場へ向かった。水に濡らしては、絞って畳む。
半分が終わった頃に、先輩が無言で私の隣りに来て作業を手伝い始めた。
『ん?????』
2人でやる作業ではないよな、と困惑した。
さらに言うならなぜ無言?
他にやることあるよね、多分?
混乱状態の私は、無言で畳んで、先輩もやり終えると「ありがとうございます」と笑顔だけ見せてその場を離れた。
そして、ダスターを設置し終えると「他にやること教えてください」と他の人の後をついて回ることにした。
視界に先輩が入るだけで、自分の中の何かがモヤモヤする。
朝、冷たくされたからだろうか。
心が狭いなアラサー、大人になれよ。
自分に問いかけ、慰めた。
「あの、ポップコーン売り場にいる男の子で、なんかヒョロッとしてる人。名前なんて言うんですか?」
「んー、誰だろう」
今日のポップコーン売り場で、男の子は7人。
私は女の子に無理ゲーを仕掛けた。
「背の高い、スラッとした人かなぁ?」
「いやぁ、背はそんな高くないと思います」
「えー、誰だろう」
背の高い人なんて、そもそもいたかなぁ?と首を傾げる私。
つられて首を傾げる女の子。
その日、結局 彼の名前に辿り着くことはなかった。
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