【2.リア充を見送る私】

その次の出勤から、世間一般の連休が始まった。

2日目から連休に、さらに言えば連勤なのは、私が複数の飲食を経験していて、基礎がなっているからであろう。

この歳である、聞くべき分からない部分もある程度は把握しているし、その都度自ら聞くことが出来るのは間違いない。

そうして、淡々と1人で作業をこなしていく。


「ポップコーンのMサイズ、チョコレート味をおひとつ。お飲み物は、如何なさいましょう?」

「あー、飲み物はー・・・」

「2人で飲むならLにしようよ」

「そうだね、コーラでいい?」

「いいよ!」

「じゃあ、コーラ1つで」

「かしこまりました。以上、2点のご注文でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

ドリンクをセットしてボタンを押す、その隙にチョコレートのポップコーンを盛る。

甘い香りが鼻をくすぐり、私の気分が高揚感に包まれた。すくう度に、サクサクと音がする。

これが、あの仲睦まじいカップルの手に取られるのかと思うと、このチョコレートポップコーンも満更でもないだろう。


「お待たせいたしました。お気をつけてお持ち下さい」

「「ありがとうございます」」

男の人は、言葉そのままを受け取り慎重に両手でトレーを持ち上げた。

彼女はそんな彼をチラリと見上げたのちに、私の方を見てペコリと会釈をして彼の後ろをついて行った。


恋愛ものが多いシーズンなので、お客さんの大半がカップルのようだ。

淡々と、どこかのマニュアルのような流れで喋る私。

機械的に喋る私。

目の前にいるお客さんだけは違くて、うつむいて迷う姿や笑顔で話す姿が眩しい。


お客さんの言う「ありがとう」と、

私が言う「ありがとうございました」は、

価値観が違っていて、なんだか私の言葉は死んでいるようにさえ思えた。


たくさんの言葉が行き交い、お客さんに耳を傾けないと聞こえない。それだけ騒がしく、でも心地よい忙しさ。

店員の声が、一際大きく、そして少しだけ高い声で響く。


生きてる言葉が、今ここにたくさん交わされている。


死んでしまった言葉は、一体いくつあるだろうか。



耳を澄ましても、心地よい雑音が私の脳を揺さぶるだけ。

それを味わうことが出来た2日目の出勤に、私は満足していた。

貼りついた営業スマイルも、今日は本当の笑顔だったと思う。




そうして連休初日は、

滞りなく、そしてあっという間に流れて行った。

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