第3話
彼女が死んだのは、ぼくのせいだった。
ぼくはかつて彼女を助けてもらうための条件として、彼女に二度と反対しないことを誓った。そして、ぼくはチャックノリスと戦うことを拒んだ。そして彼女は死んだ。
彼女が死んで、ぼくは総合格闘技を始めた。チャックノリスをボコボコにするためだ。それ以外に償う方法など分からなかった。
チャックノリスを倒すためだけに日々を過ごした。チャックノリスを倒すために身体を鍛え、技術を磨き、食事をし、排泄をし、そして眠った。
8年が経った頃、ぼくはチャックノリスと戦うことにした。マダガスカルで野生のチャックノリスが見つかったという情報を得たからだ。自信はあった。ぼくはマダガスカルへと飛んだ。
マダガスカルの森深く、そこにチャックノリスはいた。チャックノリスは、ぼくを見ると獲物を見つけたかのようにニタッと笑い、突然襲いかかってきた。
これがぼくが今、チャックノリスと戦っている全てだ。
ぼくは立ち上がると同時に、チャックノリスの顔面に砂をぶつけ、チャックノリスの顔面に拳をぶち込んだ。チャックノリス相手に汚いなどとは言っていられない。
必勝の感覚。今までの相手ならこれで倒れているはずだった。
しかし、チャックノリスはビクともしない。ぼくは距離をとった。
チャックノリスは口から何かを吐き出した。血に染まったそれはよく見ると、チャックノリスの白い歯であった。
効いている。僕は確信した。
それも束の間だった。
チャックノリスは大きく口を開け、その中を僕に見せびらかした。そこには確かに、吐き出された歯が存在したことを示す、空白があった。
そして次の瞬間、その空白から全く新しい歯が生えてきた。チャックノリスは再生能力を有していた。
希望はすぐに絶望へと変わり、勝てる見込みがぼくの中から消え失せていく感覚があった。
しかし、引くわけにはいかない。チャックノリスをボコボコにしないといけない。
ぼくは地面を蹴り上げ、チャックノリスへと飛びかかった。そして、チャックノリスが消えた。ぼくは地面にキスをしていた。
3秒。なにが起こったのかを理解するのに必要な時間だった。チャックノリスは明らかに手を抜いていたのだった。
チャックノリスは、ゆっくりと僕に近づいてきていた。僕はあと数十秒で死ぬのだろうと思った。
そう思った瞬間、泣き出したくなった。いや、泣いた。
「なんでぼくが、チャックノリスと戦わなくちゃならないんだ!?」
思わずぼくは泣き叫んでいた。その間もチャックノリスは近づいてくる。
「どうして、8年間もチャックノリスを倒すために時間を使ったんだ!? 嫌だ、まだ死にたくない!!!!」
チャックノリスとぼくの距離はゼロになっていた。チャックノリスが虫ケラを踏み潰すために、足を上げた。
「童貞のまま死にたくないんだ!!」
ぼくは叫んだ。
チャックノリスの足が止まった。チャックノリスはとても悲しそうな顔をして、巣へと帰っていった。
ぼくは安堵によって薄れていく意識の中、チャックノリスの歯を彼女の墓に見せにいくことを考えていた。
チャックノリスとステゴロで戦う話 二面のボス @boss2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます