第18話 罰という名のデート――スタート――

 ばつ 【罰】バツ・バチ

《名・造》悪い行いに対するこらしめ。

・しおき

・特に、神仏が悪行に対して下すむくい。


 ん~……罰とはなにか。これに対する答えは明確だと思う。

 悪いことしたら、こらしめる。と。


 では、芹沢さんの下した罰とはなにか。


「まるでデートじゃなーい」


 芹沢家の扉を叩くと颯希ねーちゃんが現れた。


「デートじゃないですよ?」


 モンスターが現れた的な感覚でぽんぽん湧き出る颯希ねーちゃんはとてもラフな格好でにたにた笑ってる。

 部屋着? で堂々と出てこないでください。


「買い物だなんて。荷物持ちだなんて。ゆうくんには甘すぎなのよ」


 その、目のやり場に困る格好で玄関に出てこないでもらいたい。

 外に見えちゃう心配とか、俺に見られる心配とか、ちゃんと考えてもらいたい。

 芹沢さんに会う前に煩悩ぼんのうにとらわれてはいけないのだ。

 胸の谷間とか、むっちむち太腿ふとももとかいらないんだ。

 透き通るような瑞々しい肌とからいらないんだ。


 いらないんだ!


 俺はかっと目を見開いて煩悩を断ち切る。


「あははははは、どこ見てんのよ~。あはははは、メッチャ見てる! めっちゃ動揺どうようしてる!」


 俺の目は颯希ねーちゃんのけしからんボディーに釘付けられていた。

 ごめんなさい。

 だって、凄いんだもの。

 健全な男子は抗えないんだよ。


「べべべ、べつに何も見てないし。つか、自意識過剰だし」


「ふふ、自意識は過剰よ! 自分の魅力くらい把握できてるから。ほら、ほら、ほーら♪ これがいいんでしょ~ぅ?」


 セクシーなポーズをとって一々煽あおってくるのやだ。

 こんなやりとりを繰り返して一話分のしゃくを費やしちゃダメなんだ。

 今日は芹沢さんとデートなんだから、早く芹沢さんと会わなくっちゃ。


「やっぱり、デートなんじゃない」


 心の声を読まないでもらおうか。

 そんなこんなやっていると芹沢さんが奥からやってきた。


「ちょっと、おねーちゃん! なんて格好で外に出てるの?」


「外って玄関じゃない」


「玄関の前は立派な外だから!」


 声を荒げる芹沢さんは顔を真っ赤にして颯希ねーちゃんを部屋の奥へと仕舞っていく。


「デートだから張り切っちゃって。二人とも可愛いニャ~♪」


「ででで、デートなんかじゃないから!」


 激しく動揺する芹沢さんに満足したのか、満面の笑みで引きずられていく颯希ねーちゃん。

 しばらく経って、やっと芹沢さんは家から出てきた。

 頬を上気させた芹沢さん。

 なんか普段と違うような……あー、ちょっとだけ化粧をしてるのか。

 水色のワンピース姿で褐色の肌によく似合っている。

 シンプルなデザインだけに芹沢さんの長い両手足が際立っている。

 カッコ可愛い、というのか。とにかくその姿に見蕩れてしまい、じっと見つめてしまう。


「お、おはよう」


 小さい声を出す芹沢さんが上目遣いであいさつをしてくる。


「おはよう」


 見蕩れてしまって、反射的に出した声は芹沢さんに負けず劣らず弱弱しい響きになってしまった。

 なにか、何か言わないと。

 これは罰であってデートじゃない。だけど、芹沢さんのいつもと違う雰囲気にどうしても期待してしまう。

 というか、完全にデートじゃないか!?


「その服、よく似合ってると思う……」


「はぁ――」


 罰だというなら、彼女をほめてほめて褒めちぎって芹沢さんにいい気分になってもらおう。

 そう思って口に出した言葉で彼女は顔を覆ってぶんぶん首を振る。

 照れてるのかな……かわいい。


「もー、だからそんなんじゃない! これは罰。罰です」


「あ、はい」


「だからデートだとか勘違いしないで欲しいかな」


 びしっと指差す芹沢さんの頬は赤く染まり、口元が緩んでちょっとだけ笑っている。

 怒っているとかそういうのじゃなくって、嬉しさを必死に隠そうとしているようで。


 なんていうのか、始まったばかりのお出かけだけど。いいもの見れた。

 ツンデレ芹沢さんとか可愛すぎかよ。

 たぶん今日一日で何回もその瞬間が訪れるのでは無いか、とすでに俺の胸は期待に膨らんでいたのだった。


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