第19話 芹沢 美水希と買い物
今日は芹沢さんの買い物に付き合うということだったので、俺たちは二駅はなれた大型ショッピングモールまでやってきていた。
迷いなく進む芹沢さんについていく俺。
デートデートと頭の中はうるさかったが、どうやら芹沢さんは買うものが決まっている感じだ。
ゆったりと目的もなくお店を見てまわったりするような、いかにもデートって感じを想像していたから少しがっかりだ。
「罰っていってるもんな~」
ついそんな呟きが漏れてしまう。
「どうしたの? もしかして具合悪い?」
うな垂れる俺を気にしたのか芹沢さんは立ち止まって顔を覗き込んでくる。
すごく近い。心なしかいい匂いがする。
ドキッとして慌ててはなれる。
「や、いや、そんなんじゃないから! 気にしないで」
そう言って近すぎる距離から離れる。
なんかその、残念そうな顔をされると胸が痛む。
芹沢さんが迫ってきたみたいでびっくりしただけで。
絶対に嫌ではない。でも、間近に芹沢さんの整った顔があると心臓がバクバクして恥ずかしいと思ってしまう。
「まあそれだったらいいんだけどね」
芹沢さんはくるりと反転して先を急ぐ。
根っからのアスリート体質ゆえか彼女の歩くスピードはちょっと速い。
大人っぽいワンピース姿も手伝って、どこかモデルのような格好良さがある。
すれ違う人たちもなんとなくその姿を目で追ってしまっている。
「ここ、スポーツ用品店?」
「そうだよ」
芹沢さんが、かつんとヒールの音を鳴らして足を止めた先にはスポーツ用品店があった。
「今日の買い物の一番の目的はここ」
水泳で必要な備品を買いに来たのか、となるほどと納得する。
「それもあるんだけどね……」
そこで頬を染めた芹沢さんは思いもしないことを口にする。
「水着を新しくしようと思って……」
俺とだと恥ずかしいのか、心なし小さくなった声で芹沢さんはもじもじと切り出してきた。
「水着……」
え!? スポーツ用品店で水着? そんな疑問もすぐに解ける。
「競泳用のをね」
「ああ、そういうことか」
「そのね。ちょっと恥ずかしいんだけど、今使ってるやつが、なんていうか、小さくなったような気がして」
どんどん縮こまっていく芹沢さんが可愛い。さっきまでのモデルのような格好良さはどこかにいってしまい、もじもじと困惑する女の子のようになっている。
いや、女の子だけどさ。
「芹沢さんまだまだ大きくなりそうだもんね」
「ちょっと! そんな風に言わないでよ。背が高いの気にしてるんだから……」
どうやら、高身長であることがコンプレックスらしく切なそうな表情になる芹沢さん。
「え? なんで? 背が高いのカッコよくていいじゃん。俺ももう少し背が欲しいって思うもん」
「そりゃあ、男の子ならそうかもだけど。女の子はそうは思わないと思う」
「いや全然。芹沢さんって背が高くって手足がすらっとしてて、すごく綺麗だと思うけどな」
その瞬間、ぼんっ!! と音を立てて真っ赤になる芹沢さん。
「そういうこと簡単に言わないほうがいいかな!?」
「だって本当のことだし。って芹沢さん先に行かないで!」
俺を置いてすたすたとお店の中に消えていく芹沢さん。ぼそりと何かを呟いていたけどよく聞こえなかった。
「だって、一緒に並んで歩いたときに私の方が大きいのとか嫌なの……」
そんなに機嫌を損ねるようなことだったか? と疑問に感じる。
まあ、まだデートは始まったばかりだ。
ゆっくりじっくり楽しもう。
「だから、デートじゃないってば!」
照れる芹沢さんが可愛くって、もっと弄って照れさせるか照れさすまいか……そんなことを考えたり考えなかったりするのだった。
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