第15話 水泳部の取材
「いまの美水希ちゃんの飛び込み見た? ちゃんと撮影した!?」
流線型のうつくしいフォームで飛び込む芹沢さん。
プールの水面にはほとんど
それはまるでファンタジーに出てくる人魚のようであった。
「まるで人魚のようでうつくしいわ~」
うっとりした表情で颯希ねーちゃんは艶っぽい声を漏らす。
つーか、同じこと考えてる。
バレないように変装しなくっちゃ、と颯希ねーちゃんは目はぐるぐる瓶底メガネで隠し、髪は三つ編みに、そしてスカートは極端に長いものを
本人曰く、「引っ込み思案な文学系少女!」を意識したらしいが、にたにたした口元が
「きゃ~! 美水希ちゃん、すてきー! カッコい~ぃ!」
……。
もうそんなに騒いでたら変装している意味ないんじゃないか?
颯希ねーちゃんが納得しているなら別に構わないけど……。
「新聞部っていうことで撮影許可されたんだから。騒いでばれたらどうするの?」
「大丈夫だって。美水希ちゃんは泳ぎ始めると他のことわからなくなっちゃうから」
わからなくなっちゃう、て言い方は酷い気がするが、まあ、たしかに芹沢さんの気迫というか集中力はすごいものだと思う。
ふだん眠そうなのは、気力をすべて水泳で使っているからなのかもしれない。
「いやぁ、普段からあの子、普通に眠いだけでしょ」
「あははは、」
そんな身も蓋もないことを言われたらなにも言い返せない。
「ほら無駄口叩かないでうつくしい美水希ちゃんをいっぱい撮りなさい!」
そもそも、うちの学校に新聞部なんてものは存在しない。その時点でアウトだと思うのだけど、俺が撮影する分には芹沢さんも文句は言わないと颯希ねーちゃんは言う。
他の部員たちも俺たちのことをたいして気にしていない。
なにか怪しい工作行為をとったのは想像できるけど、深く突っ込むのはやめておこう。
こうして(真剣に)芹沢さんが泳いでるところを見るのは初めてだから、俺も少し楽しかったりする。
真剣に水泳に打ち込む芹沢さんの姿は格好いいし憧れてしまう。
自由自在、思うがまま水の中を泳げるのってどういう気分なんだろうか。
ファインダー越しに見える芹沢さんは本当に人魚のようだと
「美水希ちゃんが競泳界隈でなんて呼ばれてるか知ってる?」
撮影に集中してると、颯希ねーちゃんはおもむろに話しかけてきた。
「そんなのあるんだ。流石は芹沢さんだ」
「そーなのよね。あだ名みたいなものだけど、そういう二つ名みたいなので呼ばれるのってかっこいいよね」
俺はシャッターを切りながら相槌をうつ。
もう何本目かもわからない50メートルを泳いでいく芹沢さんを激写。
「どんなあだ名なの?」
颯希ねーちゃんは自分のことでもないのに誇らしげにその名を言う。
「〝褐色の人魚〟よ」
「っえ?」
「だから〝褐色の人魚〟だってば」
ふふん。と胸を張る颯希ねーちゃんとプールから上がってくる芹沢さんを交互に見てしまう。
んー、なんていうのかな……この感覚。
「どう? 写真はうまく撮れてるかな?」
なんともいえない気分のところに芹沢さんが水を滴らせてこっちにやってきた。
濡れた髪とか競泳水着からすっと伸びる手足が瑞々しくって艶やかな色気が際立っている。
「褐色の人魚……」
見惚れてたからかもしれない、俺の口からは先ほど聞いたその名がこぼれ出ていた。
瞬間、ぞっとするような目つきで睨まれる。
ヤバいと思った時にはすでに手遅れであった。
「ちょっとそれ、誰から聞いたの!? ありえないありえない。今度その呼び方したらきみでも許さないんだから」
思いっきり指を突きつけられて
いやね。わかってたことだけど。
つまりあれだ。
「不名誉なあだ名……」
んんん~、と口を
「きっとおねえちゃんの仕業ね」
意外と鋭いな。
その颯希ねーちゃんはというと、すでにこの場から離脱して姿はない。
変装しているから大丈夫だったんじゃないのか?
不名誉なあだ名だって理解したうえで俺に教えたわけか……。
「まあ、いいや。きみが撮った写真今度見せてね」
怒りは程なくして治まった。
家に帰ったら颯希ねーちゃん大変だろうな。
と、不意打ちで不名誉なあだ名を呼ばれたものだから写真を見るのも忘れて、芹沢さんは練習に戻っていった。
「ふう、なんとか気をそらすことができたか……」
そう、俺は内心ひやひやしていた。
もちろん芹沢さんの練習風景を撮影していたわけだけど、ちょっとした下心が働いて若干……エッチな写真も撮れてしまったからだ。
〝お尻のあたりの水着の位置を直す仕草〟とか撮れちゃってたりしてばれたらどうなっていたことやら。
しかし、
芹沢さん的にはなしなんだろうけど、俺的には可愛いと感じるのであった。
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