第14話 芹沢美水希ファン倶楽部

「ようこそいらっしゃいました。我が秘密結社『芹沢美水希せりざわみずきファン倶楽部くらぶ』へ――」


 大上段からの上から目線。芹沢颯希せりざわさつきはどこか満足そうに手を組み合わせる。

 颯希ねーちゃんを頭に、両側には覆面を被った生徒がずらりと並んでいる。

 まるで尋問じんもんでもうけるかのような威圧感いあつかんに冷や汗が止まらない。

 うわさには聞いていたが、芹沢さんにいらぬちょっかいをかけすぎるとファン倶楽部に消されるといっていたけど……まさかねー。


 薄暗い室内であやしげな笑みを浮かべる颯希ねーちゃんは不穏な雰囲気をかもし出している。

 制裁せいさい

 いやいやほんとこれから俺どうなるの?


「あ、あのー……どうして俺は呼び出されたのでしょうか?」


 のどかわききって、ぼそぼそとつぶやくようにしか言葉が出なかった。


「そんなに緊張しなくってもいいわよ」


 颯希ねーちゃんは「まあ楽にしてちょうだい」って言うけど、覆面集団に囲まれてる状況でそれは難しいと思う。


「いろいろとね、個人情報とかあるじゃない? 匿名で会員にしてるほうがいろいろと都合がいいのよ」


「はあ……」


 よくはわからないけど……いや本当によくわからないよ!!


物騒ぶっそうなことなんて何にもない。むしろ私たちはゆうくんに感謝しているぐらいなんだから!」


 その瞬間、颯希ねーちゃんと覆面集団は合掌をした。

 異様な光景だ。

 意味が分からないし、宗教臭くって恐い。

 その合掌ポーズはいったいなんなんだ?


「〝尊い〟のです」


「尊いって……」


 どうやら俺は尊いらしい。


「違います。姿が〝尊い〟のです」


 だから、お昼の時芹沢さんに向かって手を合わせていたのか。

 まあ、わからなくもないけど……わからないな。

 さっきからわからない事だらけだけど一つだけはっきりしているのは、ファン倶楽部ってのはろくでもない集団っぽいってことだ。


「まさかまさか。私は――私たちは美水希ちゃんの可愛さを追い求めて、ただひたすらにその存在をあがめるだけの清い組織なのよ」


 あー組織とか言っちゃってる……。


「そして、そんな美水希ちゃんの可愛さを最大限引き出すゆうくんはとっても素晴らしいの」


 だから合掌。

 こわいこわい。


「ま、まあ、わかりましたけど……」


 それから俺が芹沢さんと一緒にいてもファン倶楽部会員が制裁(?)をくわえなかったのは〝名誉会員にして永久欠番〟だったからという衝撃の事実を言い渡された。


 ……。なんじゃそりゃ。俺のあずかり知らないところでそんなことになってたなんて、得体の知れなさに恐怖はますますふくれ上がる。


 それもこれも総てはファン倶楽部〝総帥そうすい〟である颯希ねーちゃんによるはからいだそうだ。


「感謝なさい!!」


 そんなこと言われても嬉しくないし、やかましい! としか思えない。


「あ、まーあ、そのことをゆうくんに伝えておこうと思ったてのもあるんだけどー」


 ちょっと悪い笑みをつくって颯希ねーちゃんは、それはそれは面倒なことを申し上げる。


「そろそろー会誌を作ろうと思って。その、えある第一号は『芹沢美水希・水泳大特集!!』にしようと思うのよ♪」


 思わず、俺は頭をかかえた。

 あー、これ絶対に面倒なやつだ。

 拒否権ないんだろうなー。


「もちろん協力してくれるよね? 名誉会員のゆうくんなら――」


 拒否権は無いようだ。ファン倶楽部の妨害を受けないことを盾に、一方的な交渉が行われた。


「期待してるわよ。ゆうくん」


 まるで、悪の女首領のようなえげつない笑みをたたえて颯希ねーちゃんは目を光らせた。

 これからの平穏無事な芹沢さんとの日々を守る為、俺はこれから水泳部への潜入ミッションを行うことになった。

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