第4話 芹沢 美水希とお昼ごはん

 俺と芹沢さんはお互いの席ををくっつけて一緒にお昼ごはんを食べることにした。

 といってもすでに、芹沢さんは口に惣菜パンをくわえていたけれど。


 両腕で抱えていた沢山の食べ物を机の上に広げる芹沢さんはなんだか楽しそうだ。


「きみはこれと、これと、あとこれね」


 彼女はてきぱきとパンやおにぎり、お惣菜といったものの中から俺の分をより分ける。


 カツサンド、焼きそばパン、メロンパン、サラダ、あとお茶。

 それは、なんとなく頭に思い浮かべていた今日の献立だったから少し驚いた。


「ちょうど今日食べようと思ってたものばかり!」


「ふふん。きみの好きなものを選んで買ったからね。それにきみの考えてることはなんとなくわかるんだ」


 そう言って芹沢さんはどこか誇らしげに胸を張る。

 その仕草も可愛いけど、俺の好みを知っているという事に、心がじーんと熱くなるのを感じて焦ってしまう。


「というか、流石にこんなにもらうわけにもいかないからお金出すよ」


 それじゃあ、と彼女は考えるように額に指を当てて金額を言った。


「はい。じゃあこれで――」


 言われた金額を渡してから、少し考える。

 思ってたより安いような気がする。

 そのことを訊いてみると、


「カツサンドはお礼だよ。気にしないで食べてくれたら嬉しいかな」


 お礼というのはさっきの授業中のことかな?

 それとも、先生に(たぶん代わりに……)怒られてたことかな?


「まあ、どっちもだよ。どっちも」


 あはは、と笑いながら受け答える芹沢さんだった。


  φ


「――あれはどう考えても当て付けだよ」


 それから、俺たちはさっきの授業のことを話題にしながら食事をしていた。


 もぐもぐ、ぱくぱく。

 もぐもぐ、ぱくぱく。

 もっきゅもっきゅ、……ごくん。


 芹沢さんの食べっぷりはなんだかそんな擬音がよく似合うものだった。

 俺が一方的に話しているみたいだけど、彼女は咀嚼そしゃくの合い間に頷き返してくれる。

 たくさんあった食べ物をまたたく間に平らげていく姿は一生懸命ひまわりの種を食べるハムスターみたいで可愛い。

 そんな小動物的な可愛さ見たさにごはんをあげる彼女のファンの気持ちがちょっとだけ分かった気がする。


 もっきゅもっきゅ、ぱくぱく。

 うんうん。

 ぱくぱく、ごっくん。


 頬を膨らませて食事に熱中している姿がたまらなく愛らしい。

〝キュン〟と心を鷲掴みされたような尊さを感じてもだえてしまいそうだ。


 そして、あっという間にごはんの山は無くなり、チョココロネだけが残った。

 たぶん最後に残しておいたのだと思う。


「好きなものは最後に食べたいんだ」


 その気持ち分かる。深く頷く俺を見て芹沢さんは可笑しそうに笑う。

 彼女は包みから取り出したチョココロネを下の方から食べ始めた。


「下から食べるんだ。ちょっと珍しいかも」


 チョコの詰まっていない尖った方から食べる芹沢さんにそう言うと不思議そうに小首をかしげる。


「下? 上じゃないの?」


「え? そっちが下でしょ」


「違うよ。こっちが上。うん、絶対に上」


 そんなやり取りをしてお互い可笑しくなって笑ってしまう。


 芹沢さんは上(彼女の言う)からチョココロネをかじりつつ、下からこぼれそうなチョコを、ちろちろと舌先でめる。


 褐色の肌と、ぷっくりした唇、そこから覗く舌。


 なんかそのあれが……なんともいえない色っぽさを感じて恥ずかしくなってきた。

 あまりに視線が釘付けになっていたものだから、芹沢さんも顔を赤くして恥らって口元を手でおおって、


「そのね。女の子がごはん食べているところを、じっと見るのはマナー違反かな」


「わああ、ごめん」


 俺の視線を気にした芹沢さんの抗議こうぎめいた言葉に慌てて謝る。


 だけど、そんな不満に膨れた顔をした彼女もやっぱり可愛くって仕方がなかったのだった。

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