第6話

「あのね、パリの有名店で総料理長を務めた松永雄一郎のお店がグランフロントに今度出来るんだけど、そこのお店で働かないかって誘われてるの。

どうしようかな。絶対、ミシュラン星獲得するようなすごい店になるよ。」


「なんで、悩むの?自分に自信がないから?お前って、失敗したらどうしようとか、先にネガティブなこと考えるよね、そうやって勝負しないのってマジでもったいない。

おれは新しい事始めるのポジテイブにとらえるタイプやから、どんな事がこれからあるかなとかどんな人と出会えるかなとか期待しかしない。

そんなチャンス誰でもあるわけじゃないし、どちらかと言えばそういうの目指してみんな頑張ってるんじゃないの?そんなチャンス断る理由ある?」


ソムリエなんて、日本に2万人以上もいるんだよ、ワインエキスパートやかつてのワインアドバイザー入れたらその倍は裕にいる。


そんなあたしが今のポジションだって恵まれてるのに、その店のネームバリューで今回の誘い。

今までなんやかんやとんとん拍子で来すぎで怖いよ、自分の実力に見合ってないことは私自身よく知ってる。


- - - - 


「プレオープンに著名人招待するんだけど準備とか追い込みで、もう時間なくて今日から1週間くらい遅くなるね。買い物してお肉とか冷凍室に小分けにしておくから自分で好きにして食べてね。」


「うん、全然平気、適当に酒でも飲みながら自分でつまみ作って食べとく。」


「そうそう、俳優の一柳圭吾が来るんだよ、招待客に不倫相手でてうわさになってる女優の安西ヒロナも来るんだけど、奥さん同伴だから顔指さないように周りが気使っちゃって席遠くしたり大変。」


「お前さ、そういう口軽いとこ飲食やってて絶対アカンやん、馬鹿か。」


-- - -- 


「今日ね、間違えてワイン抜栓したの、すごく高いやつ。オーダーされたビンテージがなくて、みんな手一杯で聞ける人いなくて。最悪。」


「同じ間違いを、次しないようにしたらいいんじゃない。」


「ねえ、私たちってこれからどうなるの?先の事真剣に考えてくれてる?」


「お前さ、ちょっと嫌なことあったからってすぐにそんなこと言い出すかな。

そういうことって自然にでてくるものだし唐突すぎるわ。」


「そんなことない、私はいつも考えてる。もう知り合って6年経つしどこのカップルでもそういう話、すると思う。」


「言わないよ、できる女はそんな事。黙って待つよ、大体そういう話をするって事自体図々しいとおもわないか。

考えてみろよ、この先どうなるのなんて質問自体。

先のことを語るって事は、その相手との間に未来が見えたってことだろう。

逆にこの人で大丈夫かなって不安要素がある人に対して、この先どうなるのなんて聞かないよね、自分はこの人と未来が見えたから聞いてるかもしれないけど相手にしてみたら、どう?


自分はこの人に対して未来を見せてあげて、大丈夫って思わせることが出来てるって自信があるのかって話。

そうじゃないとその質問自体が図々しいよね。

お前ほんと文句多いわー、喧嘩も多いしー。

なんか男って、その女に対してコイツって何も言わんなとか、要求せんなとか、気づいたらこいつと喧嘩したことないな、ほかの女がギャーギャーあほみたいに文句言ったりしたりするのに、こいつ我慢ちゃんとできるんやな、って気づいたときに、あかんな、ちゃんとこいつの事考えてあげないとって気づくんじゃない?

仕事決まったら返すから、今月携帯代払って。解約させられそうやから。」


だいぶきつい事はっきりいうね。そういう女になれと言う事?


「ね、前に偶然ミナミで会ったときまた連絡するって言ってそのまま音沙汰なかったことあったよね、なんで今になってまた連絡してきたの?」


「あの時は、今じゃないなって思ったから。」


― ― ― -


「淳って不思議、何を言っても口答えもできないし、賢いから納得させられてしまう。」


「彼ってどこに住んでるの?なんか寅さんみたい、ふっと現れたと思ったらいなくなったり、同じところにじっとしてられないのかな、もしかして結婚してたりして。

免許証とかみせてもらったら?」ゆりが言う。


「そんなこと言えないよ、信じてないって思われそうで、実家だからどうせ行くことないし。」


家を知ってたからって、いなくなる時はいなくなる、元彼のように。


― - ― ― -


「淳ってどこに住んでるの?」


「平野区。」


「平野って昔よく行った、出戸とか。」


「親が大会社の転勤族で日本中いろいろ行ったけど、関東は全部住んだかな。

生まれたのは群馬で、大学は名古屋。

俺って友達多いから、今でも色んな所に会いに行ける友達いるし、男でも女でも。


大阪って独特やん、地域性というか。

例えば不良同志の喧嘩でもすぐに大阪はどこの中学や?って聞いてくる。

それってその地域を仕切ってる、地元の学校出たらその地域の暴走族、その上ヤクザみたいな。


喧嘩したり何かやらかしたら、相手の年上が出てくるわけよ、だから最初にどこの者やと聞く、争って勝っても負けても年上が出てくる。

力関係わかるからその中学と喧嘩してもあとで年上が出てきたら勝ち目ないなら最初から喧嘩しないし、自分たちの年上もやりたがらない、あそことウチじゃ勝ち目ないからと。


それでも、女やってしもたあと、女の男から何しとんじゃと言われて、どうしようもなくなった時、自分ところの年上じゃ手におえんなと思ったときに結局年下が金集めてまわるんやけど、そういう時人脈が物を言うわけよ。


俺みたいにあちこちに知り合いがいると、『実は僕の知り合いでどこそこと揉めてて、〇〇君、どこそこの△△君って知ってますよね』って。


普段そういうやつらって、自分らで筋通すからあまり動かないもんなんやけど。俺たちって不良じゃなくって、自転車乗ったり、ヒップホップしたりして知り合った、教えてあげたりする関係性やからそういうときに、しゃあないなと動いてくれるわけよ。


そういう切り札持って揉めた相手と話し合いに行くとき、バックにどこどこの〇〇君いるってなったら、向こうも金額吹っかけてくることないし、話し合いもスムーズにできる。


ただ50請求されてるものに対して、0にするとかじゃなくて、そこは折り合いで、30か攻めて半額くらいに抑えとかないと、向こうの年上の顔つぶさない程度にしないと、とんでもない切り札持ってきて、負かしてやったみたいになったら俺が逆恨みされるから、こちらが悪かった事は全面的に平謝りにそれでも、すいませんがこのくらいでどうでしょうかとちょうどいい加減で交渉するわけよ。


しゃーないな、と相手のメンツも保てるくらいで。

そうなると、俺に対して、え、あのちんちくりんの弱っちいやつすごいなってなって俺をみんな頼ってくるわけよ。

今は普通にしてるし、そういう人たちともつながってないけど。


でもたまにおるやん、イキがって昔は悪やっててとか、カッコ悪いやつ。

元暴走族やったとか、シンナーやってたとか酒の席で自慢するやつ、それはそれでいいと俺は思うし。


だから友達とかがそんなデカい口きくやつに『え、どこの族ですか?じゃ、〇〇君と知り合いですか?バイク何乗ってたんすか?何吸ってたんすか?じゃ、○○さん知ってますか?』とか相手をつぶしにかかって。

俺はそういうのは好きじゃない、その人はそういう風にしかできんのやからそういうやつ、つるし上げてみんなの前で恥かかせるみたいなのはちょっと違うかなって思う。

だからツレにも『お前のやってることはカッコ悪いわ、あの人はああいうことを言って人とコミュニケーションとるやり方でいままで生きてきたんやから、それをみんな気づいてるのに敢えてあの場で言う必要あるか、お前も不良やってたって言いふらしてるのと一緒やし、お前もカッコ悪いわ』って。


確かにイキがってるの見たらイラってくるけど、大人になれと。


そういうやつにもいいところはあるし、女知らんオタクのやつとかにナンパ行くとき一緒にいこうって誘ったこともある。


オタクのやつらって仲良くなったらいろんなこと教えてくれるし、逆に女知らんかったら友だちとナンパ行く時一緒に行こって誘ったり。

やってみて女の子としゃべれて楽しかったらそれでいいし、こんなのは自分には合わんなと思えばやめたらいいしと。

でもそういう場でもイキがるやつがおるわけよ、別のやつらが声かけてた女に間違えて声かけてしもたら、先に声かけてた男がそら怒るわな。

そんときでも「すまん、すまん、にぃちゃんゴメンなぁー」という調子やと相手は女の前やし、現役のツッパリやからナニクソとなるわけよ。


そこはこっちが知らずに同じ女に声かけてしまったんやから、「すいませんでした」と何度も頭下げなあかんわけよ。

それでも向こうが収まらんというなら話は別やけど。

だって俺ら、ナンパしに来てるわけであって、オタクのやつ連れて楽しみに来てるという目的が変わってくる。

喧嘩もありナンパもありなら、お前たちはお前たちのやり方でやってくれ。

俺らは違うからと俺は言う。


関東出身という割に淳バリバリ関西人やん。

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