貿易都市アルヴィス 後編 4
アルヴィスと取引を結んでから三日。フィーアリーゼは、お屋敷の一角に与えられた研究室での軟禁生活を続けていた。
部屋から出ることは許されているが、敷地から出ることは許されていない。
もっとも、アリアの封印を解くために必要な設備や、平民の暮らしを豊かにする魔導具製作の計画に必要な素材などはアルヴィスの部下を通じてセドリックが取り寄せてくれる。
軟禁はされているが、学生時代とさほど変わりない。
比較的自由な日々を送っていた。
だが、人質であるセシリアとの面会は禁じられており、その一環でセドリックとも直接会うことが出来ないでいる。
セシリアとの関係改善を望んでいたフィーアリーゼとしては、アリアを失ったときと同じ失敗をしているような不安を抱えていた。
そんなある日、研究室と化した部屋で研究に明け暮れていたフィーアリーゼの元にアルヴィスが尋ねてきた。
前回のように物々しい護衛は同行しておらず、同行者は側仕えの一人のみだ。
「様子を見に来たぞ。実に三日ぶりだな」
「そうですね。というか……二人ですか?」
「見ての通りだ」
セシリアという人質を取っているとはいえ、無防備ではないかという質問だったのだが、アルヴィスはその意図に気付いているのかいないのか、まるで気にしていないようだ。
「えっと……私になにかご用ですか?」
「いくつか理由はあるが、まずはさっき言ったとおりに様子を見に来たのだ。アリアの封印は解けそうか?」
「……正直、難航しています。ここまで強固な封印だとは思っていませんでした」
重罪人の封印が簡単に解除できないのは当然である。
だが、アリアの封印はそれを踏まえても頑丈にすぎる。まるで、誰かが解除しようとするのを前提に、絶対に解除させないようにしたかのようだ。
そんな感想を零すと、アルヴィスがあり得る話だと同調した。
「なにかご存じなんですか?」
「ベルディア侯爵家による、グラストリア王家に対する揺さぶりの可能性がある。むろん、いまと300年前では状況が違うため、必ずしもそうとは言えないが……」
いまの状況であれば、ベルディア侯爵家がそういう嫌がらせをする可能性はあるらしい。ただの嫌がらせで、少女の人生をぶち壊しにするという発想が恐ろしい。
「フィーアリーゼ。悪いが、そなたの知っている限り、ベルディア侯爵家について教えてくれないか? 別荘や隠れ家、もしくは派閥の者など、だ」
「えっと……そうですね」
フィーアリーゼとて、貴族のあれこれに詳しいわけではない。
だが、パメラが周囲に侍らせていた取り巻きなど、ベルディア侯爵の息が掛かっていそうな者の名前は何人か分かる。
それらの名前を思いつく限りあげていった。
「……ふむ。思った以上の収穫だ。後で探らせておこう」
側仕えにメモを取らせ、アルヴィスがこちらへと視線を戻した。
そうして、なにか不自由がないかと問い掛けてきた。
「食事は用意されますし、必要な素材も頼んだら届けてもらえますから、研究室に籠もってたときよりずっと快適ですね。ただ、セシリアには会わせて欲しいです」
「悪いがそれは出来ない」
「まぁ……そう、ですよね」
フィーアリーゼをここに止める抑止力。それが分かっているから、フィーアリーゼも会わせてもらえるなんて思っていなかった。
いまのはちょっとした愚痴のようなものだった。
「その代わりと言ってはなんだが、彼女からは伝言を預かっている。肌着もちゃんと用意されていて快適だそうだ」
自分自身の言葉であると証明するために、セシリアはそんな言い回しをしたのだろう。
フィーアリーゼはクスリと微笑んだ。
「いまはそれで我慢してくれ。……俺としては、会わせてやっても問題ないと思っているのだがな」
「……え、そうなんですか?」
「ああ。俺は無実のそなたをアリアが庇ったという話が真実だと思っている。だが、歴史的に見て、そなたは大罪人だ。直感だけでそなたを自由にしては、ほかの者に示しがつかない」
「彼女が誰か知った上で自由にしてなにかあれば、アルヴィス様が責任をとらねばなりません。歴史的犯罪人を拘束するのは当然の処置ではありませんか」
側仕えが苦言を口にした。
それを聞いたアルヴィスが、こういう訳なのだと苦笑いを浮かべる。
それを聞いた瞬間、セシリアという人質がフィーアリーゼの動きを制限するためのものではなく、むしろ部下達の動きを制限するためのものであることに気がついた。
「それで、廊下に少し遅れで護衛が集まってきたんですね」
「ほう? 廊下に俺の護衛がいるのか?」
アルヴィスの背後からガタッという音が響いた。フィーアリーゼにも聞こえたのだから、当然ながらアルヴィスにも聞こえているだろう。
側仕えに命じて、すぐに扉を開けさせた。
そこには、ばつの悪そうな顔をした騎士達が並んでいる。
「おまえ達、俺は護衛は必要ないと言ったはずだぞ?」
「しかしアルヴィス様、災厄の魔女を自由にさせている以上、警戒は必要です!」
「黙れ。俺は人質を取ることで、彼女に屋敷での自由を保障したのだ。その約束を、俺に破らせるつもりか?」
「それ、は……」
騎士達が苦渋に満ちた顔をする。
アルヴィスを困らせたくはないが、護衛をしないわけにもいかないと言いたげだ。だからフィーアリーゼは、護衛が外に控えているくらいは構わないと口添えをした。
「良いのか?」
「別にやましいことはありませんから。納得するまで警戒してもらった方が良いでしょ?」
「ふっ、そうか。ならば今回はその言葉に甘えよう。――だがおまえ達、今後は俺の指示に反するような勝手は許さん!」
騎士達は「はっ!」と一斉に応じた。
それを見届け、アルヴィスは扉を閉める。
「すまなかったな」
なにが――とは言わなかったが、それが現在の状況すべてを含んでいることはなんとなく伝わってきた。だからフィーアリーゼは気にしていないと小さく笑う。
「では話を続けよう。実は、そなたにあるデバイスを見てもらいたい。どの魔術師に見せても、欠陥品で魔法陣を刻むことは不可能だと言われたのだが……」
アルヴィスの側仕えが、布でくるまれたデバイスを差し出してくる。フィーアリーゼにとっては親しみのあるデザインのデバイスだ。
「これは……どこで?」
「それは、先祖がアリアのクリスタルを回収したときに、一緒に回収したデバイスだ」
アリアと一緒に回収したといわれて胸の鼓動がどくんと高鳴る。恐る恐る魔力を通して構造を確認したフィーアリーゼは、それがアリアの作ったデバイスだと確信した。
「これはアリアが発明した新型デバイスです。たぶん、どこかにアリアの紋章が……」
どこかに紋章が入っていないか確認したフィーアリーゼは息を呑む。デバイスの片隅に、二種類の紋章が刻まれていたからだ。
「……アリアと、私の紋章?」
魔導具の製作は主に、デバイスの製作と魔法陣を刻む二つの作業に分かれている。
魔法陣を刻むには魔術師としての能力が問われ、デバイスの製作には魔術師の能力よりも、技術屋としての能力が問われる。
ゆえに、魔導具に制作者の紋章が二つ刻まれていることは珍しくない。
だが……フィーアリーゼが手に取ったデバイスは、試作品第一号と同じ概念で作られている。おそらくは、フィーアリーゼが封印された後に作られた物だ。
にもかかわらず、そのデバイスにはフィーアリーゼの紋章までもが刻まれている。フィーアリーゼの勝手な解釈かもしれないが、紋章を刻む理由は一つしか思いつかなかった。
「私に、完成させろって……言ってるの?」
部屋の片隅、応接間から移動させたクリスタルの中に封印されているアリアを見上げるが、もちろん答えは返ってこない。
「フィーアリーゼ、そのデバイスはやはり?」
「ええ、欠陥品なんかじゃありません。アリアの作った新型デバイスで、二つの魔法陣を同時に起動することが出来るんです」
「二つの魔法陣を同時に、だと?」
そんなことは不可能だと、アルヴィスの目が語っている。フィーアリーゼだけが使えたマルチタスクの概念は、現代では消失しているらしい。
ただ、一つの魔法陣に様々な効果を詰め込んで、複雑な効果を生み出す方法は遙か昔から存在している。マルチタスクはそれの延長線上にある技術で、魔力の消費量が少なくて済むと、フィーアリーゼは説明した。
言うまでもないことではあるが、使用難易度は別次元である。
「セシリアと引き換えに手放した魔導具も、通常では考えられないようなスペックだと聞いているが、もしやこれと同じ物か?」
「ええ、これと同じデバイスを使っています」
「では……そなたはこれを量産できるのか?」
それが本題だと言いたげに、アルヴィスは目を光らせる。
だが、それは勘違いだと言わざるをえない。
「アリアのデバイスがあれば、私は同じ物を作れます。でも、私にアリアのデバイスは作れません。デバイスの製作において、彼女は天才でしたから」
フィーアリーゼは魔術を行使するために必要な魔法陣の扱いに関しては天才だが、魔導具を作るためのデバイスの製作に関しては人並みでしかない。
逆に、アリアはデバイスの扱いに掛けては天才だったが、魔術の扱い自体は人並みでしかなかった。アリアだからこそ作れるデバイスなのだ。
「量産できないのは残念だが、このデバイスを使えば魔導具を作れると言うことだな?」
「ええ。どんな魔導具が欲しいんですか?」
「む? そうだな。とっさの時に身を護れるような魔導具が欲しい。いくら護衛を付けていても、不意打ちには対応できない可能性があるからな」
「あぁ、なるほど。じゃあ、そういう魔導具を作りますね」
フィーアリーゼが応じると、アルヴィスはなんともいえない顔をした。
「……なんですか?」
「いや、俺が言うことではないかもしれないが、そなたはもう少し自分の価値を考え、対価を要求した方が良いのではないか?」
「あら、こう見えてもちゃんと考えていますよ?」
「どこがだ」
まったく考えてない奴がなにを言っていると残念な目で見られ、フィーアリーゼは不満気に唇を尖らせた。
「当面の私の目標は、アリアの封印を解くことと、アリアの意志を継いで平民の暮らしを豊かにする魔導具を開発すること。後はついでに、ベルディア侯爵家に仕返しをすることです」
最初の二つは、アルヴィスやセドリックの後ろ盾を得て、フィーアリーゼ自身が取り組んでいるし、ベルディア侯爵家に関してはアルヴィスが調べている。
当面の目標については問題がない。
「不満があるとしたらセシリアに会えないことですけど、人質である以上、簡単に会わせられないという事情は分かっています。だから、譲れるところは譲って、敵対する意思はないと行動で示しているんです。ね、ちゃんと考えているでしょ?」
微笑むフィーアリーゼに対して、アルヴィスは目を見張った。
「……驚いたな。俺はてっきり、おまえはただの考えなしだと思っていた」
「酷いですよ!?」
「ちなみに、部下はおまえが企みを隠すために従うフリをしてるのだと考えていた」
「……なんか、あれこれ要求した方が良い気がしてきました」
大人しく従って疑われるなら、わがままを通して疑われる方がマシだと考え始める。それを聞いていた側仕えがなんともいえない顔をしたが、アルヴィスはニヤリと笑った。
「なにかあるのなら聞いてやろう。セシリアとの面会以外なら、だが」
「……考えておきます」
それから更に数日。
フィーアリーゼはアリアの封印を解く研究や、魔導具の開発をせっせとおこなっていた。
まずはアリアの封印を解除するための研究。
これに関しては非常に難航していると言わざるをえない。
封印を解除するための鍵が見つかればそれこそ一瞬で解除できるのだが、少なくともクリスタルと一緒に回収された遺物の中に鍵となる物はなかった。
鍵なしで封印を解くには、相応の時間が必要になるだろう。
ただ、魔導具の開発は順調だ。
アリアの試作品をどうするかは考え中だが、既に製作技術が失われてしまった魔導具――たとえば、地下を掘るための魔導具などなども、いくつか生産している。
他にも、先日作り出した風を送り出す魔導具の改良、セシリアの提案した冷風や温風を送り出す魔導具の開発には着手している。
既に試作品をアルヴィスに見せており、セドリックとの面会も許可されている。いきなり平民の暮らしを豊に出来る訳ではないが、足がかりとしては上々だろう。
そんなある日の昼下がり。
アリアの試作品のデバイスに込める護りをどんな風にするか考えていると、扉がノックされる。だが、フィーアリーゼが扉を開けると、そこには誰もいなかった。
「気のせいかな?」
周囲をサーチしたフィーアリーゼは、とある魔術を使ってパタリと扉を閉めた。
そしてタイミングを見計らい――
「なんちゃってっ!」
サーチに引っかかった相手――金髪の子供が扉の前に立った瞬間、
部屋に戻ったフリをして、魔術で自分の姿を見えなくして廊下に立っていたのだ。
「うわあああっ!?」
子供はビクンと飛び上がって、恐る恐るといった感じで振り返った。そうして目の前にいるフィーアリーゼを見上げて、信じられないと青い目を見開く。
「な、なんで後ろにいるの?」
「ふふん。それは私が魔女だから、だよ」
「え、お姉ちゃん、本当に魔女なの!?」
十歳より少し上くらいだろうか? 中性的な顔立ちで、ずいぶんと顔立ちが整っている。おそらくは男の子だが、女の子といっても通用するだろう。
そんな男の子が、青い目をキラキラと輝かせている。
「私は魔女のフィーアリーゼだよ。キミは?」
「ボクはノエルだよ! よろしくね、魔女のお姉ちゃん!」
ノエルと名乗った男の子は、同年代の女の子を――いや、もしかしたら同性にも通用しそうな天使の笑みを浮かべてみせた。
将来が非常に楽しみな容姿だが、フィーアリーゼがその男の子を見るのは初めてだ。
「それで、ノエルくんは私になにかご用?」
「うん。ボク、魔術に興味があるの! それで、魔女のお姉ちゃんは魔術が得意だってお父さんに聞いてきたんだよ!」
「……魔術に興味があるの?」
フィーアリーゼは頬に指を当ててコテリと首を傾げる。
彼女が魔術師の才能ありと見いだされたのは、ノエルよりも幼い頃だった。そういう意味では、ノエルが魔術に興味を持つことはなんら不思議じゃない。
「ノエルくん、少し動かないでね」
「ま、魔女のお姉ちゃん?」
フィーアリーゼの柔らかい手に両手を掴まれて、ノエルがびっくり眼で固まった。というか身長差のせいで、ノエルの目の前にフィーアリーゼの胸がある。
フィーアリーゼの双丘はなだらかでそこまで魅惑的な光景ではないのだが、まだ十二歳でしかないノエルには衝撃だったのだろう。目をそらして、頬を赤く染めた。
「ま、魔女のお姉ちゃん、なにやってるの?」
「ん、もう大丈夫だよ」
ノエルの身体をサーチした結果、一定以上の素質があることが見て取れた。少なくともフィーアリーゼが教えてみたいと興味を示す程度の才能はある。
「ノエルくん、魔術に興味があるなら、私の研究を見てみる?」
「良いのっ!?」
「もちろん。さ、入って入って」
扉を開けて部屋へと招き入れる。
ノエルは制作中のデバイスなんかを見て、うわぁ~と駆け寄った。
「凄い凄い、青薔薇のデバイスがあるよ!」
「……青薔薇のデバイス? なにそれ?」
「魔女のお姉ちゃん知らないの? 最高のデバイス技師なんだよ!」
どうやら、グラストリア王国でもっとも有名な技師の紋章が青薔薇らしい。
ちなみに、デバイス製作が人並みなフィーアリーゼと良い勝負なのだが、他のデバイスはこれから更に一ランク、二ランクは落ちるそうだ。
ゆくゆくはこのクラスのデバイスを量産してもらって、平民に届けようと考えていたフィーアリーゼは少しだけ遠い目になった。
「ところで、魔女のお姉ちゃんがこのデバイスに魔法陣を刻むの?」
「そうだよ、これから刻むところなの」
「わぁ、見せて見せて!」
つぶらな青い瞳で、期待するように見上げてくる。農村で暮らしていた頃を思い出したフィーアリーゼは少しだけ目を細めて、仕方ないなぁと笑った。
ノエルのために横に椅子を用意して、自分は机の正面に座る。
「それじゃ、このデバイスに魔法陣を刻みつけるんだけど、ノエルくんはどうやるか聞いたことあるかな?」
ノエルはフルフルと首を横に振った。少しだけばつが悪そうな顔をしているのは、興味があると言ったのに、基本的なことも知らないことが恥ずかしかったからだろう。
だが、初めは誰だって知らないのが当たり前で、フィーアリーゼだって最初はなにも知らなかった。知らなくても大丈夫だよと、フィーアリーゼは説明を始める。
「魔術を行使するときはこうやって――魔法陣を魔力で描き上げるのね」
フィーアリーゼはそう言って、指先を中心に魔法陣を描き出した。淡い光を帯びた平たい魔法陣がフィーアリーゼの指先に浮かぶ。
「これに魔力を流し込むと魔術が発動するんだけど……魔導具にする場合はこの魔法陣をデバイスに焼き付けなくちゃいけないの。だけど、デバイスって小さいでしょ? だから、焼き付けることが出来る魔術領域も凄く小さくて、焼き付けるのが大変なんだよね」
ちなみに、現代において魔導具の製作に時間が掛かるのはこれが理由である。縮小した魔法陣が歪まぬように、部分部分でちまちまと焼き付けていくのだ。
で、あちこちが歪んだりして魔力の消費効率が悪くなる。
フィーアリーゼは小さくて緻密な魔法陣を描き出し、そのまま焼き付けている。だから、現代ではありえない速度で完成させることが可能となっているのだ。
「魔女のお姉ちゃん、質問です!」
「なにかな?」
「じゃあ、魔導具が普通に魔術を使うより出来ることが少なくなるのは、あまり複雑な魔法陣は焼き付けるのが難しいからなの?」
「うんうん、その通りだよ」
一般的に制御する内容が多くなるほど、魔法陣は複雑になっていく。フィーアリーゼが使う魔術の中には、自分を中心に展開した魔法陣にびっしり模様が――なんてこともある。
それを手のひらサイズまで縮小することは、さすがのフィーアリーゼでも不可能だ。
ちなみに、アリアの作った新型デバイスは、魔法陣を二つ同時に使うことが出来る。
作業を二つに分けることで、それぞれの魔法陣で役割を分ける。それによって、複雑な魔術を行使することも可能になるのだ。
ちなみに、マルチタスクは二つの魔法陣を別々に起動しているので、アリアのやっていることに似ているようで違う。
それはともかく、フィーアリーゼは指の先の魔法陣をデバイスに収まるサイズで書き直し、それをデバイスの魔力領域に焼き付けた。
「はい、これで完成、だよ」
「え、もう出来たの!?」
「うん。まだ試作版、だけどね」
完成したばかりの魔導具を手に乗せると、受け取ったノエルはキラキラした目で、その魔導具を食い入るように見つめた。
ちなみに、フィーアリーゼも魔術を習い始めた頃は、同じように興味津々で色々なことを師匠に聞いていた。
(私が最初に学んだのは、たしか……)
魔導具生産の報酬代わり、自分用としてもらったデバイスを一つ取って、そこに至ってシンプルな、灯りを付ける魔法陣を刻み込んだ。
「ノエルくん、このデバイスを持って、魔力を流し込んでごらん?」
「え、魔力を流し込むの? どうやって?」
「えっと……そのまま動かないでね」
ノエルの横に椅子を寄せ、フィーアリーゼは横から奥の肩に手を回す。そうして、びっくりするノエルに、自分の魔力を少しだけ流し込んだ。
「ふわぁ……なんか、魔女のお姉ちゃんの手から、暖かいなにかが流れ込んでくるよ?」
「それが魔力だよ。それを、デバイスの中に流そうとしてごらん?」
「えっと……えっと」
「大丈夫だから落ち着いて」
ノエルが魔力を動かせるように、軽く自分の魔力を使って後押しをする。最初はまったく魔力を動かせなかったノエルだが、ほどなく少しだけ魔力を動かすことに成功した。
そして、手に持っていた魔導具が淡い光を放つ。
「わっ、光った!」
「うん、よく出来たね。そのデバイスをプレゼントするから、一定の明るさを保ちつつ、出来るだけ長く光らせるように練習してごらん」
「え、もらって良いの?」
「うん。それが出来るようになったら、別の練習も教えてあげるね」
「わぁ、ありがとう。魔女のお姉ちゃん!」
ノエルは何度もお礼を言って、また来ると言い残して帰っていった。
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