第15話 近くて遠い距離
「先生は白い生地が良い? 赤い生地?」
「……白、ですね。」
『黒』への頼み事は許され、私はしばらく
地面を転がる
領域に持ち込まれた物資から色とりどりの布を散らかして——じゃなかった、思考を加速する事で内外差を埋める禁法について。
領域には常時誰かが滞在しなければならず、いかなる例外をも認めない。
そんなウソが
ビリ……「あっ。」
不穏な音が聞こえてきましたが、意識を向けず考えを巡らせます。
キツネさんの服を1日で作る、領域外で用事を済ませ戻る。3日はかかるでしょうか。
「せんせぇ……。」
あのね、キツネさん。見ないようにしているのだから、目の前に破いたロールを持ってこないで。
私の顔色を
「キツネさんは……」
「?」
どんな柄が良いのでしょうか、と
そして、キツネさんが外の世界を楽しむ間――
「せんせ?」
――考えても
貧困層は今も無地ですね。
「先生、白くなくても早い!」
「慣れですよ。はい、完成です。」
「にゃあ♪」
時折、キツネさんは猫のような声を発しますね。嬉しそうな尻尾も見ていて眼福です。
体に服を当て、こちらに笑顔を向けてくれるキツネさんを服ごと抱き締めます。
キツネさんに着替えてくるよう言い、背負い袋にいくつか役立つ物とメモを入れて封をして……よし。一つ『問いかけ』をしておきましょう。
「先生、どう?」
着替えたキツネさんが戻ってきました。町娘の恰好ですが髪や尻尾の手入れの差でしょうか、ちぐはぐな印象を与えそうです。
言葉に詰まっていると、少し不安そうな顔をしたキツネさんがシュンとしてしまいました。
もう少し見ていたい、とは誉め言葉でしょうか?
「かわいい……っ、コホン。キツネさんは、髪や尻尾を少し隠した方が良いかもしれませんね。」
「耳は、こうやって、畳んでも、跳ねちゃうよ?」
キツネ耳を何度も手で押さえる様が愛おしい。自然と緩む頬を隠すように首を振り、顔を引き締めます。
撫でようと手を伸ばすと、撫でやすいように
「わざと、ですね?」
「あ、バレちゃった。」
「キツネさんは好かれる性格ですからね。……とても似合っていますよ。」
ゆっくりと抱き締めると、キツネさんも私の背に手を回し、しばし抱き合いました。おそらく考えている事は異なるでしょうが。
「忘れ物はないですね?」と問うと、「あとは袋だけ。」と先ほどの背負い袋に駆けていきました。メモに気付いてはいない、ですね。
事務所に鍵を掛ける振りをして、鍵を
「先生、何だか楽しそう♪」
「そうですね、
「先生と、お買い物~♪」
キツネさんは、どんな生活を営むのでしょう。どんな出会いを経験するのでしょう。
悲しみに暮れる時、傍にいてくれる方を見つけられるでしょうか。
他愛もない話をして、領域の境界に近づきます。
私の鼻歌に合わせて、楽しそうなキツネさんを見ながら——
——キツネさんを領域外へと押し出す。
柔らかい背中、綺麗な髪、揺れるキツネ耳。表情は見えないけれど、待っていますから。領域をすり抜けていく少女が、こちらを見ようと首を回すも……外から内側は見えない。
……おかしいですね、視界がぼやけるなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます