第38話 期待

アリアとフォンティルは2人並んで走る。それに気づいた死の魔術師はファイアボールをこちらに向けて撃ってくる。それをアリアは腰に携えている黄金の剣で綺麗に核を斬る。これに関してはアリアの得意分野である。


横のフォンティルはというと、斬り損ない直撃してしまうが、見たところダメージはなくピンピンしている。さすがはレアゴールドで作った鎧だと感心する。2人はそうしながら少しずつ距離を詰めていく。


(我のファイアボールの核を捉えるか。 あの兵士は何者だ? それにあの全身が金の鎧、おそらく金装のだな)


ゼノはワクワクしていた。自分が撃つファイアボールはあまりの速さに誰も斬ることはできない。しかし、あの垢の鎧を基調とした兵士は何事もないように斬っているのだ。


「おもしろい、我が友がここに向かうように言った理由がようやくわかったぞ。 さあ、楽しもうか」


そう言うと約100個のファイアボールがアリアとフォンティルに向かって飛んでいく。それを斬って避けて距離を詰める。そして、残り300mを切った時更に魔法の数が増えるが、それをものともしない。


(いける…… この距離なら勝てる)


死の魔術師は3m程の岩の上にいるが、それは特に問題視しなくていいだろう。今となってはあの走る訓練がこんな形で活かされるとは思いもしなかった。しかし、100mを超えた時それは起こった。


死の魔術師の魔法の数は変わらないが、先程まで避けていた魔法は全て後ろから爆発のようなものが聞こえていた。しかし、今避けた魔法は聞こえなかった。嫌な予感がし、後ろを向くとそれは当たっていたということを悟る。


自分でもどうして考えなかったのかわからない。なぜ奴が死の魔導師ではなく魔術師と言われていたのか。後ろには100を超えるファイアボールが浮いていた。目の前には先程とは比べものにならないほどの1000を超える魔法が展開されていた。


「なんだ…… これ」


フォンティルはそれを見て驚愕の声を上げる。


(この数はまずい……)


今すぐ現実逃避したくなる。流石に数にも限度というものがあるだろう。奴にはそんなこと知らんと言わんばかりに大量の魔法を展開している。そんなこと有り得るのだろうか。残り50mというところでアリア達に大きな壁が立ちはだかった。


「我をここまで追い詰めるとはなかなかやるな」


岩の上から傲慢にも顔を出し、語りかけてくる。


「だが、ここで終わりだ。 残念だったな」


奴がそう言うと大量の魔法があらゆる方向からこちらに向かってくる。ここでもうダメかと思ったが、横にいるフォンティルが優しく話しかけてくる。


「僕も戦います、諦めないでください」


それを聞き、まだ負けるわけじゃないと改めて認識する。それに、勝たなければいけないのだと。アリアとフォンティルは示し合わせたように後ろを任せてファイアボールを斬っていく。


それは、もう無我夢中で一体いつ終わるのだろうと思うくらいだった。それを見たゼフの顔色が少し悪くなるのが見えた。更に数を増やすが、斬って斬って斬りまくる。そうしてるうちに魔法が止む。何事かと思っていると、後ろから矢が放たれゼフに当たるが、防御魔法で弾かれる。


そう、アリア達が注意を引きつけていたおかげで他の兵士が追いついたのだ。勝てる、そう思い近くの兵士から弓を借り、岩に隠れる。先程の防御魔法は強力なようで、弓矢や魔法を今も撃ち続けているがビクともしない。その間にも味方の兵士はやられていく。


しかし、アリアにはわかっていた。あの魔法を完璧じゃないと。


(あそこを攻撃すれば通る気がする)


それは死の魔術師の横腹付近である。奴は傲慢からか逃げようとしない。そこが狙い目だと思った。アリアはイヴからもらった小瓶の蓋を開け、矢に毒をつける。


狙いは1度、外せばおそらく気づかれるだろう。だけど、全く外す気がしない。弓に矢をセットするとじっくり狙う。死の魔術師は鎧を着ていないようで当たれば致命傷に、擦れば毒で殺せるだろう。そして、矢を離す。


みるみる内に矢は伸びていき狙い通り横腹の防御魔法にあたる。そして、弾かれることなく貫通する。

ゼノはそれに気づかなかったのかまともに刺さる。


「ぐっ、なぜ矢が刺さってる。 何故だ、何故バレた」


下に目をやると赤の鎧の兵士がこちらを見てニヤついている。


「お前か…… お前が」


そう怒鳴っていると視界が歪む。


(なんだこれは…… まさか毒……)


イヴが渡した毒は即効性だがそこまで症状はひどくはならない。だが、1度かかれば治すまでの期間が1ヶ月と長い。


ゼノはゼパールに言われた言葉を思い出す。確かに追撃したいが今はそちらを守ったほうが賢明という判断を下し、飛行魔法であっという間に彼方へ飛んで行った。


先程までの光景が嘘のように静かになる。そして、勝ったということを自覚した兵士達は歓声をあげる。その声は天高くまで響いた。アリア達がルミサンスに帰ると王国は帝国との停戦を発表した。

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