第37話 理不尽な強さ
アリア達は現在岩石地帯を歩いており、軍の外側でゲルネルツとフォンティルと話しながら進軍している。
「それにしてもあの金装を倒すなんてアリア下兵、フォンティル下兵…… おっと上兵でしたな。 すごいですな」
「私があの十帝の1人の金装を倒せたのはフォンティルさんがいたお陰です。 きっと私1人では倒せなかったでしょう」
「ぼ、僕こそアリアさんがいなければ倒せなかったです」
ゲルネルツはフォンティルの緊張気味な態度にちょっかいを出す。
「そういや、2人はどこまで進んだのでありますか?」
「進んだ?」
「わー、わー、なんでもないです。 アリアさんん気にしないでください」
フォンティルはゲルネルツを抑え、彼女に聞こえない場所に連れて行く。
「ちょっと困りますよ」
「あの態度を見てる限りまだみたいですな」
「はい……」
「仕方ありません、今回は黙っときますぞ。 なので、出来るだけ早く私に報告して欲しいであります」
「わかりました」
そう約束するとアリアの元に戻ってくる。
「気になっていましたが、アリア下兵もフォンティル上兵も装備は自由なのでありますね」
2人を見ると、アリアは赤の鎧を基調とした超軽装、フォンティルは全身金色の重装である。他の兵士はもちろん重装備である。
「はい、バルハード王師から直接許可をいただきましたので」
「僕もアリアさんと同じです」
「羨ましい限りですな」
話しながら進んでいるとこの軍の指揮を任されているルカスから敵の距離が後3km程であるということが伝えられる。これは事前情報とルカスが単眼鏡で見て出した数字なので間違いはない。
しかし、それならおかしいのだ。アリアはルカスが叫んだあたりから敵が攻撃してくるような予感がしてならない。それを伝えようとフォンティル達の方を向くと丁度ゲルネルツの顔にファイアボールがぶつかるところだった。
フォンティルはそれにいち早く気づき、自分の体でアリアを守る。その魔法は着弾すると爆発し、2、3人の兵士を吹っ飛ばした。それを見ているだけだったアリアは呆然とする。
「え…… ゲルネルツさん……」
ゲルネルツの上半身は吹っ飛び到底生きているとは思えない。その場に膝をつき動けないでいると2発目の魔法が別の場所に着弾する。フォンティルはそんなアリアを抱え近くの岩に隠れる。
他の兵士達も同じように隠れていくが、なかなか身動きが取れず、更に犠牲者を出す。全員が隠れるまでに推定100人の死者を出してしまった。
(私どうして…… もっと早く知らせておけばゲルネルツさんは死ななかった……)
アリアは頭を抱えて震えている。自分に罪を感じているのだろう。それを見たフォンティルは口を開く。
「アリアさん! しっかりしてください! あれはアリアさんのせいじゃないです!」
「でも…… 私はわかっていました。 距離が遠いから気のせいだと思いましたけど、わかっていたんです」
「それは仕方ないです。 それでも、罪を感じているならこの戦いに勝ちましょう。 僕達は1人の命を気にしている立場ではないんです」
「フォンティルさん……」
彼が言っていることは正しい。そして、変わったなと思った。何が彼をそこまで駆り立てているかはわからない。しかし、勝たなければいけない、そう考え立ち上がる。
「ありがとうございます。 フォンティルさん」
「いえ、僕も言い過ぎました。 勝ってインシュプロンさんの墓を作りましょう」
その言葉を聞いて根は優しい人のままだと再び認識する。そして、この怒りをぶつけるのは約3km先にいる化け物にぶつけることにする。
そうしていると各自持っている魔導通信機にノイズが流れ出す。その間にもファイアボールが隠れている岩に直撃し、削る。そして、ノイズがなくなると通信機の先から隊長の声が聞こえだした。
『全兵士に告ぐ、我々は現在を持って作戦を遂行する。 全員すまないが犠牲に、盾となれ。 そして、我々は死の魔術師を討ち勝利をもたらす! 作戦開始!』
それが切れると兵士達は雄叫びをあげながらファイアボールが飛んでくる方へ一斉に走り出す。アリアはフォンティルのそばを走り魔法で死んでいく兵士達の盾を見届けながらその煮えたぎる思いを抑え少しずつ死の魔術師に近づいていくのだった。
✳︎✳︎✳︎
「なかなかいい判断だ。 だが、所詮雑兵を集めただけの軍など意味をなさない」
ゼノは無慈悲にもファイアボールを敵兵に撃ち込んでいく。おそらく敵は肉の壁を使い近づくことでこの理不尽な攻撃は止むと思っているだろう。たしかに普通の魔導士ならそれがセオリーである。しかし、相手は最強の魔導士である。
「遠距離で戦っていた方がまだ勝てる見込みがあることを教えてやろう」
だが、よくよく考えると5kmまで魔法が届く魔導士に遠距離での対抗手段など存在しないことを思い出す。
(例え1万、2万と数を揃えたとしても我が屠ってみせよう。 そろそろ残り2kmというところか。 魔導士も少し減らしておくか)
ゼノは狙いを澄まして後方を走っている魔導士に当てる。もちろん1撃だ。そして、ここまでで400人しか殺せていないことで王国の兵士は少し希望を見出してきていた。
それはアリアとフォンティルも思い始めており、このまま勝てるんじゃないかと思わせるほどである。ただ、1点魔法というものは距離が離れるほど、威力を強くするほど、複数使うほど魔力を消費するのだが、全く魔力が尽きるとは思えないゼノに恐怖すら覚える。
「およそ後1kmです。 アリアさん」
「もう少しですね」
アリアはおかしいと思った。確かに魔導士にしては驚異的な強さである。しかし、5000人を1人で到底倒せるとは思えない。帝国の上層部は何を考えて彼を1人でここに向かわしたのだろうと考える。
しかし、いくら考えてもわからない。だが、次の瞬間それを理解する。ほとんどの兵士が困惑している。もちろん隣のフォンティルも。なぜなら死の魔術師の周りには無数の魔法陣が出現しファイアボールが出現していた。その数は悠に100を超えている。
アリアの感覚が危険と言っている。このまま進んではいけない。避けなければならないと。フォンティルの手を取り、近くの岩に隠れる。次の瞬間その判断は正しいと理解した。
何故なら先程よりも威力が増したファイアボールが絶え間なく流星群のように降っているのだ。1つで最低でも2、3人は死んでいる。他の兵士達も気づいたようですぐに近くの岩に隠れる。おそらく今の攻撃で2000人は死んだだろう。
(話には聞いてたけど、これは……)
「アリアさん、ありがとうございます。 これが死の魔術師ですか……」
王国の兵士は理解する。奴は遠距離に特化しているのではない。近距離を得意とし遠距離はただ攻撃が届いていただけなのだと。おそらく逃げることもできないだろう。攻撃は止んでいるが兵士達は誰1人として動けない。
「あの攻撃はどうやったら避けれるのかわからないです。 一体どうすれば……」
フォンティルも悩んでいるようだが、おそらく殆どの兵士が策を見出せないだろう。しかし、アリアには1つ危険だが、案が浮かんでいた。
「フォンティルさん、私に1ついい案が思い浮かびました。 おそらく危険ですけど、私達2人にしかできないことです」
「僕達2人にしかできないこと…… 大丈夫です。 危険なことでもここで勝たなければ死にます。 やりましょう。 どんな案か教えてください」
フォンティルがそう言うと、アリアはゆっくり口を開く。
「はい、おそらく魔法抵抗力の高い装備を持っているのは私達だけです。 なので、私達が魔法を斬って進んで行くのです」
魔法は中に核のようなものがあり、それをきちんと斬ることで魔法を破壊することができる。
「でも…… 僕の鎧なら耐えれるかもしれませんが、アリアさんは……」
おそらく無理だろうと言おうとしたが、口を押さえられる。
「大丈夫です、信じてください」
「わ、わかりました」
彼女を信じよう、そう思った。そして、もしもの時は自分が盾になるのだと。2人は立ち上がり作戦を開始した。
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