第34話 最強
通信機を切ったゼノは目の前に広がる広大な大地を見渡す。魔法で負けたことがない自分はいつライバルと言えるものに会えるのだろうか。ゼパールの指示で数々の敵を屠ってきたが、どれも足元にも及ばなかった。
「敵がいないなら、我が友の為に仁義を尽くす。 それが我が決めたことだ」
ゼノは桁違いの膨大な魔力によって使うことができる飛行魔法を使って聖国に飛んでいく。普通の者なら5分も持たない。それだけで彼がどれほど恐ろしい魔導士か理解できる。
1時間ほどすれば聖国の領内に侵入する。更に1時間経てば第6防衛ラインに着いてしまう。普通の魔道士からすれば驚異的なことだが、彼にとっては普通のことである。
未だに帝国の兵士が撤退の準備をしている。ゼノがあまりにも来るのが早いのだが、暇なので少し降りて話をすることにする。丁度降りるところに部隊全部の指揮を持つ軍師がいた。
「調子はどうだ? 軍師」
「こ、これはこれは帝師殿。 この度は如何なされましたのでしょうか?」
「なんだ、何も聞いてないのか?」
「はい、私が聞いたのはこの第6防衛ラインからの撤退だけでして……」
「そうか、これは言ってもいいかわからないが、今日聖国は地図から消える」
「どういうと、まさか……」
「そのまさかだ」
軍師はこれから起こる悲劇を想像し、聖国をかわいそうに思う。特に我々と前線をしていると思い込んでいるのに、帝国最強の兵士にして魔道士のゼフが相手になるのだから、例え1万人来ようが相手にならないだろう。
それにゼフの偉業は他国にはかなり少なくして伝えているので、現在ゼフは600人を1人で倒せる存在だと知られている。もちろんそれもすごいことだろう。ただ、600人程度では過小評価というところに恐怖すら感じる。
「帝師殿、相手は侮っているとは言え十分お気をつけてください」
「誰に向かって言ってる。 我が負けることなどない」
「そうでしたな」
軍師は高らかに笑う。それから30分もすればあれだけいた兵士もいなくなり、ゼノだけになった。
彼は聖国に近づき歩みを進めていくと、大きな岩があったので、それに乗りあたりを見渡す。
懐から単眼鏡を取り出し見てみると、数にして1500ほどの聖国の兵士達が迫ってきていた。
「このタイミングで攻めてくるか。 まあ、いいだろう。 まずは、軽い挨拶だ」
そう言ってゼノは集中する。これを行うことによって彼は5km先の敵すらも視認できる。常人が使えばただの宝の持ち腐れだったのかもしれない。しかし、彼にできないことはない。
手を前に出すと魔法陣がそこに浮かび上がる。そして、5秒後ファイアボールが発射される。聖国の兵士までの距離は3kmほどある。しかし、ゼノの魔法が届くまでわずか11秒しかかからなかった。
魔法は兵士達が避けることも、気づくこともできずに軽く爆発し、2人を仕留める。周りの兵士は攻撃を受けたことによりパニックに陥っている。
しかし、ゼノは更に追撃の一手を発射する。1人、また1人とやられていく。敵の慌てっぷりはまさに滑稽である。
「やはり、ただの作業か。 こんな場所で堂々と歩いているから悪いのだ」
ゼノは1発、更に1発と撃っていく。それに戸惑いはない。そもそもこの距離で自分の命を脅かす存在がいることすら珍しい。
敵は3割を切ったところでようやく捨て身でこちらに向かってくる。しかし、遅すぎた。その向かってくる敵に魔法が次々とあたり半分を切る。30分もしないうちに敵は撤退していく。
しかし、5kmまでなら正確に当てれるゼノの魔法は更に敵の死者を増やす。絶望に染まった叫び声がここまで聞こえてくるような気がした。しかし、敵に情けは無用。仲間であれ敵であれ殺さないという綺麗事は許されないのだ。
「我が貫くは祖国への想いではない。 我が友ゼパールへの感謝と忠義だ。 決して我を崩せると思うなよ」
魔法が降り注ぎ、聖国の兵士がゼノから5kmを超える頃には1割も兵士が残っていなかった。ゼノは攻撃をやめると少し疲れたのか座って休憩する。
「半日と言ったが、これならもっと早く終わるな」
そう言いながら追撃するように飛行魔法を使って追いかけていった。
✳︎✳︎✳︎
「どういうことだ!」
聖国先程の遠距離魔法によって部隊が壊滅したことにイラつき叫ぶ。
「くそ! どうしてこうなった。 私達は善戦していただろう」
叫ぶが誰も返事はしない。そして、次瞬間あのファイアボールが1人の兵士を包み込み爆発させた。それに恐怖し尻餅をついてしまう。他の残っている兵士も動けない。
「なんだ、戦意喪失してるじゃないか」
上から1人の魔導士が降りてくる。そのローブに包まれた男は顔だけ出しており、とても若く見えた。
「な、なんだ! 貴様は!」
「我か? 我はゼノ・インフィニティ、死の魔術師だ」
「死の魔術師だと……」
それは誰もが知っている帝国の化け物中の化け物の名前である。
「我がここに来た理由は簡単だ。 お前らにハンデをやろう」
そういうと聖国の兵士のど真ん中に降り立つ。
「どういうことだ……」
「かかってこいよ」
「うおらぁぁぁぁぁぁぁ」
ゼノがそう言うと1人の兵士が剣を抜き向かってくる。その攻撃は頭を捉えたかに思えた。しかし、謎の青いバリアのようなものに阻まれてしまう。
「言うのを忘れていたが、我は独自の開発した魔法の防御魔法を使わせてもらう」
そう言うと先程攻撃してきた兵士の頭をファイアボールで吹っ飛ばす。その時ここにいる兵士達は理解した。奴は遊んでいるだけだと。先程の超遠距離から撃ってきたファイアボールは逃げても無駄だということを示すためだと。
それを理解した聖国の兵士は立ち上がりゼノに向かいやられるもの。その場から逃走し撃ち抜かれるもねなど様々であり、結局最後の1人をやっても何も楽しくはなかった。
「結局は遊びだな。 我には傷1つつけられない。 これが現実だ」
そう言うとゼノは聖都を焼き払い降伏させた。その時間わずか2時間だった。そして、そのまま王国の岩石地帯に向かうのだった。
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