第33話 一息ついて

あれから王師の命令で45部隊はルミサンスに戻ることにした。取り敢えずはイヴも含めて。まさかとは思ったが、金装を倒すとは思わなかった。ルカスからの報告されたのは倒したのはアリアで最後まで健闘したのがフォンティルということである。


バルハードはそれを聞いた2日後45部隊と共に出発した。しかし、あの偵察で7人も生き残るとは思わなかった。生きてても2人だと勝手に思い込んでいた。今は王都アルミナスに到着し、自分の部屋でくつろいでいる。


「さて、仕事も一段落したな。 後は今日の会議で彼らの階級をどれだけ上げてやれるかだな」


彼らというのはルカス率いる45偵察部隊の7人であり、特にアリアとフォンティルの階級を上げてやりたいと思っていた。


(金装を倒したのは我々が勝利に1歩近づいたと考えていいだろう。 しかし、以前厳しいな。 なんとかしてこの状況を打破しなければいけないな)


すると、扉がノックされる。バルハードはそれに入るよう呼びかけると1人の若い兵士が入ってくる。


「失礼します!」


「用件はなんだ?」


「はい、現在帝国に潜入している隊士殿から重要な報告と第5防衛ラインの大隊長殿からの報告であります!」


「そうか、まずは帝国の方から聞こう」


「はい、帝国に潜入してる隊士殿の報告によりますと帝国が争っていた国の3つのうちの1つエレクサント聖国の首都が落とされ帝国に支配されました!」


「おかしくないか? 私が数日前に聞いた報告によると奴らにはまだ余力があってこんなすぐに落とされるはずがないと思うのだが?」


「はい! その点には理由がありまして、帝国は十帝の1人である死の魔術師を動かし、僅か1日で落とされたようです」


「な、なんだと⁉︎ それは真実か?」


「はい! 真実であります」


バルハードは驚き体を乗り上げて叫んでしまうが、すぐに落ちつきを取り戻し椅子に着く。


「そうか…… 真実か……」


(なぜ奴を動かした? あの国の動きが読めん。 死の魔術師は大帝国に当たっていたはずだぞ。 それなのにどうしてそんなリスクを負ってまで死の魔術師を他の戦場へ移したんだ?)


今のバルハードには考えてもわからない。 大帝国、かつてそんな国はなかった。しかし、どういう事情か帝国が2つに分かれ1つは大帝国、1つはそのまま帝国という国になり、長年争っている。そこに便乗して参加したのが王国と聖国である。


「それで、もう1つの大隊長からの報告とはなんだ?」


考えてもわからないことは今は放棄してとりあえず残りの報告を聞くことにする。


「はい、大隊長からは岩石地帯に配置していた魔導兵と弓兵が全滅したと報告を受けました」


「なんだと……」


バルハードは嫌な予感がした。当たって欲しくない。そう願いながら口を開く。


「理由を聞かしてもらってもいいかな?」


「はい、大隊長が仰るには1人に600人余りが殲滅されたと」


「死の魔術師か?」


「はい」


「そうか…… それは困ったことになったな……」


バルハードは頭を抱えて悩む。既に王国に猶予はない。確かに死の魔術師は強大だ。しかし、逆に言えば倒すことさえできれば戦争を終わらすことだって可能ということである。


「報告ご苦労、出て行きたまえ」


「はい、失礼します!」


兵士が出て行くとため息が漏れる。そして、即急に準備を始めだした。



✳︎✳︎✳︎



時は遡り、ベルムンド帝国の首都帝都バルザ。その街は非常に広く、綺麗である。特に王国とほとんど変わらないその国は1つだけ違うことがあった。 それは、階級に王師はなく、帝師である。その街に一際目立つ大きな建物があった。そこに1人の男が護衛を付けて長い廊下を歩いていた。


その服は赤と黒を基調とした王族が着ていてもおかしくない服で彼を兵士の1人とは思わせない。姿は赤髪で少し陽気な男性を思わせる。名前はゼパール・ヘルベルト、帝国に2人しかしか存在しない覇師の1人である。


そして、後ろに付き従う護衛の名前はガノ・デニル・ジルナフテスといい、帝国に存在する十帝の1人であり、階級は帝師である。しっかり髭を剃ったその顔は皺がくっきりと見えており、その白く染まった髪はかなり歳をとっていると思われた。服装はゼパールと似たような服を着ている。


「ガノ、最後に確認するが本当なんだね?」


「はい、儂に間違いはありませぬ。 金装のキルドが討たれたと彼の部下から報告がありました」


「そうか…… 少しあの国を侮ったかな? まさか、キルドを倒せる奴がいるなんてね」


「彼の国はここ5年程何もしていなかったので、仕方ありませね。 それに奴も十帝の器ではなかったということです」


「本当に残念だよ、これであのまま第5防衛ラインで王国を抑えるつもりだったけど、変更しなくちゃいけなくなったね」


「それでどうするおつもりですかな?」


「次やることは決まっている。 ガノは僕を守っていればいいよ」


「承知いたしました」


ゼパールは強ささえあれば多少の無礼な口調は許してしまう、そんな男である。僅か15歳の若さで覇師になってから13年現在もその力は衰えることはない。なぜ、その若さで彼が覇師になれたのか? それは彼が持つ帝国最大戦力の十帝を持っているからだろう。


少し豪華な扉の前に着くと、勢いよく開ける。中には長い机と沢山の椅子が並んでいた。そして、1人の60後半と思われる男とその護衛が後ろで佇んでいるだけだった。


「すまない遅れてしまったよ。 どれくらい待ってくれたのかな?」


「1分遅刻だ、何回も私は言っているだろう。 この話し合いには遅れるなと」


「本当にすまないね」


そう言いながら男の前の席に着く。この男の名はガデウス・ニグレド、階級は覇師である。その風貌はまさに覇王を彷彿させ、顎のヒゲは頭の髪と同じく長く白い。


「さて、始めよう。 早速だが、金装の件を聞かしてもらおうか」


「話が早いね、ニグレド覇師。 まあ、簡単に言うと彼は負けて死んだということさ」


「あの配置はヘルベルト覇師が決めたことでしたな。 この責任一体どうつけるつもりですかな」


「まあ、確かに予想外の戦力だよね。 ハハハ」


「笑ってすませる問題ではありませぬ! 帝国は大帝国という強大な敵を前にしているのですぞ! そんな中新たに王国という脅威が出てしまったら、聖国にも落としかねん!」


ゼパールは頬をかきながら少し考える。


「そうだね、だったら聖国消そっか」


ゼパールがあまりにもそこに出かけるような口調で言うので驚いてしまう。そして、それに反論するように口を開く。


「何を言っておりますか! そんな簡単なことではありませぬぞ!」


「たしかにそうだろうね。 でも、聖国は現在第7防衛ラインあるうちの第6防衛ラインで足止めしてるよね? 全然不可能じゃないと思うんだ」


「我々には戦力を割く余裕ありませぬぞ。 まさか……」


「そうだよ、大帝国も慎重になって攻めてきてないし、いっそのことおもいきろうと思ってさ。 十帝第1席ゼノ・インフィニティを聖国に向かわす」


それにガデウスは特に言うことはない。彼もまたゼノを使えば可能だと思っている。


「ちょっとゼノに連絡していい?」


「構いませぬ」


ゼパールは魔導通信機を取り出すとゼノに繋げようとする。ノイズが流れ時間が経ち、しばらくすると声が聞こえてくる。


『どうした、我が親愛なる友ゼパールよ』


「ゼノ少しいいかい?」


『構わぬが、この戦場は相手が攻めてこないから詰まらぬぞ』


「そんな君に朗報だよ。 ゼノにはそこから外れてもらって聖国と戦ってもらうことにしたよ」


『聖国? あそこはもう虫の息ではないか』


「こちらの事情で今すぐ滅ぼさなくちゃいけなくなってね。 なんたって王国の兵士に金装がやられちゃったからね。 手段は選ばない、君の好きなように滅ぼせ」


『ククク、やはりお前は面白い。 最高だ』


「1日でいけるかい?」


『半日もかからん』


「そうか、よかったよ。 聖国を滅ぼしたら王国の第5防衛ラインの岩石地帯に向かってくれ。 おそらくそこには500以上の王国のハエがいるから殲滅しても構わん」


『任せろ、我に敗北はない』


「そうか、よかったよ。 それで最後に聖国に配置してる兵は全て撤退させるから1人で戦うことになる。 それと、もし命に危険が迫ってきたら撤退しろ。 これは命令だよ」


『なんだ、そんなことか。 我はお前の為に戦おう。 最強の兵士になるために』


そう言うと通信は切れてしまう。


「本当に困ったやつだよ」


「インフィニティ帝師殿は強い。 おそらく最強でしょう。 でも、少し無茶ではありませぬか?」


「そうだね、彼は敗北を知らない。 だから、それをどんな形だとしても味わわせることで彼はリミッターを外して次の段階に進むことができる。 これは負けてもいい戦いなんだよ。 おそらく勝つだろうけどね」


ガデウスはその言葉に驚愕する。あれほどの強さを持つゼノを更に強くしようとしているのだ。誰でも耳を疑うだろう。それからは大帝国に関する作戦などを話し合い今日の会議は終了した。













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