第30話 想定外

アリアは複雑な道を風の如く駆ける。いつもよりすごく軽く感じ、心地よい。腰に携える剣は抜き鞘は捨てたものの多少の重さはあるだろう。だが、それを感じさせないスピードで走れているのはいつも重いと感じていた鎧を着ていただろう。


今なら先程まで勝てないと思っていた金装にも勝てる気がする。いや、負ける気がしない。障害物も沢山あり、避けれる。後は己の力を信じるのみである。


(恐怖を捨てろ、戸惑うな。 敵を全員殺さなければ生き残れない、守れない)


そう覚悟を決めていると2人の帝国の兵士が見えた。1人は気づいているが、もう1人は気づいてない。手には弓ではなくボウガンを持っており、腰には剣を携えている。


敵は首まで鎧で覆われており、ダメージを与えるには鎧の隙間か直接顔を狙わなければならない。首と顔の間には横にすれば剣が入るだろう小さい隙間が見受けられた。


(私にできる? いや、やるんだ)


相手のボウガンがこっちに向けられる。それを察知したアリアは背をかがみ避ける。敵はそれに驚くがその隙に間を詰め剣を眉間に突き刺す。


すぐに剣を抜くと血飛沫が上がりアリアに少しかかる。 そして、休むことなく次の敵に狙いを定める。 敵は驚き悲鳴をあげながらこちらにボウガンを向けるが気付いた時には既に同じようにアリアが突き刺していた。


(今まであんなに倒すのに苦労していたのに…… いける、私ならやれる)


剣をゆっくり抜くと血が血溜まりを作り出した。 そして、倒れている敵兵の2人が落としたボウガンを手に取る。それは見た目よりも想像以上に重く手にずっしりとくる。


(ボウガン…… この世界に来て初めて見た。 どうして今まで見なかったんだろう)


とりあえずは帝国が開発した新しい武器ということにする。敵が持っている矢筒を肩にかける。矢の本数は10本といったところだろうか。


(この武器を使えば、多少は楽に敵を殺せる。 すぐ近くに1人いる。 試してみよう)


敵を一瞬で倒したことによりまだバレていないがそれも時間の問題だろう。少し行った先にこちらに気づかず背中を見せている帝国の兵士を見つける。


弓矢をしっかりとセットし、照準を合わす。狙いを首に定め引き金を引くと強い衝撃がアリアを襲う。 敵にはしっかりと命中し軽く吹っ飛ばされて絶命していた。


(鎧も貫いている。 かなり強力な武器だけど重い)


アリアは木のそばにボウガンを置くと一息つくが、さっきの音からか敵が5人ほど近づいてくるのがわかった。


(剣でやらなければいけない。 剣を抜いてる時間はない。 確実に殺るために首を狙わなくちゃいけない。 頸動脈を斬ればすぐには死なないと思うけど、きっと反撃はできない。 だから、5人同時に相手できるはず)


アリアは唯一敵が通らない茂みに隠れる。おそらくこの場所を確認するよりも死体に驚くだろう。そこを狙い殲滅する。


足音が聞こえてくる。どんどん近づいてき、1人、2人と人数が増えていく。来た敵全員が全員驚きの声を上げている。5人揃うまでに時間はかからなかった。しばらく話し合い辺りに敵がいないかを探索するため少し離れていく。アリアはそれを見逃さなかった。


(やれる、今なら)


草むらから飛び出し、こちらに向いている敵兵の1人の首の隙間に斬り込むようにして剣を入れる。その剣はしっかりと隙間に入り、頸動脈をしっかりと斬ることができた。斬られた敵はその場に倒れ5秒後に死亡した。


(次の敵!)


アリアはすぐに飛び出す。敵兵はすでに気づいており、2人が剣、2人がボウガンを構えている。まずは、剣の兵士2人が振りかぶってくるが、1人は体をしなやかに動かし避け、1人は剣で受け流した。


敵が体勢を崩したところで同時とも言えるスピードで首に斬り込む。剣を持った兵士が倒れたことによりボウガンを持った兵士達は恐怖にかられる。


「この化け物が!」


その放たれた矢をアリアは躱し再び斬り倒す。残った最後の兵士は通信機を取り出しなにか喋ろうとしている。


「繋がれ、繋がれ、繫がれ!」


しかし、そんな思いも届かず眉間に剣を突き刺されて絶命した。やってみると案外あっさりだった。簡単だった。それに、久々に人を斬る感覚を味わえて感極まっている。


(敵は私より弱い。 もっと斬れる、殺せる)


そして、アリアは次の敵を殺すため森に足を踏み入れていった。敵の通信機が繋がっているとも知らずに……










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る