第27話 選出

この日朝早くからから45部隊の兵士達は集められた。特に戦いの予定などはなかったので一体どうしたんだと兵士達の心の中は不安で一杯だった。


「今日は大事な話がある! よく聞け!」


その声は静かな朝に大きく響く。大事な話と言われて兵士達に緊張が走る。


「先日この拠点に来てくださったグレンツェント王師様からお前らに森の偵察任務を授けてくださった! この任務には極めて慎重に行わなければならない! よって人数は30人で鎧は胸と手だけ装着する超軽装で行う!」


兵士達はその作戦に参加する者は死にに行く可能性が高いと感じる。まず人数が30人ということでバレてはいけない何かがいるのは確かである。それと鎧を最小限にする事で音をたてないようにするみたいだが、その分戦闘になった時に不利である。以下のような理由から兵士達は心の中で選ばれないように祈る。


「では、この任務に参加するものは私達で決めさせてもらった! 選ばれたものはすぐに用意をして出発する! まずは、フォンティル・ナータレフ・エルドナフ下兵」


「はい!」


(最悪だ…… どうしていつも僕なんだ……)


自分が不運であることを嘆く。隊長は次々と休みなく名前を挙げていく。どうか自分の名前を呼ばないでと祈るばかりである。もちろんそれはアリアも同じである。


(お願い…… 今でも手一杯なのにこれ以上は嫌)


アリアの目の前の兵士が返事をする。それに少し驚きビクつくが、まだ自分の列が終わってないので緊張が走る。


(あと少し、大丈夫。 フォンティルは強いからきっと1人でもなんとかなるはず。 その心配はいらない。 たった30人、選ばれる可能性は低い)


そう願っていると隣の兵士が大きく返事をする。


(次、次で決まる。 隣を呼ぶなんてきっとない。 大丈夫…… 大丈夫……)


そして、隊長がゆっくり口を開くとアリアの右方向から声が聞こえる。なんとか回避に成功して安堵する。


(よかった…… これで安心じゃないけど、休息の時間が増えた。 次の戦いはいつになるかわからないけどこの調子なら1週間は大丈夫なはず)


隊長は名前を読み上げていき、最後の列の最後尾の者が返事をする。選ばれなかった兵士達には安堵の表情が、選ばれた兵士達には絶望の表情を浮かべている。そんな中、隊長は口を開く。


「今ので29人選ばさしてもらった!」


「え?」


ついアリアは間抜けな声を上げてしまったが、そこまで大きくなかったので周りに聞かれずに済んだことに安堵すると同時に緊張が走る。


(どういうこと? 29人? 後1人選ばれるってこと? まずい…… ここで選ばれたら…… でも大丈夫、この中から1人なんて可能性はゼロに近いはず)


周りの選ばれていたない兵士達にも緊張が走る。そして、隊長はゆっくりと口を開いた。


「王師様が特別推薦枠としてアリア・ラ・エニエスタ下兵を選んでくださった。 おめでとう」


隊長は手を叩き祝福してくれる。それがアリアもバカにしてるようにしか見えない。周りの兵士も手を叩き祝福してくれている。正直逃げ出したい、泣きたい。だけど、兵士はそういうことをしてはいけない。だから、笑顔で答える。


「ありがとうございます! 精一杯頑張らさせてもらいます!」


(どうしてこうなった…… ただこの荒野で戦っておけばよかったはず。 それに今は安全な拠点で休憩したり見張ったりするだけでよかった。 なのに…… どうして……)


アリアが絶望にくれている中、先程の笑顔に再び心を打たれたフォンティルは最初とは打って変わってこの作戦を楽しみにしていた。もう既に彼の頭の中は危険なことだろうとアリアといれば楽しさが増してしまうほど一色に染まっていた。



✳︎✳︎✳︎



バルハードは自分の為だけに用意されたテントで溜まっている資料に目を通していた。彼自身王都から外に出たのは5年ぶりである。


王師になれば何か変わるそう信じていたが、そういうことはなかった。今の王国は腐っている。前線を経験していないものが上に立ち、命をかけて戦っている者のことを考えずに決定する。


王国は完全な王制ではないが、大体のことに王が決定を示す。王は安楽的でお人好し故に上に立つ器ではない。できれば戦争に関しては口を出さないで欲しいかった。その結果ルミサンスまでもう少しというところまで来てしまった。


だから、彼はやりたくなかった最終手段を用いた。沢山の才能を潰している王国に反旗をひるがえすように優秀な人材を探し、強制的に才能を開花させようとした。しかし、やはりと言うべきか今のところ成功していない。


(私はなんとしてもやり遂げなければならん。 王国には時間がないのだ。 たとえ何人死のうとも王国に足りない最強の個を生み出せれば良いのだ)


資料に目を通すスピードが早くなるが、ほとんど頭に入ってこない。自分がやらなければ終わる。今回の偵察の作戦だって無理やり十帝と戦わせて才能を無理やり引き出すのが理由だった。おそらくできないだろうと感じているが、できないでは許されないそんな状況がすぐそこまで迫っているのだ。


(それに今回は何も適当に選んだわけではない。 1人その可能性が見えるものがいる。 名前はアリア・ラ・エニエスタ。 学園で仲間を躊躇なく殺した兵士だが、私はこの兵士の動きに目をつけた。 急所を狙う正確性、仲間をも殺す非情さ。 そして、相手が反応できない俊敏性。 わざわざ罰を与えず、45部隊に配属してやったのだから頼むぞ)


バルハードはアリアの履歴が書いてある羊皮紙を手に取る。彼女は希望なのだ。たとえどんな化け物だろうと進むしかない。勝つには私自身が人をやめなければないと覚悟を決めていた。


「全てうまくいくといいが……」


そう呟いていると閉じていた暖簾を軽くめくって自分の身の回りの世話などをする為に連れてきた兵士がこちらに顔を出していた。


「グレンツェント王師様、少しいいでしょうか?」


「なんだ?」


「王師様と話したいという下兵がいるのですが、どうなさいますか?」


「無礼な奴だ、返せと言いたいとこだが、息抜きにでも話を聞いてみようじゃないか。 連れてこい」


「わかりました」


そう言うと暖簾を閉じる。


「許可が出た。 くれぐれも無礼が無いように気をつけろ」


「わかりました」


外から聞こえる声は男性にしては優しく女性にしては厳ついことであり、今はまだ判断がしにくい。


(おそらく男だろうな)


そして、暖簾を開けて入ってきたのは女性だったので少し驚いた。その女性が話しやすい位置に着くとバルハードは口を開く。


「まずは所属部隊と名前を言いたまえ」


「はい、45部隊所属のイヴ・サン・ローランです」


「それで何の用かね?」


「今回伺いましたのは、偵察作戦の件で御座います」


「任務のことだと? 何か不満でもあるのか?」


「はい、この任務は私の意見からすれば兵士を捨てるもので非常に危険だと推測できます」


その言葉に今まで全く興味を持たなかった彼の耳が初めて一言一句聞き逃さないように向けられる。


「兵士を捨てるだと? 一体何を根拠にそんな戯言を言ってるんだ?」


「戯言ではありません。 これにはしっかりとした理由があります」


「ほう、聞かせてみろ」


「はい、私は先程セルドウィン隊長から任務のことを初めて聞かされました。その時に極めて慎重に行わなければならないと仰ってました」


(馬鹿野郎が、余計なことを言いやがって)


「その時私は疑問に感じました。 何故ただの偵察に慎重にならなければと。 隊長はご丁寧に装備も超軽装を指定されました。 つまり、何者かに気づかれないように音立てないように慎重にする必要があると考えられます。 そして、超軽装はその何者かに見つかった時にげれるようにするためだと感じました」


(超軽装は私が指定したものか。 たしかにエニエスタ下兵をあわよくば逃がすために指定したものだが、それが裏目にでるとは……)


「ということは敵がいる。おそらく偵察部隊の人数では勝てない程に。 以下の理由から危険だと判断しました」


完璧だった、求めていた。戦闘の化け物を求めると同時にこういう知略が富んだ兵士も確保したいと考えていた。


「おもしろい、では仮に森に敵がいることがわかっていた場合お前ならどうする?」


「はい、その場合ですとおそらく余っている部隊があると思いますので、その部隊とこの拠点の兵士達で挟み撃ちを行います」


「どういった形でだ?」


「まず、この拠点の兵士達を囮でして向かわせある程度の数を引きつけます。 そして、その引きつけた敵を少し離れた別の場所から入った余っている部隊で挟み撃ちをします。 それを繰り返していき敵が出てこなくてなったところで全ての部隊で攻めます。 おそらくこれが1番安全かつ被害が少ないものだと考えています」


「いい作戦だ、私も同じように考えている。 最終手段は森を燃やすことだが、それはやりたくないからな」


森が複雑だからこそ可能な作戦なのだろう。進めば元の位置戻ることは体力的にも地形的にも難しい。それに、敵は離れた位置から森に入ってくるとは考えないと思った。だからこそ、効果てきめんなのかもしれない。


「いい人材だ、私の直属の部下になるというなら今回の作戦を教えてやってもいいぞ」


「それは、グレンツェント王師様が決めることであると考えます」


「たしかにそうだな。私が命令すれば1発だ。 しかし、私はお前の意思を尊重したい。 嫌なら嫌と言えばいい。 さあ、どうする?」


イヴの考えはもう纏まっていた。今のままでは何年経っても上へは行けない。だったら、王師という立場であるグレンツェントについていけばいいと。


「是非、お願いします」


「いい返事だ。 さて、私の部下になった印だ。 この国をどう思う。 私に本音を聞かせてくれぬか? この場で何を言っても罰すことはない」


「わかりました、私の意見からすればこの国は腐っています。 意味のわからない国の理念、女性を差別するというおかしな風習、国の危機を危機ともとらない者達。 全てがおかしいです」


「やはり、私の目に狂いはなかった。これから国を変えるため頑張ろうじゃないか」


「え、国を変えるですか?」


「驚くのも無理はない。 さて、今回の作戦だが、私が作ろうとしているのは最強の個だよ。 帝国の死の魔術師をも圧倒する最強の個を」


「グレンツェント王師、その考えには賛成ですが、やり方には反対です。 あまりにも無理矢理過ぎます」


「そう言ってられる状況かね? ローラン下兵」


その威圧にイヴは押されてしまう。


「やるしかない、それがなんであろうともな」


(アリア……)


イヴは既に出発したアリア達が無事に帰ってくることを願う。彼女達にこのことを伝えたかったが、それもできずに行ってしまった。自分には仲間を、友を信じるというのが足りないのかもしれない。だから、今は彼女達を思いっきり信じて待つことにした。



























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